スキルの向上と習得

 鍛冶をするにも色々なスキルが必要になることはよく分かった。

 それならば、持ってないスキルがあった場合はどうすれば良いのだろうか。


「スキルを持っていなくても鍛冶や錬成はできるものなんですか?」

「できなくはないが、スキル持ちと比べると良いものは作れん。自ずとスキル持ちだけが生き残るのが道理じゃな」

「それなら、持っていないスキルを習得することはできるんですか?」


 顎に手を当てて驚いた表情をするゾラ。

 何故だかソニンも目をまん丸に見開いている。

 ……あれ、聞いちゃいけないことだったのか?


「まぁ、できないことはないが……何故そのようなことを聞く?」

「だって、何でも一人でできたら楽だなぁーって思ったんですけど」

「何でも、一人で……」


 もしかして、この世界では一人で何でもやるのは好まれないのだろうか。

 そういえば『神の槌』は最大規模のクランなわけで、多くの職人が所属しているわけだからその人たちの仕事を奪うことになるかもしれない。


「それって、ゾラ様のようになると言うことですよ?」

「えっ! ゾラさんは全部一人でできるんですか、凄いですね!」

「……世界に五人もいないとされているんです」

「……あー、それは、凄いですねー」


 なるほど、それは目をまん丸にして驚くわけだ。

 何も知らない子供が目標にできることではないのだから。

 だが、だからだろうか。

 カンスト大好きな僕としては燃えて燃えて仕方がない。


「目標は高く持っていても良いですよね!」

「……そ、そうですね」

「がーはっはっはっ! 面白い小僧じゃないか! そうじゃのう、持っていないスキルを後から習得することもできるぞ」

「そうなんですか!」

「だが、そんじょそこらの努力では習得はできん。儂も元々は鍛冶スキルしか持っていなかったから分かるが、錬成スキルは錬成のための構築式を覚えるだけではなく式の意味も深く知る必要がある。座学も実践も必要になるのじゃ」

「と言うことは、持っていなくても勉強をして何度も繰り返し実践を行えばいつかは習得できるってことですね!」

「そうじゃな。だが、そう簡単ではないのじゃよ」


 繰り返し作業するのには慣れているからそうでもないような気がするのだが、経験者が言うのだからそうなのかもしれない。


「勉強や実践をこなすのはそう難しくはないが、素材を手に入れるのが大変なんじゃよ」

「素材を、ですか?」

「数をただこなすだけではスキルの習得はできんと言われている。それは価値のない素材で錬成や鍛冶を繰り返しても意味がないと言うことじゃ。ある程度価値のある素材を、ある程度価値のある商品として作り続けて初めてスキルの習得が叶うのじゃ。それだけの素材を手に入れ続けることが一番大変と言うことじゃな」

「なるほどー。素材って買うんですか?」

「買うこともできるが価値のある素材は高い。買う以外では自分で調達することもできるが、そうなると今度は危険がつきまとうことになる」

「……魔獣ですか」

「その通り。外に素材を調達に行くと言うことは、その身を魔獣に晒すことにもなる。冒険者に依頼を出すこともできるが、それにも結局は金が掛かるからのう。金を掛けるか、命を賭けるか、と言ったところかのう」


 そういうことなら難しいのも理解できる。

 お金も掛かるし命の危険もあるならスキル習得にこだわる必要もないだろう。

 役割を分担した方が全てにおいて上手く回るということだ。

 この世界がゲームと同じで死んでも復活できるなら別だが、死んだらお終いの世界でそんなリスクを冒す者は少ないだろう。


「……あれ? でも、だったらゾラさんはどうやって錬成スキルを習得したんですか?」


 難しいことはよく分かったが、それをゾラさんは実践したということだろうか。

『神の槌』ほどの規模があればできそうだが、そうなるとクラン設立後ということになる。

 それでは遅すぎる気がするし、鍛冶スキルだけで最大規模のクランへ成長させてからということにもなる。

 それはさすがに無理があるのではないか。


「儂の場合は生まれた環境が特別だったからの」

「そうなんですか?」

「……本当に何も知らんのじゃなぁ。儂はドワーフで、ドワーフの里で生まれたのじゃ。そこでは良質な鉱物がそこかしこで取れたので素材に困ることがなかったんじゃよ」

「な、なんて羨ましい。子供の頃から素材には困らなかったんですね」


 本音がポロリと出ただけなのだが、ゾラさんは怪訝な表情を浮かべた。


「ドワーフが羨ましいか? 儂らは洞窟で暮らし、土に塗れ、汚い種族と揶揄されてきたドワーフじゃぞ?」

「見る人によってはそう映るのかもしれませんね。僕から見れば、生産に携わるために必要なものが全て手に入るドワーフという種族に敬意を払いたいくらいですよ」


 しばらく怪訝な表情のままだったゾラさんは、次第に口角を上げてニヤリと笑みを浮かべた。


「本当におかしな小僧だことよ。確かに生産に携わるなら儂ら以上に恵まれた種族はおらんだろう。しかし、敬意を払うまで言うかい」

「だって、本当に羨ましいんですから! もし鍛冶スキルも錬成スキルもなかったら、僕はどうしたらいいんですか! この世界で生きていけませんよ!」

「いや、別に鍛冶が全てではないのですよ?」

「ダメなんですよソニンさん! 僕は、生産職に就きたいんです!」

「……それは、良い志かと、思いますよ?」


 拳をグッと握って熱い想いを伝える。

 だから、もし持っていなくてもクランから脱退させるなんて言わないでくださいよね!

 ってか、出て行きませんからね!

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