転生者

 これはどうしたものか。

 魔王さん、まさかの転生者だよ。


「な、何を言っているんだ?」

「油断してはなりませんよ、ユウキ様」

「相手は魔王なんだものね」


 おっと、そうだった。

 転生者だということに気づいているのは僕だけで、ユウキたちが気づくはずもない。


「ちょっと待った! ストーップ!!」


 故に、いきなりの戦闘を止めるのも僕の役割なのである。


「ど、どうしたんだい、ジン!」

「一気に攻めましょう、ジン様!」

「私もまだいけるわよ!」

「だからストップだってば! 大丈夫、大丈夫だから!」


 今にも攻撃しそうな三人を落ち着かせつつ、僕は魔王に視線を向ける。


「……な、なんですか? わからないなりに、抵抗しますよ! こ、これでも、魔王なんですからね!」


 そして、強がってはいるものの体は震えている魔王さん。

 ……なんだろう、ちょっとだけ罪悪感。

 いや、まあ、僕が罪悪感を覚える必要はないんだけどね。急に連れてこられたのはこっちも変わらないし。


「あのー、一つお伺いしてもよろしいですか?」

「……な、なんですか?」

「……魔王さんも、転生者ですか?」

「えっ!? ……魔王さんもってことは、あなたもですか!!」


 あっ、やっぱり。

 僕は驚く魔王に対して大きく頷いて見せる。


「……で、でも、そうやって油断させて、私を殺すつもりなんじゃ!」

「いやいや、そうだったとしても転生者ですか? とは聞かないからね?」

「そ、そんなこと、わからないじゃないですか!」


 いや、わかるだろうよ!

 ……もしかして、魔王さんはこの世界の常識を知らないのかもしれない。昔の僕のように。

 しかし、そうなるとどうやって信じさせたらいいだろうか。


「……ジ、ジン? 大丈夫かい?」

「うん、大丈夫。ちょっと待ってて」


 心配で声を掛けてくれたユウキに素っ気なく答えつつ、僕は魔王さんにこんな質問をしてみた。


「……東京のシンボルと言えば?」

「……東京タワー?」

「えっ? スカイタワーじゃないのか?」

「でも、シンボルって言ったら、昔からある東京タワーじゃないですか?」

「そっちのタイプかー。それじゃあ、好きなアニメとかある?」

「アニメもあまり見ていなくて……日本昔話とかは子供の頃に見てました!」

「古いなあ!」

「古くありませんよ! あれは素晴らしいアニメであり、子供ながらに楽しめる作品ですから!」


 ……いや、ドヤ顔で言われましても。


「……あれ? あなた、本当に転生者なんですか?」

「だから最初からそう言ってるじゃないか。それも、君と同じ日本からのね」

「……日本人、なんですか?」

「そうそう。いやー、まさか魔王さんが日本からの転生者だとは――どわあっ!?」


 僕が腕組みをしながら懐かしんでいると、突然魔王さんに抱き締められてしまった。


「ジン!」

「うわああああぁぁん! 本当に日本人なんですね~! 私、ずっと不安だったんですよ~!」


 魔王さんはきっと、魔王として一人で頑張ってきたのだろう。

 ゾラさんやソニンさんに拾われた僕とは大違いだ。

 それに聞いている話だと、ゲームとかアニメとかもほとんど見てなかったみたいだし、順応するのも大変だったんじゃないだろうか。

 いや、もしかしたらまだ順応できていないのかもしれない。

 それを、この涙が証明しているじゃないか。


「君は、一人で頑張っていたんだな」

「うっ! うぅぅ、はい~!」

「……な、何が起きているんだい、ジン?」


 おっと、ユウキたちのことをすっかり忘れていたよ。

 僕は魔王さんの頭を撫でながら体を離すと、ユウキたちにもう大丈夫だと声を掛けた。


「魔王さんはもう大丈夫だよ。一人で寂しかったんだってさ」

「「「……はい?」」」

「本当にすみませんでした! 私、魔王辞めます!」

「「「……えぇっ!?」」」


 えっ? 魔王って辞められるものなの?


「私の名前は――羽柴はしば彩音あやねです!」

「……あの、魔王さん? いきなり日本名を言っても通用しない……ん?」


 ……羽柴彩音だって?

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