初めての採掘

 僕はグリノワさんが目を付けていた岩壁に二人で向かう。

 とは言っても野営地から目と鼻の先にあったので岩壁の前からでもソニンさんたちが見えている。

 さて、この岩壁だが坑道は掘られていない。

 何をどう見てグリノワさんが目を付けたのか僕にはさっぱり分からないが、この状況からどうやって鉱石を採掘するのか気になるところだ。


「では、始めるかのう」

「一気に穴を掘るんですか?」

「何を言っている。そんなことをしたら鉱石が砕けてしまうし、何よりこの山が崩れてしまうわい」

「それじゃあ、じっくり掘り進めるんですか?」

「それでは時間が足りないのう」


 うーん、だったらどうするのだろうか。


「こういう時こそ魔法じゃよ。土属性で山が崩れないように強固に固め、そのうえで掘り進めていく」

「掘るのも魔法ですか?」

「当然じゃな。土を固める魔法と、掘り進める魔法を同時に発動するのじゃ」

「同時に発動ですか。二属性を併用して使うみたいなものですか?」


 僕の質問にグリノワさんは目を丸くしてこちらを見ている。

 あれ、何か変なことでも言っただろうか。そういうことじゃないのかな。


「一属性の効果を二つ以上発動するのはそれほど難しくはないが、二属性以上の魔法を併用して発動するのは、また別の話じゃぞ」

「そうなんですか?」

「……ジン、まさか併用魔法を使えるのか?」

「はい。ユウキがあれは併用魔法だって言っていたのでそうだと思います」


 僕の答えにグリノワさんは呆れたような表情でまじまじとこちらを見ている。


「……な、なんでしょうか?」

「……併用魔法の凄さを知らんとは、無知とは怖いのう」

「軽くディスりましたか?」

「ディスる? よく分からんが、今は置いておくか。まずはユウキの為に鉱石を確保することが優先じゃからのう」

「そうですね! そうしましょう!」


 変な追及をされても僕は併用魔法がどれほど凄いのかをよく分かっていない。

 ユウキからは王都の魔導師でもできる人は少ないと聞いているが、情報としてはそれくらいなのだ。


「そうじゃのう……ふーむ……この辺りか……」


 グリノワさんは岩壁に手を当てながらそのようなことをぶつぶつと呟いている。

 真似をして僕も手を当ててみたのだが、ただザラザラの手触りを感じるだけで何も分からない。

 一番最初は岩壁を眺めながら呟きを漏らしていたので少し離れて見つめてみたのだが……うん、やっぱり分らん。


「何か分かるんですか?」

「これはドワーフの種族特性みたいのものじゃが、鉱石の呼吸が感じ取れるのじゃ」

「種族特性って、ガルさんの鼻がいいのと似たようなものですか?」

「そうじゃのう。ゾラ様は儂なんかよりもより深くに眠る鉱石の呼吸を感じ取れるぞ」


 さすがドワーフと言ったところだ。

 しかし、獣人やドワーフに種族特性があるように、人間にもそういったものはないのだろうか。

 ……ないだろうなぁ。今のところ、特別なことなんて何にもないんだもの。

 ……いや、英雄の器のせいで特別なことがあり過ぎて気づいていないということも考えられるかな?


「よし、それじゃあここを掘るぞ。まずはここの周囲の土を固める」


 両手を岩壁に当てたグリノワさんが目を閉じて土属性の魔力を注いでいく。

 すると、見た目には何も変わっていないのだが岩壁の中からガチガチと何かが固まっていくような音が聞こえてきた。


「おぉ、なんか凄いですね。ここが突然割れて中から巨大生物が出てくるとかありそうですよ!」

「……ジン、何を言っておるんじゃ?」


 おっと、自然と妄想が広がってしまったようだ。

 あはは、と苦笑を浮かべるに止めてグリノワさんの作業に集中する。

 僕の様子に溜息をついたグリノワさんだったが、作業の手を止めることなく次の段階へと進んだ。


「今はこの部分の土を固めている。内側の部分は逆に柔らかくなっているので、そこを掘り起こしていくぞ」


 右手で固めた部分と掘り起こす部分をなぞり教えてくれると、その後からは早かった。

 柔らかくなった内側の土が、まるで雪崩かというくらいの勢いで土がこちら側に零れてきたのだ。


「うわあっ! こ、これって正解なんですか!?」

「問題ない。柔らかくしているのは土だけじゃからのう。鉱石があれば形そのままに転がってくるわい」

「こ、転がってくるって……あれ?」


 そう言われて何となく土の方へ視線を向けた僕は、茶色い土砂の中で輝きを放つ一つの塊を見つけた。


「……お、おぉ、本当に転がってきましたね」

「ほほう、ヒューゴログスではないか」

「ヒューゴログス? ……あー、風属性に適した素材でしたっけ」

「よく知っておったのう、その通りじゃ」


 まさかここでリディアさんのお店で聞いた話が役に立つとは思わなかった。


「これに風属性を付与できれば、一生ものの武器ができるのではないか?」

「属性付与の錬成ですか……ソニンさんにお願いできるかなぁ」


 ユウキの為である、きっとソニンさんも快く快諾してくれるだろうと思いながらヒューゴログスを手に取ったのだが、ここでまさかの展開になってしまう。


「……グ、グリノワさん?」

「どうしたのじゃ?」

「……ゴ、ゴロゴロ出てきたんですけど!?」


 土砂の中からヒューゴログスが一つだけではなく複数転がり出てきたのだ。


「……魔法鞄マジックパックがあったじゃろう、それに放り投げておけ」

「か、簡単に言いますけど! これいいんですかね!」

「廃坑になって誰も手を付けていなかったのじゃ、いいに決まっておろう」


 ……えっと、帰り際にリディアさんのお店で売ろうかな。うん、そうしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る