ドロップアイテム

 力を失ったベヒモスの巨体が床に転がる。

 ズウウゥゥン、という重々しい音がフロアに広がり、ダンジョンを揺らしていく。

 ダンジョンとは不思議なもので、今までの魔獣もそうだったが命を失うと血を噴き出すこともなく、その体が何もなかったかのように消失してしまう。

 それでも残されるものがあり、僕たちは顔を見合わせると大きく拳を振り上げた。


「……勝ったぞおおおおぉぉっ!」

「……あはは。さすがに今回は危なかったねぇ」

「私の魔力、もう空っぽだよ~」

「私はラスフィードとバルスカイの切れ味をさらに実感しました!」


 それぞれが感想を口にする中、ガーレッドとフルムはそれぞれの主のところへやって来て頭を擦りつけてきた。


「ガーレッドとフルムも頑張ったもんね」

「ありがとう、二匹とも」

「ビギャー!」

「ガウガウッ!」


 頭を撫でながらそう口にしたあと、僕たちは立ち上がりフロアの中央に残されたものの方へ歩み寄っていく。


「……これ、ドロップアイテムってやつ?」

「今までも魔獣からは出てこなかったよね?」

「実は出てきていたとか? 気づかなかっただけで」

「いいえ、出てきていませんでした。本来であればもっと出てきてもいいはずなんですが」


 マギドさんはダンジョンに入ったことがあるからそう口にしたのだろう。

 まあ、倒す端から消失してしまい素材を剥ぎ取ることもできなかったのだから、こうしてドロップアイテムが出てくれたのは非常にありがたい。

 ……魔王のダンジョンのくせにケチだなと思っていたのは、口にしないことにしよう。

 今回ドロップしたのは、見るからに宝箱だった。

 金銀豪華な装飾が施された宝箱は、これだけで相当な値打ちものではないかと思われる。

 お金に困っているわけではないので、僕としては貴重な素材が出て来てくれることを願ってしまうなぁ。


「とりあえず、開けるよ?」

「たまーに宝箱の形をした魔獣ってこともあるから、気をつけてね?」

「怖いことを言わないでくださいよ、リューネさん!」

「その時は私が斬り捨ててみせましょう! この双剣に懸けて!」

「マギド様は久しぶりに双剣に酔ってますね」


 サラリとユウキがマギドさんをいじってきたが、興奮しているからかマギドさんは全く気づいていない。

 僕は苦笑を浮かべると、視線を宝箱に戻してから手を伸ばし、その上蓋を開けた。


「…………は?」


 僕は宝箱の中身を見ると、思わず素っ頓狂な声が漏れてしまう。

 その様子に気づいたのか、三人も中身を見るために覗き込んできた。


「……これって?」

「……食材?」

「……卵、ですねぇ」

「…………な、なんで卵なの!? どうしたらいいのよ、食べるのか、食べるんだな!」


 思わず巣の声が出てしまったものの、ここで僕よりも興奮していた存在が卵に飛びついてきた。


「ビギャギャーッ! ギャッギャギャーッ!」

「ガウガウッ! ガオォーン!」

「……ど、どうしたんだ、二匹とも?」

「……あっ! ジン、これってもしかして――霊獣の卵じゃないか?」


 ……そ、そういえば、ガーレッドが生まれた時のあれに似ている気がしないでもないか?

 いや、しかし、どうしてダンジョンから霊獣の卵がドロップしたんだろう。霊獣ってそういうものなのか?

 うーん……わからん。

 二匹の反応を見る限りほぼ確定だとは思うけど、これが本当に霊獣の卵かどうかはわからないし、とりあえず回収しておくとするか。


「……これ、魔法鞄に入るのかな?」

「ビギャ!? ビギュギャー!」

「ガルラッ! ガルルララッ!」

「うわっ! ……なんだよ、入れちゃダメってか?」


 どうやら魔法鞄に入れて欲しくないみたいだ。二匹は僕の言葉に何度も大きく頷いている。

 まあ、霊獣が中にいるなら生物になって入れられないから仕方ないけど、荷物になっちゃうなぁ。


「……一度、出ちゃう?」

「それもありかもしれないけど、いいのかな?」

「魔王が見逃すとは思えないわよ?」

「同意です。卵を布か何かで体に巻きつけるのはどうでしょうか?」


 それしかないよなぁ。

 というわけで、誰の体に卵を巻きつけるかってことになったんだけど、立候補者が現れた。


「ビギャー!」

「え、ガーレッドに巻きつけるの?」

「ビギャン!」

「……まあ、空も飛べるし危なくなったら一番に逃げられるから、いいかな」

「ビギャー!!」


 とても嬉しそうにしているので、僕は卵をガーレッドに任せることにした。

 少しだけフルムが羨ましそうに見ていたので、外に出たらフルムにも巻きつけてやろうと考えながら、僕たちは先へ進むことにした。


「よし、それじゃあ気を引き締め直して、進もうか!」


 ――この時、僕たちは知らなかったのだ。先の通路で待ち構えていた相手が、あいつだったなんて。

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