入山の危険性

 ゼッド・ゲイズと名乗った店主は、親切心からかブリザードマウンテンへの入山は止めた方がいいと口にした


「やっぱり危険なんですか?」

「危険なんて言葉でも生ぬるいぜ? 熟練の登山家でも遭難する様な気候なんだからな」

「魔導師がいても厳しそう?」

「魔導師って……山に登るだけの体力はあるのか?」


 一般民からすると魔導師には引きこもりの印象があるようで、そこいらの子供よりも体力が乏しいと思われているらしい。

 まあ、僕たちの場合は馬車があるから問題ないと思う。


「馬車で行く予定です」

「あぁん!? ……やっぱり坊主、バカか?」

「酷い!」

「いや、すまん。まさかブリザードマウンテンに馬車で向かおうなんて奴が現れるとは思っていなかったからよ」


 そこまで険しい山なのか、ブリザードマウンテン。

 ブリザードマウンテンに対する情報を全く持っていない僕は、ゼッドさんに詳しく話を聞く事にした。


「どうせ暇だしいいぜ。何が聞きたいんだ?」

「まずは、馬車でブリザードマウンテンに入るのは――」

「無理だな」


 ……食い気味に無理だと言われてしまった。


「まず言っておくが、ブリザードマウンテンは相当に険しい山だ。馬車は当然ながら、馬でも登れねぇんだよ」

「……そこまで厳しいのかぁ」

「それも、真夏の雪が積もってない時期でだ。真冬の豪雪、さらに風が強いこの時期に馬車って……自殺志願者だと思われても仕方ないぞ? むしろ、馬を道連れにするんだから最低のバカ野郎と思われても仕方がないな」

「……申し訳ございませんでした」


 どうやら馬とはここでお別れかもしれない。

 馬車は魔法鞄に入れられるとしても、生きている馬を入れる事はできないからなぁ。


「……なあ、坊主」

「なんですか?」

「お前、ここまで言っても、まだ入山するつもりなのか?」

「え? 当然ですけど?」


 僕の言葉にゼッドさんは説得を諦めたのか、大人組であるリューネさんとマギドさんに視線を向ける。

 しかし、二人は肩を竦めながら首を横に振るだけだった。


「……おいおい、マジかよ」

「馬は預かってもらえますか? いや、戻って来られるか分かりませんから、お譲りする形かな?」

「いやいや、考え直さねぇのかよ! お前たちも、自殺行為だぞ?」


 ここまできて初めて慌て始めたゼッドさんに、それぞれが感想を口にしていく。


「だってなぁ」

「うんうん」

「ジンだしね」

「ジン様ですから」

「ジン君だしー」

「ジン様だからな」


 その言葉を聞いたゼッドさんは口を開けたまましばらく固まっていたのだが、数秒後にはカクンと下を向いてしまった。

 悪い事をしてしまったかなと思いつつも、僕はブリザードマウンテンを超える事が無理とは思えないので考えを変えるつもりもない。

 準備はしっかりするとして、後は今の季節に万全の準備をする事ができるかどうかが問題だ。


「道具屋さんとかありますか?」

「あるにはあるが……今の季節に入山する様な奴がいなかったから、必要な道具が置いているかは分からんぞ?」


 そう、そこが問題なのだ。

 ゼッドさんが言っていたように、この季節にやってくる冒険者や旅人は全くいない。

 誰もが閑散期で長期休暇を楽しんでいる最中だろう。いや、外にほとんど出られないのだから単純に休んでいるだけだろうけど。

 そんな中でも商品を充実させているところなんて、そうそうないと僕も思う。

 最悪の場合、僕で作れるものであれば作ってしまった方が早い場合もあるかな。


「構いません。お店の場所を教えてくれませんか?」

「分かった。んじゃまあ、まずは部屋に案内しよう。その後に連れて行ってやるよ」

「え? いいんですか?」


 教えてくれれば勝手に歩いていくつもりだったのだが、案内してくれるようだ。


「俺も暇だからな!」

「……一人で切り盛りしているんですか?」

「んなわけねぇだろ。女房と子供は実家に帰らせてる。この時期、外を走り回れないんじゃあ子供はつまらんだろう?」

「確かにその通りですね」


 だからといって、店主が店を開けてもいい理由にはならない気もしたが、行く気満々のゼッドの提案を断る事もできず、僕たちは男女で別れて部屋を借りると、その足で道具屋へと向かった。

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