閑話 ソニン・ケヒート

 コープスくんがクランに加入した翌日、私はクラン内の案内をカズチにお願いすることにしました。

 ですが、彼は何故だか頑なに断ってきたのです。


「何で俺が新入りの面倒を見ないといけないんですか!」

「言うことを聞きなさい! あなたも同じように先輩に案内されたでしょう!」

「時間が勿体無いじゃないですか!」


 あぁもう! 今まではこんなわがまま言わなかったのに!

 私とカズチが言い合いながら歩いていると、声が聞こえたのかドアを開けてコープスくんが出てきてくれました。

 カズチのことも覚えてくれていたみたいで、上手く話を持っていってくれました。

 ……私よりカズチの扱いが上手い気がします。

 でも、とりあえずカズチがコープスくんの案内を引き受けてくれたので助かりました。


 二人と別れた私はすぐに錬成場に向かって見習いたちの指導を行います。

 そうは言っても錬成師は鍛冶師と比べて人数は少ないので忙しいわけではありません。ただ、指導できる人間も少ないので指導の持ち回りがあるのです。

 私は昨日まで出張に出ていたので、他の人はお休みとなり私の指導日になりました。

 本音を言うと一日くらいは休みたかったのですが、そうも言っていられないのが錬成師の現状なのです。

 早い時間から指導の見回りを行いながら時折見習いに助言をしていると、鍛冶場の見学を終えたカズチとコープスくんがやってきました。


「カズチにコープスくん、また会いましたね」

「こんにちは、副棟梁」

「錬成場、凄い緊張感ですね」

「うふふ、最初はそう思うものです。集中したら分からなくなりますよ」


 こういう会話は仕事の合間に嬉しいものです。

 見習いたちは緊張しているのか気軽に話しかけてくれませんから。

 カズチももう少し砕けて話してくれてもいいんですけどね。

 ……コープスくんは砕け過ぎですけど。

 しかし、コープスくんは本当にカズチの扱いが上手だと思います。

 今も錬成のことでカズチに教えてもらえるよう丸め込んでしまいました。

 本当は私がコープスくんの錬成の師匠になるけれど黙っておきましょう。その方が面白そうです。

 それにしても、二人が仲良くなってくれて本当に嬉しい限りですね。


「そうそう、カズチが錬成した銀を見てほしいって言ってましたよ」

「そういえば、昨日も見れていなかったわね。カズチ、今持っているのかしら?」

「あっ! は、はい、持ってます!」


 ……忘れていました。

 もしかして、朝もこれが原因で怒っていたのかしら?

 何気ない顔でカズチから銀を受け取ります。


 ……ふむふむ……ほうほう……これはこれは……。


「素晴らしいわね、よくできました」

「……あ、ありがとうございます!」


 お世辞なしで十分な出来栄えでした。

 カズチの嬉しそうな顔を見て、忘れていたことに少し罪悪感はありましたが言わないでおきましょう。


 この後、二人は食堂に向かうと言って錬成場を離れていきました。

 ……少し寂しいです、みんなも気安く話し掛けてくれていいのですよ?

 そんなことを想いながら午前中の指導が終わりました。

 私は急いで食堂に向かいましたが、二人は食堂を後にしていました……悔しいです。


「あっ、ケヒート様! こんにちは!」

「こんにちは、ルルさん」


 パタパタと忙しそうにしていたルルさんと軽く挨拶を交わして食事にします。

 今日は野菜をメインにした健康食を頼むことにしました……王都ではこってりした食事ばかりでしたからね。

 鍛冶見習いたちが食事を終え錬成師見習いが食事を終えても、私はゆっくりと食事をとります。

 やはりミーシュさんの料理は美味しいですね、私にはここの料理が合っていますよ。


「ごちそうさまでした。今日も美味しかったです、ミーシュさん」

「おっ、嬉しいことを言ってくれるね。そんなことを言ってくれたのは見習いの坊ちゃんを入れて二人目だよ」

「見習いの、坊ちゃん?」

「ジンって言ってたね、ソニン様なら知っているだろう?」


 コープスくんはここでも良い人間関係を築いているようですね。


「ルルとも話してくれたし、友達が増えたって喜んでいたよ」


 見習いは数多くいますが、カズチやルルさんと同年代の人は他にいませんでしたから、コープスくんの加入はクランにとっても有意義なものになりそうですね。


 そのまま食堂を後にした私はゾラ様の部屋に向かいます。私室とは別に作られた、ゾラ様専用の鍛冶と錬成の部屋です。

 鍛冶を見せると言っていたので、ちょうど良い時間になるでしょう。

 到着した私は、予想通りだったことに内心で喜びました。

 しかし何故でしょう、二人の表情がおかしいです。


「どうしたのですか?」

「……万能人間二号」

「……副棟梁、すげぇ」


 ……その反応は予想外です!

 ま、まあ、話の流れを聞いて納得しましたけど、万能人間二号は酷い気がします。きっと、一号はゾラ様ですし。

 とりあえず、魔導スキルにニヤニヤしているコープスくんに釘を刺してから錬成について説明を始めましょう……案の定の反応でしたね。

 錬成について説明した後、私は実際に錬成をしてみせました。

 一度は間近で見てもらうことも重要ですから。


「何で銅だったんですかー!」

「えぇっ!」


 途中、自信満々に言った発言にひどく恥ずかしさを感じてしまいましたが気にしません……えぇ、気にしていませんとも!

 とりあえず出来上がった銅を見て魔法の使い方が分からないような表情でしたから、錬成でも鍛冶でも必要な魔法の使い方から覚えてもらうのが先かもしれませんね。

 ですが、まずはカズチの錬成も見てもらいましょう。

 リースについても軽く説明できるでしょうし。


 --ですが、予想外の出来事が起きました。


『--ピィギヤアアアアァァァァッ!』


 謎の鳴き声が錬成部屋に響き渡りました。

 何が起こったのか全く分からない中、何故だかコープスくんだけは冷静だったことに驚きました。

 そして、鳴き声の正体が姿を現した時はあまりの可愛さに声が出ませんでしたよ。

 私はこの子を見てすぐにポチという名前を思いついたのですが、即答で却下されてしまいました。

 ……何故でしょう、私にはさっぱり分かりません。とても良い名前だと思ったのですが。

 この子の名前がガーレッドと決まり、ルルのおかげで霊獣だと判明したのはとても良かったと思います。

 これでルルも一歩前に進めたら良いのですが。

 それにしてもコープスくんには困ったものです。普通なら隠すべきオリジナルスキルに関してを簡単にバラしてしまうのですから。

 魔導スキルに関してもすぐに手を出そうとするなんて、これは近々もう一度釘を刺さなければなりませんね。


 しかしリューネさんは朝からここにいたみたいですが仕事は大丈夫なのでしょうか?

 今日は助かりましたけど、普段は迷惑なので止めていただきたいものです。

 食堂でもコープスくんの紹介まで居座ろうとしていましたしね。

 さっさと帰してからコープスくんの紹介も終わり、明日の予定が決まりました。

 本当は私もゾラ様たちと行きたかったのですが、見習いの指導が明日も入っているので行けません。

 ……錬成師の指導担当も増やすべきだと思います。今度ゾラ様とザリウスさんに進言してみましょう。


 部屋に戻った私は、そんなことを決意してから眠りにつきました。

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