そんな願望いりません! だけど……

 時間がないのは本当のようで、エジルは早口になってユウキを助ける方法を教えてくれた。


「このスキルを使いこなせればケルベロスくらいなら倒せるはずさ。それにお前にはあの剣があるだろう?」

「あの剣って、銀狼刀ぎんろうとうのこと?」

「そう、それだ。あれは武器として超一流の武器だからな。あれも使いこなせれば簡単だろう」


 使いこなすと言われてもそれは難しい。

 魔法に関しては勉強中のところがあるし、剣術に至っては論外だ。

 ここでも日本でもそんなことはやったことがない。


「そこでだ。君に提案がある」


 不敵に笑いながらエジルがとある提案を口にした。


「君の体を俺に貸してくれ。そうすれば俺が君の体を使ってケルベロスを倒してみせる。俺は剣術も得意にしているからな」

「いえ、それは結構です」

「そうだろう。それしか方法は……って、なんだとう!?」


 その提案を俺は即座に却下した。


「お前、あいつを助けたくないのか!」

「助けたいけど、そんなリスクの高い方法を取れるわけないだろう」

「リスク、だと?」

「リスク以外に何があるっていうんだよ。体を貸すってこと自体おかしな話だけど、貸したとしても助かる保証もないし、返してもらえる保証もないじゃないか」


 リスクマネジメントはしっかりとやらなければいけないのだ。

 それは普段の時も、こういうピンチの時こそである。

 もちろんリスクを承知で行動することも必要だろうが、それはやれることを全てやってからの話であってまだやれることはあるはずだ。


「だが、もう時間がないぞ? 残りの時間で君が解決策を用意出来なければ彼は殺される、それは確実だ」


 そんなことは言われなくても分かっている。だから考えているんじゃないか。

 スキルの効果が全て十倍になるなら最大火力で火の玉をぶつけるのはどうだろうか。

 いや、ダメだ。少し前ならまだしも、今はケルベロスの近くに動けないユウキがいるのだから炎の巻き添えにしてしまうかもしれない。それは他の魔法でも同様だろう。

 さらに毒の沼攻略も待っているのだ、ならばケルベロスを倒すのではなくユウキを助けた後に逃げる算段を立てるべきだ。

 森の心配なんかせずに、当初の予定通り時間稼ぎだけしておけばよかったよしみじみ思うよ。


「……スキル、十倍かぁ」


 ……なーるほど、いいこと思いついちゃった。


「ねえ、エジル。さっき僕に体を貸せって言ったよね?」

「言った。その方が手っ取り早いんでな」


 ……やっぱり。


「ってことはだよ、僕にエジルの知識を貸すってことも出来るよね?」

「……知識を、貸す?」

「スキルの使い方やユウキを助ける方法、それをエジルが思いついているなら、その知識を俺に貸してってこと。俺でもスキル十倍の効果は使えるわけだから、方法が分かれば俺が自ら動いても問題ないだろう?」

「そんな面倒臭いことするよりも俺に体を貸してくれた方が楽だと思うが?」

「それはそれ、これはこれ。俺の質問の答えになってないな。知識を貸せるのか、貸せないのか、どっちなんだ?」


 しばらく沈黙が続いた後、ふうっと溜息をついて一言。


「--出来るよ」

「ならそれが一番だな」

「だが、それを実行できるかどうかは君に掛かってくるけどいいのかい? 後から体を貸すと言われても助けられないよ?」

「そのあたりはご心配なく。イメージ力は高いもんで」


 ……主に別の世界の知識ですけど。


「……仕方ない。止めている時間を戻すから、俺は君の頭の中から話し掛けよう。その指示通りに動いてくれればケルベロスを倒すことが出来る」

「あー、倒さなくて大丈夫」

「……はい?」

「ユウキを助けて逃げる、それだけを考えてくれればいいよ」

「何で、せっかくの機会だぞ? 戦闘は楽しいぞ?」


 ……こいつ、俺の体で戦闘を堪能したかっただけじゃないか?


「ユウキの話だと援軍がもうすぐ到着するはずだからそっちに任せる。俺はユウキが助かればそれで問題ないからね」

「……つまらん」

「エジルのスキル効果の方がつまらん! 最初から十倍とか、ランク十と同じじゃないか! そんなのロマンがな--」

「はいはい、分かったから。時間が動き出すぞ、準備しろよー」


 ……こいつ、マジでムカつく。

 まあ時間がないのは事実みたいだし仕方ない。

 俺は自分のプランも頭の片隅に置いておきながら、エジルの知識を借りてさらに良いプランが捻り出せないか考えることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る