冬支度⑦

 三人は冒険者と冒険者ギルドの職員として、これからも長い付き合いになっていくだろう。

 だからこそ、三人お揃いのものを作ってあげたかった。


「ユウキは黄色、フローラさんはピンク色、ダリアさんは水色の素材で作った置物です」

「うわあっ!」

「とっても綺麗ですね!」

「本当だわ。これを見てるだけでも、なんだか心が癒されていくみたいよ」


 ふふふ、上々の反応を頂きましたよ!


「僕のが剣で、フローラさんのが杖、ダリアさんのは冒険者ギルドのエンブレムが中央に描かれているんだね」


 ユウキの言う通り、土台の上に丸く縁を作り、その中央にそれぞれをイメージした形で錬成を行った。

 全く同じだと芸がないので、基本の形は同じで中央部分だけを変えてみたのだ。


「……これ、中央を変えたら人気の置物になるんじゃないかしら」

「いやいや、販売するつもりとかありませんからね?」

「そう? それなら、ここが商人ギルドじゃなくてよかったわね」

「どういうことですか?」


 錬成物の置物ならどこにでもありそうなものだが、これの何が特別なのだろうか。


「まあ、錬成師の腕にもよって変わってくるからなんとも言えないんだけど、これだけ美しく綺麗に仕上げることができるなら専売でやらないかと声を掛けられていたでしょうね」

「僕、鍛冶師なんですけど?」

「だからよかったって言ってるのよ。物凄く付きまとわれていたと思うわよー?」


 うん、絶対に嫌だね。錬成だけに時間を取られるわけにはいかないのだよ。……ただ、この後の対応は要検討になりそうだ。


「ジンが作らないならカズチに提案してみたらどうだい?」

「あら、それならいいんじゃないの?」

「ですが、カズチ様は個人契約で忙しいのではないですか?」


 うーん、カズチも新しい商品を考えたいと言っていたけど、ここで僕が手助けをしてしまったら考える力が育たない気がするんだよな。

 ……うん、やっぱりすぐに伝えるのは止めておこう。


「カズチも自分で試行錯誤してるみたいだから、しばらくは黙っておくよ」

「そっか、その方がいいかもしれないね」


 ユウキも納得したのか笑顔でそう口にする。


「でも、こんな素晴らしいものを貰ってもいいのかしら?」

「そうですよね。私なんて、ジン様には助けてもらってばかりですし」

「貰ってくれないと魔法鞄の肥やしになっちゃうし、貰ってくれると嬉しいな」


 そこまで言うと、二人も満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。


「そうそう、実は僕もジンに渡すものがあるんだ」

「僕に?」


 首を傾げながらユウキが取り出したものをみる。

 それは以前もらったオリハルコンよりも大きく、そして七色に輝く美しい鉱石だった。


「あら、初めて見る鉱石ね。ユウキ君、これって何て言うのかしら?」

「実は僕にも分からないんです」

「「「……えっ?」」」


 三人から疑問の声を投げ掛けられ、ユウキは頭を掻きながら手に入れた経緯を教えてくれたのだが……うん、まあ予想通りである。


「ソラリアさんのお店で見つけて、ジンにプレゼントする為に取り置きしてもらってたんだ」

「ソラリアさんは名前とか言ってなかったの?」

「それが、ソラリアさんも分からないらしいんだ。見た目が綺麗だったから特別に仕入れたらしくて、どういった特徴を持っているかも分からないんだよね」

「……ねえ、ユウキ君。そんな出所の分からない素材をプレゼントしちゃっていいの? 危ないんじゃないの?」


 ダリアさんの言うことにも一理あるが、僕はこの素材がとても貴重で高品質な鉱石であると直感的に理解してしまった。


「……ううん、これは大丈夫です。むしろ、僕が錬成した置物よりも段違いで素晴らしい素材ですよ。これ、本当に貰ってもいいのかな?」


 尻込みするくらいに圧倒される迫力に僕はもう一度ユウキに聞き返す。


「もちろんだよ。これはジンの為に買った奴なんだからね」


 そして、ユウキは当然だと言わんばかりに笑みを浮かべながらそう口にした。


「ありがとう、ユウキ! よーし、オリハルコンもまだ触ってなかったし、来年はこれとオリハルコンを使ってユウキにまた剣を――」

「いやいやいやいや! ブレイブソードもあるし今の僕にはもう剣は必要ないよ!」

「でも、これを使えば絶対にもっと良い剣ができるって! 唯一無二の素晴らしい剣が――」

「本当にいらないからね! 必要になったらちゃんと僕から依頼するから、その時にお願いするからね!」


 最後は僕とユウキの言い合いとなり、その様子を眺めていたフローラさんとダリアさんは顔を見合わせながら笑っていた。

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