クラン『神の槌』
僕はゾラさんとソニンさんが乗る中央の馬車に乗せられた。子供だから場所を取らないと判断されたようだ。
馬車の中には触り心地の良い絨毯が敷かれ、その上に木目が美しいテーブルとイスが二脚置かれている。
場所は取らないが僕の座る場所がないためどうしようかと思案していると、ゾラさんがどかっと絨毯の上に座ってしまった。
「遠慮はいらんぞ、何処でも良いから座るがよい」
「行儀が悪いですよ」
「儂らがイスに座ってしまったら小僧が座れんじゃないか」
「ふむ、それもそうですね。では私も」
言いながらソニンさんまで絨毯に座ってしまう。
そうなると僕も絨毯に座るしかない。
「それじゃあ、失礼しまーす」
胡座をかいて座ると、ゾラが近場に置いていた鞄から瓶を一本取り出した。
「……子供にお酒はダメですよ」
「おぉっ! そうじゃったな!」
--酒だったんかい!
「全く、少しお待ちくださいね」
立ち上がったソニンが馬車の後方に備え付けられている棚から別の瓶と透明なグラスを三つ取り出して戻ってきた。
本当なら小さなテーブルがあれば良いのだが--。
「どっこらしょい!」
--あるんかい!
ゾラが立て掛けていた小さいテーブルを目の前に置くと、その上にソニンがグラスを並べていく。
あまりに慣れた作業を見て、普段から絨毯に座っているんじゃないかと疑ってしまった。
「……たまにですよ?」
「あぁー、うん、いや、僕に言われても?」
顔に出ていたらしい、失敗失敗。
「がっはっはっ! ソニンは気にしすぎなのじゃ、地べたに座るのなんて普通じゃないか!」
「そうは言ってもですね、ゾラ様には威厳を持っていただかないと」
「普段はそのようなこと言わんではないか! 小僧がいるからと気を張っておるのか? 気にするな気にするな!」
どうやらソニンは僕がいるからゾラが偉いのだと示したかったようだ。
最大クランの棟梁って聞いただけで偉いことは知っているのでそんなことしなくてもと思ったのだが、見た目が子供なわけだから普通は分からないのかもしれない。
僕の場合は見た目は子供、中身は大人なわけだから分かるのかな。
「そうだ! お二人のクランってどういったことをしているんですか?」
ここはクランの話に誘導してソニンさんがいかにゾラさんが凄いのかを話せるようにすることが僕の役目だな。
別に、生産系の話が聞きたいとかそんな下心は一切ありません。えぇえぇ、ありませんとも。
「そうじゃのう、道中もまだ長いし話してやっても良いか」
「それもそうですね」
……おぉぅ、ソニンさんの笑顔が美しすぎる。
「棟梁のゾラ様を筆頭に、末端まで入れて五〇人近い職人が所属する鍛冶クランです」
「職人! 鍛冶!」
「……え、えぇ、その通りです」
やばい、嬉しすぎる!
鍛冶を主にするクランで、ふたりがそのトップなわけだから、ここで良い子を演じることができればクランに入れてくれるかもしれない。
ここは自重を有効活用しなければ!
「組織図を軽くお伝えすると棟梁のゾラ様、その下に副棟梁の私、さらに下に三人の鍛冶頭がいて、鍛冶頭一人に対して弟子という形で一〇人前後の見習いがおります。職人だけでは成り立たないことも多くあるので、その他の方たちは事務員や料理人などになります」
「クランに入りたい人はどうしたらいいんですか?」
「なんじゃ小僧、入りたいのか?」
「入りたいです!」
産業都市と名がつくカマドにおける最大クラン、それも鍛冶クランですよ?
入りたいに決まってるじゃないですか!
「ふむ、小僧には鍛冶スキルがあるのか?」
「鍛冶スキル! って、スキルってなんですか?」
スキルという言葉に興奮したが、そんなものがある世界なのかと驚きもした。
鍛冶スキルには非常に惹かれるものがあるが、この世界の情報があまりにも少な過ぎるので広い目線での情報が必要だ。
「……スキルを知らなんだか?」
「……まさか、そんなことってあるのですか?」
どうやらこの世界でスキルは知ってて当然のものらしい。
まぁ、ゲームなどのスキルと同じであれば特化した能力みたいなものではなかろうか。
鍛冶スキルであればスキルを持っていない人よりも鍛冶が上手いとか、上手くなるのが早いとか、そんなところだろう。
先天的なものであれば鍛冶スキルはあってほしい。もし後天的に習得できるのなら何がなんでも手に入れてみせるが。
それに鍛冶以外にも様々なスキルがあると考えれば、自分のスキルを知ることは非常に重要となるはずだ。
「スキルについては覚えていませんが、どうやったら調べることができますか?」
「普通なら生まれた時に病院で調べるのだけど、今からであれば神殿でしょうか」
「これソニン、何を固いこと言っているんじゃ。儂らのところでも調べられるじゃないか」
「えっ? そうなんですか?」
それは驚きだ。
おそらくスキルはおいそれと教えて良いものではないと思う。
それが調べられるとなれば、もし人に教えたくないようなスキルがあると手の打ちようがない。
「ですがゾラ様、我々の場合はクランに所属した者のみに有効なものではないですか」
「そうじゃったか? それなら入れてやれば良い、その方が手っ取り早いじゃろう!」
「ぜひその方向でお願いします!」
そうなればクランに加入もできてスキルも調べられる。一石二鳥とは正にこのことだ。
「……はぁ。分かりました、その方向で進めたいと思います」
「ゾラさん、ソニンさん、ありがとうございます!」
礼儀正しくお辞儀をした僕を見て二人は優しく微笑んでくれる。
……もしかしたら僕の顔は意外と可愛らしいのかもしれない。
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