二日目の終わり

 霊獣契約が完了した時には既に日も落ちていたので、リューネさんはきっちり晩ご飯を食べてから帰っていった。

 僕たちも晩ご飯を食堂で食べたのだが、棟梁と副棟梁がおり、さらにガーレッドまで加わった集団に周囲は異様な視線を向けている。


「--あれって霊獣だよな?」

「--カズチにルルに……あれ誰だ?」

「--噂になってた新人?」


 と言った声がちらほら聞こえてくるのでご飯も喉を通らない。

 それは僕だけではなくカズチやルルも同じようだ。

 ただ、ゾラさんやソニンさんは気にならないようで黙々とご飯を食べている。


「こうなることは分かっていたからの」

「心構えの問題ですよ」


 そう言われてもさすがに無理である。

 だが、この時間に食堂に来たのには理由があった。

 その理由のために食堂にはほとんどのクランメンバーが集まっていたのだ。

 食事を終えたゾラさんがおもむろに立ち上がると、突然口を開いた。


「あー、皆聞いてくれー。気づいている奴もいると思うが、『神の槌』に新しいメンバーが加入したから紹介したいと思う。小僧、立て」

「あっ、はーい」


 言われて立ち上がった僕に視線が集中する。

 少し緊張しながらも、ゾラさんが視線で促すので自己紹介することにした。


「えっと、ジン・コープスです、鍛冶見習いとして頑張りますのでよろしくお願いします」


 --パチパチパチパチ。


「それと、この子は霊獣のガーレッドです」

「ピキャー」


 --パチパチパチパチ!


 ……僕の時より拍手が多いのは気のせいでしょうか?

 別にいいけどね、可愛いは正義だもんね。


「小僧に関しては儂が拾ってきたこともあり、そのまま儂の弟子になる。初心者じゃが有望なので、皆からも教えてやってくれ」


 再びざわつく。

 これがカズチの言っていたことだろう。ゾラさんの弟子って今までいなかったみたいだし、さらに錬成の師匠がソニンさんだってなったらさらにざわつくか、怒号が飛ぶんじゃなかろうか。


「それと、錬成に関しても学びたいようなのでそこはソニンの弟子となる。とは言っても、カズチが習っていることを横で聞いてるだけではあるがな」


 そうなの? と考えていると、カズチがこちらを向きながら人差し指を口に当てている。

 ……なるほど、そういうことにしておくのか。そうじゃないと本当に怒号が飛び交うかもしれないもんね。

 ゾラさんの思惑通り、見習いたちは僕が鍛冶だけを習い、錬成は鍛冶のためのオマケ程度に考えているようだ。


「明日は小僧と少し出かけるので、皆は精進するようにの」

「「「「はい!」」」」


 完璧に揃った返事を聞くと、ゾラさんは満足そうに笑って席に着いたので僕もそれに倣う。


「あのー、明日ってどこに行くんですか?」

「明日は魔法の練習で外に行く。鍛冶をするにも錬成をするにも、魔法の使い方が分からんとどうしようもないからの」

「そっか。全属性持ちでも使えなければ宝の持ち腐れですもんね」


 僕はまだこの世界に来て二日だ。

 よくよく考えればあまりにも内容の濃い二日間だったと思う。

 ただやりたいことを追いかけるだけでは何もできない、自分にできることを見つけてどうしたらできるようになるのか考えないと。

 今はゾラさんが示してくれるけど、今後どうなるかなんて分からないもんね。

 今のうちにやれることを増やしていかなきゃ。


「明日もよろしくお願いします」

「うむ、素直でよろしい」

「副棟梁、俺もジンについて行っていいですか?」

「カズチ来るの?」

「いや、お前だけだと心配なんだよ」


 おやおや、照れながら言われるとこっちも恥ずかしくなるではないか。

 ソニンさんも微笑ましく見ているぞ。


「いいですよ。私は皆を見なければならないので行けませんが、ゾラ様もそれでよろしいでしょうか」

「構わん。一人も二人も変わらんからな」

「……と、棟梁?」


 ここで声を出したのは意外にもルルだった。

 怯えているのか、少しビクビクしているがルルは勇気を持って口を開いた。


「れ、練習って、何時から、始めるのですか?」

「朝からのつもりじゃが、どうした?」


 朝からと聞いて俯いてしまったルル。

 その様子からルルも一緒に行きたかったのかなぁと考えてしまう。

 そんなルルを見ていたのか、こちらに近づいてきたミーシュさんがルルの肩に手を置いた。


「行ってきな」

「りょ、料理長! でも、朝は仕込みとかで忙しくなるし、人手だって--」

「構やしないよ。元々はあたい一人で回していたんだ、今は他の奴もいるし、あんた一人が抜けたくらいでどーってことないよ!」


 笑いながら断言するミーシュさんにぽかんとしたままのルルだったが、意を決してゾラさんに向き直った。


「わ、私も、練習に付き合います! 魔法なら、私も教えてあげられるから!」

「それは助かるわい。やはり、専門職が教えてくれた方が分かりやすいだろうしの」


 んっ? ルルって料理人見習いだよね、専門職ってなんのこと?


「それじゃあ、明日は三の鐘に儂の部屋に集合じゃ、いいな?」

「「「はーい!」」」


 食事を終えた後、僕はカズチと一緒に男子寮へ向かっている時に重大なことに気づいた。


「あー、カズチ、明日の朝なんだけど、鍵を開けとくから迎えに来てくれないかな」

「なんだお前、朝に弱いのか?」

「そういうわけじゃないんだけど……三の鐘って、何時なの?」

「……はぁ?」


 この世界の時間軸が全く分かりませんでした。


「三の鐘って言ったら、日が出てから三回目の鐘の時じゃねえか」

「それが分からないんだよねー」

「……分かったよ、二の鐘に起こしに来るから寝る前に出かける準備しておけよ」

「準備ねぇ……分かったー」


 とりあえず返事をしてからカズチとも別れて部屋へと戻る。すると、机の上に洋服が数着畳まれた状態で置かれていた。

 洋服の上には一枚の紙が置かれている。


『洋服と歴史の本が用意出来ました。ホームズ』


 ホームズさん、なんて優しいんだ!

 それに明日は外に出かけるからナイスタイミングだよ!

 僕は洋服を眺めながら、一番下に歴史の本が置かれていることに気づいた。


「そういえば、字読めたね」


 それが分かっただけでもありがたい。

 これからは時間を見て本を読んで勉強もしなければ。


「ピキュー?」

「もちろん、ガーレッドとも遊ぶからね」

「ピッキュキュー!」


 そう、今の僕にはやることがたくさんある。

 生産の勉強もそうだけど、今日からはガーレッドの親なのだ。

 軽く体を流した後、ガーレッドを抱き上げてベッドに横になる。


「これからよろしくね、ガーレッド」

「ピキャー……」

「ふふ、お休みなさい」

「ピ……キャー……」


 先に眠りに落ちたガーレッドを撫でながら、僕もゆっくりと眠りについた。

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