まさかの展開
しばらくは五階層に下りてきた時と同じように真っすぐな通路が続いていた。
それでも警戒しながら進んで行くと、再び大きく広がったフロアが見えてくる。
そこに感じた異様な雰囲気に、僕は背筋がゾッとする感覚を覚えていた。
「……いますね」
「……でも、少しおかしくないかな?」
「……そうよねぇ。おかしいわよねぇ」
「……まさか、ですよね?」
みんなの疑問は僕にもわかる。
何せ、先ほどベヒモスという強大な敵と戦ったばかりで、ここを中ボスが出てくる階層だと勝手に思っていた。
しかし、先のフロアから感じる異様な雰囲気は、ベヒモスを遥かに凌ぐものだと直感的にわかってしまったのだ。
「連戦で強敵とやるみたいだね」
(――……うーん、マジか?)
「……どうしたんだ、エジル?」
僕たちが不安を抱いていると、突然エジルが声を掛けてきた。
(――いや、まさかとは思うんだけど、この感覚に覚えがあるんだよなぁ)
「お前が覚えのある奴って……えっ、まさか?」
(――あぁ、そのまさかかもしれない)
……嘘だろ? まさか、魔王のダンジョンが五階層で終わりだっていうのか?
僕たちは顔を見合わせると、まさか~という表情を浮かべる。
「な、なあ、エジル。本当なのか? 魔王に似た何かってことはないのか?」
(――ないと思う。俺が魔王の感覚を忘れるはずがないよ)
「……マジかぁ。ってことは、ベヒモスは俺たちを消耗させるための駒だったってことか?」
(――可能性は高いな。そして、さっさと片付けるために上層を楽にして、気を抜いたところでベヒモスと戦わせて消耗させ、確実に本人が倒しに来る)
……ヤバいなぁ、魔王。意外と策士じゃないか。
しかし、それならあの立て看板はなんだったのだろう。
筆跡からは本当に焦っているような雰囲気もあったのだが、あれも演技だったということだろうか。
「……まあ、行ってみるしかないよな」
「そうだね。ここまで来たんだから、行くしかないよ」
「あぁ~あ、短い人生だったなぁ」
「リューネ様? あなたはこの中で一番の長生きでは――」
「何か言ったかしらぁ~、マ~ギ~ド~?」
「…………なんでもありません!」
……リューネさんに年齢の話はタブーだよ、マギドさん。
話を戻すが、全員の意思確認も取れたことだし、僕たちは前に進むことにした。
足を進めるたびに威圧が強まり、汗が噴き出してくる。
ガーレッドとフルムも感じているのか、先ほどから鳴き声を漏らすこともなく、ジーっと前方のフロアを睨みつけていた。
そして、フロアに足を踏み入れる一歩手前までやって来た僕たちは――侵入するのと同時に左右に展開していく。
右側には僕とマギドさんとガーレッド。
左側にはユウキとリューネさんとフルム。
前衛、後衛、霊獣という組み合わせで何にでも対応できるようにした布陣だ。
左右に展開した僕たちはフロアの中央に視線を向ける。
「……あれが、魔王だって?」
そして、そこにいた存在を目にすると、僕はそんな言葉を呟いてしまう。
桃色の髪をツインテールにしており、背丈も僕と同じくらいか少し小さいかもしれない。
誰がどう見ても人型……というか、人間の少女にしか見えない存在が、そこに涙目で立っていたのだ。
「……えっと、魔王様、でしょうか?」
「そうよ! 私が魔王だよ! なんなのよ、あなたたちは! 私が必死になってダンジョンを造って、魔獣を配置したのに、あっという間に突破するなんて!」
「……いや、だって、そこまで難易度も高くなかったし」
「そんなわけないわよ! だって、上級魔獣をたくさん配置したのよ? 魔王のダンジョンなのよ? それなのに……それなのにいいいいぃぃっ!!」
……何なんだろう、この謝った方がいいような謎の雰囲気は。
しかし、彼女が魔王で間違いはないようで、そうなると僕たちは彼女を倒さなければならないということだ。
逆を言えば、彼女も僕たちを倒すつもりであり、策士でもある。
この状況も意図して彼女が作り出している可能性だって否定はできないのだ。
「特にあなた!」
「うえぇっ!! ぼ、僕ですか!?」
「そうよ、あなたよ! 規格外にもほどがあるわよ! 意味のわからない動きをするし、魔法もおかしいし、独り言も多いし!」
「独り言? ……あぁ、エジルとの会話か」
「知らないわよ! あぁ~、もう! せっかくコツコツとポイントを溜めて造ったダンジョンなのに、簡単に攻略されるなんて! 責任取ってよね!」
「いや、責任とか言われても……って、ポイント?」
……なんだろう、この違和感は。ダンジョンにポイントとかあるのか?
「……はぁ。……本当にもう、なんなのよ。……私だって好きでこんなことをしているわけじゃないのよ? ……いきなり連れて来られて、魔王とか言われても」
……んん~? いきなり連れて来られたって……いやいや、まさかだよね?
「…………もうっ! 私はゲームなんてほとんどしたことないんだからね!!」
ああああぁぁっ! ゲームって言ったああああぁぁっ! これは確定だろ、僕と同じ――転生者だ!!
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