英雄の器、覚醒?
ユウキを中心にして毒の沼が広がると、俺の目の前まで毒の沼が形成された。
その中にはケルベロスも含まれており、四肢が毒の沼に浸かり絶叫を上げている。
煩いのだが今の俺に気にしてる余裕はない。陸地にいるとはいえ、ユウキが毒の沼のど真ん中に取り残されているからだ。
「ユウキ、大丈夫か!」
「……ジンとガーレッドは、逃げて」
「なっ!」
微かに聞こえる声量で逃げろと告げてくるユウキ。
俺はそんな指示に従うつもりなんてない。だが、助ける方法が思いつかないのも事実だ。
そんな時である、苦しんでいたケルベロスが近くにいるユウキを血走った眼で見つめたのは。
『グルルルルゥゥ、ハァハァハァ』
「……そうだ、こっちに来い」
「ダメだ、ユウキ!」
自分が囮になる気かよ!
ダメだ、それだけはダメだ。俺にできることは何かないのか、俺にあるのは魔法くらいだ、何か……何か!
(--た……てや……か?)
……ん? 何か、聞こえた?
(--助けてやろうか?)
……あー、まーた幻聴が聞こえてきたよ。今は幻聴とかいらないってのに。
(--言っとくが、幻聴じゃないぞ)
そうですか、それなら聞こえなくて結構です。考えの邪魔なので。
(--……いやいやいや、待て待て待て! 助けると言ってるではないか!)
……あん? 邪魔だって言ってるのが分からないのか?
(--あー、もう! とりあえず話を聞け、時間を止めるから!)
……時間を、止める?
謎の声が摩訶不思議なことを呟いた直後--。
--俺の意識は真っ白な世界にいた。
「……な、なんじゃこりゃ?」
「--はぁ、やっと落ち着いてくれたか」
さっきまで頭の中に聞こえていた声音が耳に届き俺は振り向く。
そこには金髪金眼の見るからにイケメンが立っていた。
「……あんた、誰? さっきの邪魔してた人?」
「いや、邪魔とか言わんでくれよ。助けてやろうとしてるんだからさ」
何こいつ、なんでそんな上から目線なの?
「俺はエジル・アーネスト。君が持つ英雄の器を以前に持っていた者だ」
「あー、そうですか、では失礼します。今忙しいもんで」
「いや、だから待てってば! 何でそんなにせっかちなんだよ。時間は止めていると言っただろう?」
時間を止めるって、そんなことできるわけないだろうに。
「めっちゃ疑ってるな。それじゃあ、これを見てみろ」
エジルとやらがそう言うと足元に先ほどの光景が映し出された。それも上から見下ろしたような映像だ。
「ユウキ!」
「だから安心しろ。今は時間が止まっているからケルベロスが動くことはない」
「……確かに、ケルベロスは動いていないようだが……それに、あれは俺とガーレッド?」
「意識だけを持ってきたからな」
「これをあんたがやったってのか?」
「その通り、すげぇだろ?」
……なんかいちいちムカつくなぁ。
「それで、俺に何の用があってこんなところに?」
「……お前、マジで俺の話聞いてなかったのかよ。お前とあいつを助けてやろうかって聞いてるんだよ」
「結構です。俺は俺のやり方で助ける方法を考えるんで。っていうか何でそんなに上から目線なんだ? それがまずムカつくんだけど」
「おいおい、いきなりムカつくってないだろ。それに、助けるには俺の力が必要だと思うがな」
「……どういうことだよ」
何でそんなに自信満々なんだろうか。それがまたムカつくんだけどな。
っていうかこいつどこにいたんだよ。あれだけの戦闘の中で森の中に潜んでいたってのか?
「俺はお前のスキル、英雄の器そのものだ」
「……は? お前、バカ?」
「バ、バカとはなんだ! バカとは! お前が俺をちゃんと使いこなさないから出てきたんだろう!」
……マジで何を言っているんだ、こいつは。
スキルが人間の姿をしてるわけないだろうに、仮にそんなスキルがあったとしてもこんな上から目線のスキルはいらん。
「英雄の器ってのは以前に持っていた人間の願望が能力になる。そもそもの能力ってのもあるが、それは二の次三の次で前所有者の願望が一番能力としては強力だな。そんで、俺の願望が具現化した能力が--スキルの十倍化だ」
それを聞いた俺は自然と叫んでしまった。
「あの鍛冶の成果は、お前のせいかーーっ!」
「えっ、何? なんで怒鳴られてるの?」
「お前の変な願望のせいで俺の作った作品は勝手に強力な武器になっちまったんだよ!」
「なんだ、良いことじゃないか」
「言いわけあるかあ! スキルを覚えて、積み重ねて、カンストして初めて最高の作品を作り上げることにこそロマンがあるっていうのに、お前のその変な願望のせいで俺の願いは崩れ去るところだったんだぞ! むしろ楽しみが一つ減ってるからすでに罪だ、罪!」
「な、何故だ! 強いんだからいいだろうに!」
こいつ、マジで言ってるのか。何も分かっていないじゃないか!
「ちょっと待て、お前にはまずスキルを育てるというところから講義しないといけないようだな」
「いや、君こそちょっと待て! 時間を止めてはいるが長い時間は無理だぞ! 彼を助けたいんだろう!」
……むっ、時間がないのか。
こいつには長い講義が必要になるし、仕方ないからそれは次の機会にしてやろう。
……待て、なんでお前はそんなに泣きそうな顔をしているんだ?
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