錬成部屋の役割
錬成部屋ができるのは嬉しいのだが、ここで一つの疑問が浮かび上がってきた。
「カズチって、錬成布で練習をしてるんだよね?」
「……」
「カズチ?」
「……へっ? あ、あぁ、そうだな」
「錬成布とか錬成陣が描かれた専用の台座があれば、錬成部屋って必要ないんじゃないの?」
鍛冶とは違い、錬成は錬成布があればどこでも錬成が可能だと思っている。
そうなると、錬成の為の部屋を造る理由がよく分からないのだ。
ゾラさんの錬成部屋には変な布が下がっていたし、ソニンさんの錬成部屋にも壁際に掛けられていた。
全部に何かしら模様が刺繍されていたけど、あれが錬成部屋を造る理由なのだろうか。
「錬成布では、鉱石の錬成しかできません。先ほど話に出た魔獣素材の錬成はできないのです」
「そうなんですか?」
「鉱石と魔獣素材の違いは何だと思いますか?」
「パッと思い浮かぶのは、魔素の量ですかね」
「その通りです。ゾラ様や私の錬成部屋に魔導陣が刺繍された布が下がっていたのは覚えていますか?」
「はい。あれってやっぱり魔導陣だったんですね」
最初の頃は何なのか分からなかったが、魔導スキルの勉強会や昨日カズチが錬成した時に使った魔導陣を見て、もしかしたらと思っていたのだ。
「魔導陣には魔素分解の効果が刺繍されているのです。そのおかげで、鉱石よりも量の多い魔素を短時間で錬成できるようにしているのですよ」
「そうなんですねー……ん? 魔素分解?」
その効果って、僕はスキルとして持っているのではないか?
「そ、それって、僕の魔素分解スキルと同じ効果ってことですか?」
「その通りです。ですが、それでも布が必要ないということにはならないのですよ」
「でも、魔素分解スキルがあれば早く浄化ができるし、問題ないと思うんですが?」
あの布には、魔素分解以外にも意味があるのだろうか。
「魔素分解スキルには、確かに浄化を早く終わらせる効果もありますが、魔素を落ち着かせる効果がありません」
「魔素を、落ち着かせるですか?」
「魔獣素材の魔素には、魔獣本来の意思が宿ると言われています。錬成を行おうとすると、その反発力は鉱石の比ではありません。下手に錬成をしようとすると、魔素が暴走して素材が爆発、その反動で錬成師も怪我をしてしまいます」
「そ、そんな凄い爆発なんですか?」
「そうですねぇ……ケルベロスの素材が爆発したとなれば、ケルベロスのブレスが素材から溢れる、といえば分かりやすいでしょうか」
……えっ、それは怪我をする前に死んでしまうのでは?
だが、その例えが大げさではないというのはソニンさんの表情を見ていれば分かる。
錬成は素材の目の前で作業を行うのだが、そこでケルベロスのブレスが吐き出されたと考えると……おぉ、怖すぎるよ。
「ホームズさんやヴォルドさんでも、目の前でケルベロスがブレスを吐いたらヤバいですか?」
「死にますね」
「そりゃ死ぬだろう」
「……白い布、大事ですね。錬成部屋、大事ですね!」
錬成布があれば大丈夫だなんて言ってすみませんでした!
「……そ、それじゃあ、俺も魔獣素材で練習を積んでいいってことですか?」
「もちろんです。最初は危ないので私が付き添いますが、後々からは一人で練習することになります。その時には、安全に最善の注意を払って行うように」
「は、はい!」
「声を掛けてくれれば時間を作りますからね。コープス君もですよ」
「ありがとうございます」
僕も魔獣素材を錬成することができるのだから、将来的には唯一無二の一振りを打つことも可能、目標にまた一歩進んだことになる。
……あぁ、早く錬成スキルが欲しいよ。
「錬成部屋と合わせて、儂らから錬成陣が描かれた台座――錬成台を二人にプレゼントするぞ」
「えっ! あ、あれって高価って聞きましたが……」
「錬成部屋を造る人には全員にプレゼントしていますから、気にしないように」
「専用の槌に、専用の錬成台……おぉ、なんか生産に従事している感じになってきましたね!」
「コープスさんだけ感動の仕方が違いませんか?」
「それを俺に聞くな」
ホームズさんとヴォルドさんが何やらひそひそ話しているが、そもそも僕は生産職に就いて、生産に従事するのが目的なのだ。
今のこの状況は、今までで一番嬉しい状況なんですよ。
「儂から皆に声は掛けるが、小僧もあまり問題を起こすような行動を取るでないぞ」
「と、取りませんよ」
「ちゃんと外に出てくるようにね」
「あっ、そのことは俺とルルで見張るようにします」
「ピギャー!」
「それに、ガーレッドもやる気になってくれているので」
「ピギャギャン!」
そのことはもういいのではないですかねぇ。
「……そ、そういえばヴォルドさんはどうしてここにいるんですか?」
話を逸らせる為に、僕はヴォルドさんに声を掛ける。
「俺か? 俺はゴブニュ様に頼まれて、小僧に常識というものを教えることになったんだ」
……んっ? それはいったいどういうことでしょうか?
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