馬車の中では食事と世間話を
--ぐぅぅぅぅ。
僕は『神の槌』への加入がほぼ内定したことで安堵したのか、突然お腹が鳴り出してしまった。
どうやらお腹を空かせていたらしい。
記憶が大草原に立ち尽くしていたところからしかないため空腹感など感じている余裕がなかった。
「うふふ、せっかくですからご飯にしましょうか」
この世界のご飯がどういったものなのか。
まさかゲテモノ料理ではないかと不安にもなってくる。
何せ目の前にドワーフがいるのだ、日本とは明らかに異なる食生活があってもおかしくはない。
ドキドキしながら待っていると、出された食事を見て心底ホッとした。
「王都で購入したものですからなかなかに美味だと思いますよ、どうぞ召し上がってください」
サラダに焼いた肉、それにパンが出てきた。
ゾラさんもソニンさんもパンにサラダと肉を好きなように挟んで口に運んでいる。
それを真似て僕も食べてみる……心なしか肉多めで。
「--美味しい!」
サラダにドレッシングなどは掛かっていないが素材自体の味がしっかりしていて食べ応えもある。
肉は良質な脂が乗っているのか口の中で甘みを残しながら溶けていく。
パンも生地自体に塩味が練りこまれているのか、肉の甘みとマッチしてこれまた素晴らしい。
胃袋に食べ物を入れて初めて気がついたが、どうやら相当お腹が空いていたようだ。
一口食べてからは無我夢中で口に詰め込みながら水で流し込んでいく。
味わいつつも、今はお腹を満腹にすることを優先していた。
「--ゴフッ!」
「あらまぁまぁ、ゆっくり食べてもなくなりませんよ」
当然むせた。
グラスに水を注ぎながらソニンが優しく声を掛けてくれる。
「あ、ありがとう、ございます」
仕事の休憩時間にご飯をかけ込む癖が出てしまったようだ。
反省しつつ水で口の中をリフレッシュした後はゆっくりとご飯を食べた。
こんなゆったりしたご飯はいつ以来だろうか。
晩ご飯もゲームしながら食べることが多かったので味わったりゆっくり食べることをしていなかった気がする。朝ご飯に至っては食べない日もあったくらいだ。
美味しいご飯ならばゆっくり食べるのも悪くないと思えた時間だった。
「ごちそうさまでした」
「美味しそうに食べてくれたので、用意した甲斐がありましたよ」
「良い食べっぷりだったのう!」
改めて感謝しつつ、もしふたりに出会えなければ自分がどうなっていたかを考えると身震いがする。
移動も運任せ、水も食事もない中を目標もなくただ進まなければいけなかった。
いつのたれ死んでもおかしくない状況だ。
この世界にモンスターがいるならば恐怖に慄きながら殺されることもあったかもしれない。
……モンスター?
「ソニンさん、カマドに向かいながらの道中に危険はないんですか?」
いきなりモンスターいますか? とは聞けなかった。
いなかったらそれはなんだと聞かれても困るし、いた場合に知らなかったのかと聞かれても困る。
当たり障りないのがこのあたりではないかと思ったのだ。
「まあ、都市の外ですから危険はありますよ。魔獣もいますから」
「……魔獣?」
「本当に何も知らんのじゃなあ。魔獣は人を食らって進化する人間の天敵じゃ。今回はカマドから王都までの出張販売だったが、周りの馬車には護衛が乗っているんじゃよ」
「えっ? 四つの馬車全部にですか?」
「その通り。それだけ魔獣には気をつけなければいけないんじゃよ」
さすがに驚いた。
四つの馬車全てに護衛が乗っているとなれば、この馬車よりも小さいとはいえ一つの馬車に最低でも三人は乗れるだろう。
もしそうであれば十二名の護衛がいることになる。
「じゃがまあ、今回の人数は多すぎじゃ」
「そうなんですか?」
「カマドから王都までは半日程です。いつもならこの半分くらいの護衛でも事足りるんですが、今回は荷物が荷物でしたから」
どうやら貴重品を王都まで運んだようだ。
「今回は王太子への献上品があったからのう。まあ、護衛料や王都での宿泊料も王族持ちだったからできたんじゃがな!」
……王太子への献上品って、それを作れるだけの腕があるってことだよねぇ。
『神の槌』って本当に凄いんだと思わざるを得ない。
そこに加入できれば僕自身が本当に鍛冶スキルをカンストすることも夢じゃないぞ!
「……スキルに上限ってあるんですか?」
「……小僧、そこは王太子への献上品と言うところに驚くべきじゃないのか? そこで何故スキルの話になるんじゃ?」
「まぁ、スキルの方が優先順位として高いので」
「違うじゃろう!」
そうだろうか、王太子への献上品レベルの物はスキルを上げれば作れるだろう。
それならば、やはりスキルの情報の方が優先順位は高いはずだ。
うん、きっとそうだ。
「はぁ、小僧のことはよく分からんのう。儂も歳をとったと言うことか」
「ゾラ様はまだ若いですよ。そうですねぇ、上限はあるとも言えますし、ないとも言えますね」
「どういうことですか?」
さらりとゾラさんへのフォローを交えながらソニンさんの言葉に僕は首を傾げる。
「スキルには一から十までのランクが存在しています。そう聞くと上限があると思いますよね」
「そうですね、十が上限だと思います」
「その通りなのですが、全てにおいて一つのスキルを極めただけではより良いものを作ることはできないのです」
うーん、なかなかに難しい話である。
鍛冶スキルが高ければ武具類はもちろん、日用品だって上等な品が作れると思うのだが。
「私たちの場合は武器や防具など、騎士や冒険者が使う物を多く作っています。しかし、作るにしても素材を手に入れて、それを錬成し、最後に加工に移ります。それぞれの得意分野に分けて作業することもできますが、全てを一人でやろうとすればそれだけ多くのスキルを学び向上させなければならないのです」
なるほど、ここがゲームとの違いなのだと実感した。
ゲームなら鍛冶スキルが高ければ、素材さえあれば大抵のものが作れていた。
しかし、この世界では素材集めはもちろんだが、加工するための過程も必要となる。
その過程の一つが錬成と言うものなのだろう。
「錬成というものにもスキルがあるんですか?」
「その通りです。錬成スキルが高ければ希少性の低い素材でも良いものが作れますし、逆に低ければ貴重な素材を使っても平均的なものしか作れません。何かを作るには、一つの技術だけではうまくいかないものですよ」
何とも奥が深い言葉だろうか。
鍛冶スキルだけではなく、錬成スキルも必要になるのか。
そうなれば他にも色々なスキルが必要になるかもしれない。
なんてやりがいのある世界なんだ!
……早くスキルを調べたいなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます