今後の予定について
後から出てきた料理についても非常に美味であり、僕たちは大満足の晩ご飯を終えた。
僕が余分に食材を提供した事もあり、これからの食事が少しだけ楽しくなるとゼッドさんは言っていた。
「俺たちも冬場はなるべく節約しながら生活しているからな。生の肉なんてそうそう手に入るものじゃないんだよ」
うーん、そう考えると周りの家からすると大迷惑だったかな? 香ばしい匂いが外に流れていってしまったかも。
もしゼッドさんに問い合わせが来たら、肉はまだまだ余っているし分けて与えてもいいかもしれないな。
食事は終わったものの僕たちは食堂の一角に集まったままである。
というのも、今後の予定を立てるために話し合いをするつもりなのだ。
「とりあえず、冬の山に入山するための準備は整ったよ」
「……本当に登るのですね」
「マギドさんも早く慣れないとですね」
ため息混じりにそう口にしたマギドさんに対して、ユウキが同情にも似た言葉を掛けている。
……いや、ユウキ。君はさっき、僕の事を理解している的な発言をしていなかったかな? 今の言い方は、どうなんだろうか。
「ジンたちはいいとしても、俺とルルは体力的に厳しいんじゃないか?」
「そうだよね。冒険者や騎士みたいに鍛えてないんだもん」
「ちょっとー。一応、私も冒険者でも騎士でもないんだけどー?」
「リューネさんは規格外ですものね」
「えぇー? フローラちゃん、それは納得できないよー!」
いや、リューネさんは僕と並んで規格外だから。あなたは万能人間三号だから。
「それじゃあ、安全第一で行くとして、ペースはカズチとルルに合わせる形でいいかな? ありがたい事に食糧は大量にあるから、野営設備や場所の確保さえできれば多少日にちが掛かっても問題ないわけだし」
「それって大丈夫なのか? 冬の山で、さらに吹雪いているんだろ? 寒さとかも問題になるだろう」
「そこはさ、カズチ。火属性を持った人間が周囲の空気を暖めれば問題ないよ」
「あー……あれか。確かに、動かなければ俺たちも暖かくなるのか」
僕がこの世界で初めての冬を迎えた時、火属性魔法を使って寒さを防いでいた。
その際、移動しながらの場合は魔法の起点を常時移動させなければならなかったのだが、野営となれば一定範囲で暖めればいいので問題はないはずだ。
もし範囲外に用事があれば、都度火属性を持つ誰かが付き添えばいい。
特に女性の場合は男性に見られたくない場面も多いだろうし、そういう時にフローラさんがいてくれるのは助かる。
まあ、ルルはともかく、リューネさんなら自分でなんとかしてしまいそうだけど。
「さて、そうなると……出発はいつにしようか?」
「準備ができているなら明日でもいいんじゃないか?」
「そうだね。僕も問題ないと思うよ」
「……そうですか、明日ですか……はぁ」
「頑張りましょうね、マギドさん」
「わ、私も頑張るわ!」
「ねーえー。私の扱いが雑すぎないかしらー」
こうして俺たちは明日にでも出発する事が決まった――はずだった。
「――出発、もう少し延ばせねぇか?」
突然の声に振り返ると、そこには申し訳なさそうな顔を浮かべるゼッドさんが立っていた。
「どうしたんですか?」
「あー、いや……実はよう……」
そう口にながらゼッドさんは親指で入り口の方を指し示す。
すると、そこには財布を握りしめた主婦の方々や家族連れが立っており、こちらを羨ましそうに見つめていた。
「えっと、何事ですか?」
「坊主たちに食材を貰って腕を振るっただろう? それで匂いが外に漏れちまってなぁ……その、こっちで食事ができると思って来ちまったみたいなんだ」
「食事が? 普段から提供していたんですか?」
「言っただろう? これでも腕に自信はあるって。だから、食堂としても活動してたんだが、さすがに全員に提供できる量がなくてなぁ。それで、余っている材料があれば、今回は俺が買いたいんだが、どうだ?」
よく見るとゼッドさんに手にも財布が握られている。
商売人だからか、お金のやり取りに関しては線引きを引いているのかもしれない。
自分に提供できるものがあればそれを使い、そうでなければしっかりとお金を払う。
だが、僕としては想定内の事態なのでお金を取るつもりはなかった。
「せっかくですし、皆さんで使っちゃいましょうか!」
「いや、余る分で構わん。さっきの話が聞こえちまったが、食糧必要なんだろう? 余裕を持って入山した方がいいじゃねえか」
「あー……その分を差し引いても、大量にあるものですから」
「……マジか?」
「マジです」
今回ばかりは完全に呆れ顔をされてしまったが、ゼッドさんの手は財布を握ったままだ。
「だから、お金は必要ありませんよ。ただ、人件費というところでゼッドさんが皆さんからお金を取る必要はあると思いますけどね」
「……そんな事するかよ。すまんな、坊主」
「いいんですよ。……あー、それじゃあ一つだけお願いしてもいいですか?」
「おう! 俺にできる事ならなんでも言ってくれ!」
あれだけの美味しい料理を提供してもらったのだから、このお願いをしないのはもったいないよな。
「明日のために、弁当を作って欲しいんです。無理のない範囲で構わないので、大量に」
「そんな事ならお安い御用さ! そんじゃあ、みんなにも伝えて来るぜ! 本当にありがとよ!」
ゼッドさんが立ち去った後、僕はみんなに向き直った。
「勝手に決めてごめんね」
「ジンが決めた事だから気にしないよ」
「それに、そっちの方が使い道としてはいいんじゃないか?」
「そうだよ、ジン君。私もゼッドさんを手伝えるかな?」
「でしたら私も」
「山で魔獣が出たら、その時は私が活躍して見せましょう」
「それじゃあ、私は楽ができそうねー。やったー」
それぞれが感想を口にした後、俺はゼッドさん、ルルやフローラさんとも台所に移動して食材を提供すると、集まった村のみんなから感謝の言葉を受け取ったのだった。
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