真冬の食糧事情

 部屋に戻った僕はしばらく男同士で話をしてからベッドで休み、夜は食堂に行って食事を楽しむ――つもりだった。


「……え? これが、今日の晩ご飯ですか?」

「……すまん。これでも贅沢に食材を使った結果だ」


 ……干し肉、干し肉、小さな野菜が入ったスープ、干し肉、干し肉。


「……干し肉、多くないですか?」

「あー、一応、色々な種類の肉の干し肉だ。……贅沢だろ?」

「どこがですか! ってか、人気の宿屋じゃなかったんですか!」

「仕方ねぇだろうが! まさか客が来るなんて思っていないし、食材を調達してなかったんだよ! これでも俺が食べる分の食糧も使ったんだから、我慢してくれ! マジですまん!」


 ぐぬっ! 自分の分も使ったと言われると文句を言えなくなるじゃないか。しかも、何気なく謝ってるし!

 しかし、保存食ばかりの料理を食べてぐっすり眠れるかと聞かれると、寝られないと全員が答えると思う。

 ならば、ここは僕が一肌脱ぐしかないじゃないか!


「ゼッドさん!」

「何だ? マジでこれ以上は無理だぞ?」

「食糧は僕が提供します!」

「……は?」

「なので思う存分、料理の腕を振るってください!」

「いや、お前、何を言ってるんだ?」


 ここに来る間で狩りに狩った魔獣が大量に魔法鞄の中に入っているのだ。

 素材になるから、食糧になるからと溜め込んでいた不良在庫を処分できるチャンスだし、一石二鳥だ。

 もちろん冒険者ギルドで買い取ってもらう事もできるけど、正直なところお金には困っていないしなぁ。ユウキたちも無理に上級冒険者に上がるつもりもないようで、魔獣は僕の好きなように使っていいと言われている。

 というか、ユウキたちもここで美味しい食事が取れれば文句なんて言わないはずだ!


「お願いします、ゼッドさん!」

「美味しい食事を!」

「ここまで来たのですから、お願いします!」


 ほら、冒険者の三人が声を大にしてそう言ってくれているじゃないか!


「……本当に、いいのか?」

「魔獣の肉なら山のようにありますので」

「マジか。……分かった、それじゃあ宿代は返金して――」

「あ、それは結構です」

「なんでだよ!」

「だって、お金には困ってないですし」

「お前は貴族かよ!」


 失礼な、貴族はユウキだけだよ。


「僕は美味しい料理が食べられればマジで満足ですから」

「……はぁ。助かる。それじゃあ、見せてもらってもいいか?」


 ため息をつきながらではあったが、ゼッドさんは諦めたようで僕に材料の確認を求めてきた。


「台所に入っても大丈夫ですか?」

「構わん。こっちだ」


 カウンターを抜けて奥にある台所へ向かう。

 どうやら台所から食堂にも抜けられるようで、奥の方にもう一つ出入口があった。


「ここに頼めるか?」


 台所は意外と広く、指定された場所に食べてきた中でも美味しかった魔獣の肉を並べていく。

 最初は腕組みしながら吟味していたゼッドさんだが、その量に段々だ顔を引きつらせていき、最終的には――


「ストップ! ストップだ!」

「……え?」

「え? じゃないぞ! なんだこの量は!」

「……まだまだありますけど?」

「いらん! ってか、これだけあれば十分だから!」


 すでにテーブルが肉で埋め尽くされており、わずかに買い溜めていた野菜も置かせてもらった。さすがに肉だけではバランスがと思ったのだ。


「しっかし、よくこれだけの量を持っていたなぁ」

「こっちに来ながら魔獣を狩りまくっていたので」

「って事は、お前たちは相当強いんだなぁ」

「上級冒険者並みの実力者に、元国家騎士の方がいます」

「……そりゃお前、過剰戦力じゃねえか?」


 何と比べて過剰戦力だと言っているのかは分からないが、とりあえず戦力的には認められたらしい。

 後は冬の山の対策が万全なら、自殺志願者とか言われないはずだ。


「よっしゃ! それじゃあ、マジで腕によりをかけて作ってやるぜ!」

「時間は掛かりそうですか?」

「はん! まずは前菜を作って持っていってやるから安心しろ。口を休ませないで運んでいってやるぜ!」


 最初は料理を見て愕然としたものの、ゼッドさんの言い分も間違いない。そもそも客が来る予定ではなかったのだから、自分の分だけを用意するのは当たり前だ。

 その中で自分の分も使って準備してくれたのだから、それに応えるのは必要だろう。

 もちろん、使ってしまったのだから干し肉料理も口に入れてみた。


「……あれ、美味い」


 ……見た目で判断してしまってすみませんでした、ゼッドさん。

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