驚きの連続

 ゼッドさんの案内で道具屋に到着した僕たちだったが、そこでも入山したいと口にすると驚かれてしまった。


「……自殺志願者かえ?」

「違いますよ!」


 そう思われても仕方がないのかもしれないが、話を聞いた途端にそれは酷いと思う。


「この季節に入山しようなんて聞いたら、この辺の奴らは誰でもそう思うわい」

「そういうわけだ」


 地元の人たちの言葉の方が説得力が高いので、僕としては何も言えなくなってしまった。

 しかし、ありがたい事に登山用の道具は一式在庫があるようでホッとする。


「しかし、本当に登るのかい?」

「そのために来ましたから」

「まあ、無理に止めはせんが……気をつけていくんじゃぞ? 死んでも儂らを恨むでないぞ?」

「う、恨みませんよ」


 そんな会話を続けながら商品のやり取りを行っていると、予想外に人数が多いと思ったのか、道具屋さんはもう一度口にしてきた。


「……一家心中かえ?」

「だから違いますって! キャラバンですよ!」

「……最近は、面白い自殺志願者もいるんじゃのう」

「自殺志願者確定みたいに言わないでくださいよ!!」

「ほほほ。冗談じゃよ……そう、冗談じゃ」

「なんか意味深な言い方!?」


 なんだかんだで必要な道具を全て買う事ができたので、僕としては万々歳である。

 ちなみに、他のみんなは宿屋で休んでいる。誰もついてきてはくれなかった。……ガーレッドですら。


「外、吹雪いてますねぇ」

「そりゃそうだ、この季節だからな。この吹雪を見ても入山するって言っているんだから、お前は相当なバカか、やっぱり自殺志願者だよ」

「……なんか、その言われ方も慣れましたね」

「慣れるなよ!」


 なんだろう、ゼッドさんとこの短期間でだいぶ仲良くなれた気がする。

 僕のコミュニケーション能力、高くなったんじゃないか?


 宿屋に戻ってきた僕たちだが、ゼッドさんの予想通りに誰も客は来ていなかった。

 心配性のユウキが受付の近くの椅子に腰掛けていたようで、寒くなかったのかと聞くと笑顔で答えてくれた。


「フルムも一緒だったから暖かかったよ」

「ガウガウ!」

「……あ、そう」

「ビギャー?」


 ……ガーレッドよ、君はどうして僕ではなくユウキ……でもないか、フルムと一緒にいるのかな? そっちの方が楽しいのは分かるけど、今日はついてきて欲しかったよ。


「すまなかったな」

「いいえ、僕が勝手にやっていた事なので」

「そうか? なら、今日の飯は腕によりをかけてやるよ!」

「ゼッドさんって、料理もできるんですか?」

「……お前、宿屋を舐めてるだろ?」


 おっと、失言だったようだ。


「いいえ、そんな事は。ただ、うちでは女性陣が料理を作ってくれるので、男性が作るって発想がなかっただけです」

「そっちの方が問題じゃねえか? まあ、料理の方は任せておきな! これでも、人気の宿屋なんだからな!」

「楽しみにしてますね。それと、道具屋までの案内、ありがとうございました」


 僕がお礼を口にすると、ゼッドさんはニヤリと笑って軽く手を振りカウンターの奥に引っ込んでいった。


「ジン、必要な道具は買えたの?」

「全員分買えたよ。……道具屋の主人にも自殺志願者だったり、人数を伝えたら一家心中とか言われたけど」

「あはは、それはまあ、この吹雪だからねぇ」

「……ユウキも、自殺行為だって思ってる?」


 ユウキの言葉に、僕は少しだけ不安が胸の中に生まれてしまった。

 確かに危険が伴う行為だが、それを言っていたらせっかくの自由な旅の時間がもったいない。

 まあ、計画的に旅をすれば季節的にも安全に向かう事はできたはずなんだけど、そこは何も言わないでもらいたい。


「僕? 僕は特になんとも思ってないよ」

「……そ、そうなの?」

「うん。だって、ジンが無茶をする事なんて分かり切っているし、それを承知でついてきているわけだから」

「……なんか、ごめん」

「それこそ今さらだよ。だけど、そんなジンだから僕はついてきたんだ。他のみんなもそうじゃないかな?」


 マギドさんだけはそうではないと思う。きっと、今頃部屋の中で後悔しているかもしれない。

 だけど……うん、他のみんなはそうかもしれない。僕の我がままについてきてくれたメンバーなんだもんね。


「……ごめん、ありがとう」

「それって謝ってるの? お礼を言ってるの?」

「……両方だよ! 部屋に戻ろう!」

「あはは、分かった、戻ろうか」


 なんだか恥ずかしくなってしまった僕は、早足で部屋に戻っていったのだった。

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