常識とは
僕にこの世界の常識がないのは知っているけど、そこで何故ヴォルドさんが出てくるのだろうか。
その理由についてゾラさんから聞かされた僕は──
「あー、確かにそうですね」
納得せざるを得なかった。
ダリアさんからもゾラさんを基準にしてはいけないと釘を刺されているし、ホームズさんも元上級冒険者ということで基準がおかしい。ここもダリアさんが怒っていたっけ。
そこでソニンさんの名前が上がらなかったってことは、少なくともソニンさんも一般常識とどこか違うということだろう。
「ヴォルドなら、良い塩梅で常識と非常識を教えられるだろうからのう」
「まあ、俺だけじゃ教えられないところは他の冒険者にも声を掛けているから安心しろよ」
「なんか、冒険者の仕事とは異なる案件ですみません」
「まーた、大人みたいな言い回しだな」
だって、常識を教える依頼だなんて普通は受けないよね。
それにヴォルドさんは上級冒険者で通り名持ちでもある。
後輩から慕われていて、面倒見も良いとはいえ、さすがにねぇ。
「まあ、ゴブニュ様の頼みだし、報酬もいいからな!」
「なるほど。それなら納得です」
「納得なのかよ」
「冒険者にとって、実入りの良い依頼は大事ですからね。それくらいは僕でも分かりますよ。それと、他の冒険者ってどなたなんですか?」
王都に行ったメンバーだと、常識人は誰だろう。
ガルさんはすでにカマドを発っている。
グリノワさんが一番落ち着いていたし、ヴォルドさんのサポートも務めていたから適任なのかも。
だけど、ラウルさんとロワルさんは最近まで中級冒険者だったみたいだから、感覚が一番近いのは二人である。
「……ラウルさんとロワルさんですか?」
「違うな。言っておくが、一緒に王都まで行った奴らじゃないぞ?」
「だったら分かりません!」
「だいぶ潔いんだな」
だって、僕が知っている冒険者なんて数えるほどしかいませんからね。王都に行った人じゃないのなら、分かるはずないじゃないですか。
「だが、小僧の知り合いだぞ?」
「僕の知り合いの、冒険者ですか? ……それだと、ユウキとフローラさんしかいませんけど……」
「まさにその二人だ」
「へっ? そうなんですか?」
ユウキたちとヴォルドさんって、何か共通点でもあったのだろうか。
下級冒険者のユウキたちから見ると、上級冒険者のヴォルドさんは憧れの存在のはずだし、そもそもどうして僕とユウキたちの関係を知っているのだろう。
「なんだ、不満か?」
「いえ、不満どころか久しぶりに会えるから嬉しいんですけど、どうしてユウキたちと知り合いなんですか?」
「ユウキって小僧は新人としての評判がいいからな。俺も気になっていたんだ。それで情報を集めてみると、ザリウスの弟子ってだけでなく、小僧とも色々関わりを持っているみたいだったからな」
「でもユウキは元貴族で、庶民の常識を知っているか分かりませんよ?」
ソラリアさんのところで頻繁に衝動買いをしているし、ユージリオさんは良い人だったけど親が子供を切り捨てることが普通の世界がこの世界の普通であって欲しくはない。
「いや、ユウキは冒険者になって都市内の依頼をこなしながら多くの人と関わることで、感覚も庶民に近づいている。小僧と仲が良いってところも、今回の依頼には最適なんだよ」
「……だったら、ヴォルドさんじゃなくて最初からユウキに依頼した方が良かったんじゃないですか?」
「むっ、言われてみるとそうかもしれんのう」
「ちょっとゴブニュ様! それはないですよ!」
いきなり報酬が無くなるかもしれないと思ったのか、ヴォルドさんが慌てた声を出している。
「冗談じゃよ。ユウキが分かることもあれば、分からないこともあるだろう。そこのバランスは任せておるぞ」
「……お、驚かせないでくださいよ」
「小僧もこれくらい驚いてくれてもいいんじゃがなぁ」
「蒸し返さないでくださいよ。あれは本気で悩んでいたからこその態度だったんですから。自分一番で良ければ、膝を折って落ち込んでましたからね」
いやもうマジで、錬成部屋の有無も考えずに泣きながら造ってと懇願したかもしれませんよ。
「とりあえず、今日は双子の為に鍛冶をするんだろう? 明日からユウキとフローラと四人で都市を散策しながら色々と教えていくからな」
「よろしくお願いします。……鍛冶、見ていきますか?」
「もちろんだ! 実はそれも楽しみだったんだよな!」
「……ヴォルドさんにあげるわけじゃないですよ?」
「分かってるよ。一冒険者としては、良い武器を見るのも楽しいもんだからな」
まさか、ヴォルドさんの口からそのような武器愛好家的な発言が飛び出すとは思いませんでしたよ。
これは、今後も付き合いを続けていきたくなりましたな。
「……なあザリウス。小僧はどうしてニヤニヤしているんだ?」
「きっと、武器が好きなのだと思われたのでしょうね」
「あー、なるほど。まあ、それはそれでいいんだけどな」
やっぱり好きなんですね! これはヴォルドさんにも新たな武器を──
「変なことを考えるでないぞー」
「はっ! ……りょ、了解です」
「せっかく鍛冶スキルを習得したのじゃから、儂も小僧の鍛冶を見てみるかのう」
「私も気になりますね。お邪魔してもいいですか?」
「それはもう、全然構いませんよ」
「私もお邪魔しましょう」
「俺も行っていいか? ガーレッドは抱っこしておくから」
「ピッピキャキャー!」
「なんだ、結局ここにいる全員で行くんだな!」
そして、まさかの大所帯で僕の部屋に向かうことになった。
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