ソニンの魔導陣
見た目には何も持っていない状態で戻ってきた僕たちだが、
もちろんその通りだ。だが、その量に関しては全員の予想をはるかに上回っていたようだ。
「……コープス君、あなたねぇ」
「……ジン、さすがにこれはちょっと」
「……これがジン様なのですね」
「……えっ、なんでみんな当たり前みたいにツッコんでるの?」
僕との付き合いが短いマリベルさんだけが困惑している。
というか、フローラさんはもう慣れてきたみたいですねー。これが僕だって言っちゃってるんだもの。
「量に関しては僕ではなくてグリノワさんに講義してください。僕はただ出てきた鉱石を魔法鞄に入れていっただけですからねー」
「儂もこの量には驚かされたが、廃坑なのだから問題ないて。いい小遣い稼ぎにもなったのではないか?」
「そういえば、ジンはそんなことも言ってたね」
ユウキは苦笑しながらそう口にする。
確かにお小遣い稼ぎも大事だが、今はそれ以上に大事なことがあるのだ。
「ソニンさん、このヒューゴログスに風属性を付与しながら錬成していただくことは可能ですか?」
「可能ですよ。ですが、ヒューゴログスがこれだけ出てくるとは、ここは本当に廃坑なのですか?」
「おそらく、確認に訪れた担当者が無能だったんじゃろう。ラドワニに戻ったら冒険者ギルドにでも伝えておくか」
「なんでも冒険者ギルドでいいんですか?」
「ガハハハッ! ギルドから誰かしらドワーフに調査依頼が出されるじゃろうよ!」
僕の疑問にグリノワさんは笑いながら答えてくれた。
「さて、それでは魔導陣から描きましょうか」
そう言ってソニンさんの魔法鞄から取り出されたのは魔導陣を描く為のインクと筆。
外出先で描くことなんてほとんどないだろうに、ちゃんと準備しているあたりは抜け目ないと言うべきか、なんと言うべきか。
僕が見たことのある魔導陣はユウキの指示でルルが描いた火属性、王都から戻ってきてカズチが錬成した水属性。
今回ソニンさんが描くのは風属性の魔導陣だが、その階位はどの程度のものなのか。
「下位の魔導陣ですか?」
「私がその程度のものを描くと思いますか?」
「ですよねー。それじゃあ中位や上位?」
「うふふ、上位の魔導陣です。さすがに最上位の魔導陣は描けないので申し訳ないのですが」
「じょ、じょじょじょ上位の魔導陣ですか!?」
僕とソニンさんのやり取りに一番の驚きを見せたのはユウキである。
まあ、そうなると思っていたけどね。
「上位付与がされたソニン様の錬成素材、それをジンが鍛冶するって……ちょっと待って、それって、相当位の高い武器が出来上がっちゃうんじゃ……!」
あぁ、今からガタガタ震え出しているけど、今さら止まることはできないよ。
僕の鍛冶熱は燃え上がっているのだから!
「それではソニンさん、お願いします!」
「はい。コープス君はユウキ君と少し離れていてください――邪魔をされそうですから」
「ちょっとソニン様! さすがに上位魔導陣はやり過ぎでは!」
「はいはーい、ユウキはこっちねー。フローラさんも来ますか?」
「あの、えっと……は、はい」
「フローラさん、ソニン様を止めて! 僕が持つには分不相応だからー!」
なぜだか泣きそうになっているユウキの首根っこを掴んで引きずっていく。
フローラさんは僕たちとソニンさんを交互に見ながらもこちらに来てくれた。
うんうん、それでこそユウキのパーティだよ。装備を整えるのは大事なことだからね!
野営地を少し離れたところで落ち着きを取り戻したのか、ユウキは大きな溜息をつきながら近場の岩に腰掛けた。
「もう、ユウキ。前にも言ったけど装備を整えるのは冒険者として当然のことなんだから、貰えるものは貰っとかないとダメだよ?」
「そ、それはそうなんだけど、僕みたいな下級冒険者が超一級品の武器を腰に差していたら色々と問題があるんだよー」
「大丈夫だって。ヴォルドさんも言っていたけど、ユウキって他の冒険者からの評判も良いみたいだし、冒険者ギルドとも良好な関係を築けているんだからね。何か問題があったとしても助けてくれるよ」
「……それって、問題が起こる前提で話をしているよね」
「大丈夫、大丈夫。それに、ユウキの実力はすでに中級冒険者以上だってマリベルさんは言っていたし、グリノワさんも中級にはすぐに上がれるだろうって言っていたよ」
僕の言葉にユウキは俯いていた顔を上げて僕の方を向いた。
「それに、今のユウキは一人じゃないだろう?」
「そ、そうですよ、ユウキ様! 私ではそこまで力にはなれないでしょうけど、私も何かお役に立てることがあれば頑張ります!」
「フローラさん……そっか、そうだね。僕が自分のこだわりに固執して武器を受け取らなかったら、巡り巡ってフローラさんを危険な目に遭わせる可能性が出てくるんだったよ」
「あの、えっと、私が言いたいのはそうではなくて!」
むふふ、予想外の展開ではあったものの、ユウキが受け取ってくれる決意を固めてくれたのは好都合だ。
これは、ヒューゴログスの鍛冶が楽しみになってきたよ!
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