これは、とうとう?

 確か中古の剣を手入れして使い続けていると聞いていたけど、あれから一度も変えていなかったというのは驚きである。


「魔獣はマリベルさんが?」

「いえ、ジンから貰ったファンズナイフがあるので討伐はこれを使いました」

「それにしても、装備が歪というかなんというか……主武装の剣はボロボロなのに、護身用のナイフは超一級品なんだもの」


 あー、うん、それは完全に僕のせいなので致し方ないかと。


「……んっ? ねえユウキ君、そのナイフ、ジン君から貰ったって言った?」

「言いましたけど?」

「……えっ、これってジン君が打ったの?」

「そうですけど?」

「……まっさかー! ジン君が超一級品を打ったの? まさかだよねー!」


 そっか、この中ではマリベルさんだけが僕の鍛冶を見たことがないんだった。

 当然のように口にしたマリベルさんだったが、誰からも同意を得られないことに気づいたのか困惑顔を浮かべている。


「……えっと、冗談、だよね?」

「本当ですよ」

「……でも、ジン君って見習いを卒業したばかりの鍛冶師だったよね?」

「そうですけど、ジン様は最初から凄かったですからね」

「……ケ、ケヒートさん?」

「冗談のように聞こえると思いますが、本当です」

「……ゴルドゥフさん?」

「ジンの鍛冶の実力は儂も目の当たりにしておるからのう!」

「……マ、マジ?」

「マジですよ、マジです」


 最後に僕が改めて本当だと口にすると、マリベルさんは腕を組んで何やら考え始めてしまった。

 ならばと僕はこの場で証拠を見せつけた方が良いのではないかと考える。


「ソニンさん!」

「……何やら嫌な予感がしますが聞きましょう」

「いきなりそれはひどいですね。えっと、ユウキの為にここで鍛冶をしたいんですがどうでしょうか!」

「……やっぱり嫌な予感は的中するものですね」

「本当にひどいですね! ユウキの主武装がないと戦力ダウンになっちゃいますし、イレギュラーがいる今の状況なら仕方ないですよね!」


 別に嫌なことではないと思うんですけど! これはユウキの為ですから!


「……まあ、今回はコープス君の言っていることが正しいですし、仕方ありませんか。ですが素材はどうするのですか?」

「そうですねぇ……外で魔獣素材を錬成するのはソニンさんなら可能ですか?」

「厳しいですね。魔導陣の補助がない中でもできないことはないですが、危険が伴いますから」

「だったら鉱石を採掘してそれを錬成――」

「ちょっと、ちょっと、ちょっとー!」


 僕とソニンさんの会話に割って入ってきたのはマリベルさんである。


「なんで普通に話を進めてるんですか? えっ、今から鍛冶をするって、ここで? どこにも窯なんてないんですけど! まさか魔法鞄マジックパックに入れてるとか? それはないわよね?」

「魔法鞄には入ってませんよ」

「だよねー! だったら外で鍛冶だなんて――」

「ここに簡易の土窯を作ります」

「……はい?」

「マリベル、とりあえず見守りなさい。その前に素材の目途を立てなければなりませんが」

「銅だとファンズナイフと同じだし、キルト鉱石の剣はあるけど色が気に入らないみたいだし」


 腕を組んで唸り始めた僕とソニンさんなのだが、そこに声を掛けてきたのはグリノワさんだ。


「鉱石ならすぐに準備できると思うぞ」

「本当ですか、グリノワさん!」


 ドワーフのグリノワさんの言葉なら信憑性が高い。

 やはり、先ほど岩壁を見つめていたのはそういうことだったのか。


「廃坑と聞いていたが、ここいらの岩の中にはおそらく鉱石が眠っているじゃろう」

「だったらすぐにでも掘り出して――」

「落ち着かんか、ジン。ここですぐに掘り出そうとしたら岩壁が崩れて野営地が潰されてしまう」

「ぐっ! ……銅やキルト鉱石を採った時は簡単だったのに」


 南の鉱山では飛び出ている鉱石を取るだけだったので簡単だったが、自ら掘り起こすとなればそうはいかないようだ。


「ちゃんと岩壁が崩れないよう固定し、そのうえで堀り進めていくのが正しいやり方じゃ」

「グリノワ様、それは時間が掛かりそうですか?」

「そうじゃのう……二の鐘分があれば、短剣ショートソード分の鉱石は採れるかもしれんな」

「僕も手伝いますよ!」

「……今回は慎重な採掘が必要になるから遠慮しておこうかのう。後ろで見ておくことは許可するぞ」

「それじゃあ見ています!」


 ニコニコしている僕を見てソニンさんは溜息をついている。


「グリノワ様、それではお願いできますか? ……コープス君のことも含めて」

「任せろ。ラトワカンの鉱石なら上質な物が採れるかもしれん。ユウキ、期待して待っておれよ」

「……グリノワ様、本当にありがとうございます」

「礼は鍛冶ができるジンに言うんじゃな」

「ジンも本当にありがとう」

「どんな鉱石が採れるか楽しみだね! キルト鉱石みたいに派手な色じゃなかったらいいんだけど」

「あー、うん、そうだね」


 もしキルト鉱石よりも派手な色合いの鉱石だったら、キルト鉱石で打った剣を一時的に使うことも検討すると言っていたユウキだった。

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