産業都市カマド
この後もスキルのことや鍛冶に必要なこと、魔獣や素材についての話をしながらの道中となった。
そして数時間後、ついに産業都市カマドに到着した。
「凄い! ここがカマドなんですね! 城壁も高いし門も大きい! それに何より、煙突が多い!」
産業都市の名前は伊達じゃない。
見渡す限りの煙突煙突煙突、白い煙がモクモクと上りいたるところで何かしらの産業が稼働しているのだと想像するだけで興奮してしまう。
都市と言われるだけあって面積も広いようで門をくぐっても中央広場まで相当な距離があるようだ。
これだけの都市で最大のクランと称されるのだから『神の槌』の凄さを改めて実感する。
「さて、まずはコープスくんの住民権を取得しなければいけませんね」
「住民権ですか?」
「そうです。クランに加入するにはその都市の住民権がなければ加入できません。これはどの都市でも同じなのですが、根を下ろして都市に貢献してくださいね。と言ったところです」
詳しく話を聞くと、クラン加入以外にも住民権がなければ商売もできなければ住居も持てないという。
つまり、冒険者とほぼ同じ扱いらしい。
都市から都市へ、国から国へ飛び回る冒険者も住民権を持たないので商売や住居を持つことができない。
そのかわりに所属する冒険者ギルドに人となりを保証されれば住民権を持たなくても商売をしたり住居を持つことが可能だ。
ほぼ、と言ったのはその辺りの違いがあるからだが、冒険者ギルドが保証する人はほんのひと握りらしく、カマドであっても多くはないらしい。
お偉いさんの口利きがあれば別らしいけど、それは本当に稀らしい。
冒険者でもない僕では現状何もできないので住民権を取得するのは必要なことだった。
「と言うわけで、まずは役所に向かいましょう」
「分かりました」
「ソニンよ、小僧のことは任せたぞ。儂はクランの奴らに荷物の片付けを指示しとくわい」
ゾラさんとは正門をくぐってすぐの場所で一旦別れた。
今はソニンさんと徒歩で役所に向かっている。
その通りにも鍛冶屋や雑貨屋が立ち並び其処彼処で客寄せの声が響き渡り、その間断に槌を振るう音が耳朶に響き自然と頬が緩んでしまう。
これだけ産業が盛んな都市で、僕自身が産業に携われると考えれば心踊るのも仕方がない。
そんな僕を見ているソニンさんの視線が痛い気がするのは、きっと気のせいだろう。
これでも自重しているのだから。
しばらく進むと、一際大きな建物が目の前に現れた。
「あれがカマドの役所ですよ」
「……大きいですねー」
室内は一〇〇人以上が入っても余裕があるくらい広く、さらに三階建てということもあり外から見ても中から見ても大きいの一言に尽きる建物だった。
その中の一つの受付に向かったソニンさんが受付嬢と一言二言話をすると、こちらに振り向いて手招きをしたので慌ててそちらに向かう。
「あら! 可愛らしい男の子ですね。こんにちは、私はリューネ・ハンクライネ。役所職員兼『神の槌』専門の職員よ」
「ジン・コープスです。……って、『神の槌』専門?」
役所と言うことは都市が運営している機関のはずだ。
そんな役所に一クラン専門の職員が配置されるものだろうか。
「説明を省きすぎではないですか、リューネさん」
「あら、ごめんなさい。でも面白い子ねぇ、普通なら専門なんて言葉を使ったらただただ凄い! って喜びそうなのに」
「少し大人びていると言うか、不思議な子なんですよ」
……ソニンさんの僕への評価が不思議な子だったとは、初耳でございます。
「あはは、そっちのクランにはそんな子が多いじゃないのよ! えーっと、それじゃあ説明するわね。普通なら一つのクランに専門の職員を充てるなんてことはしないわ。だけれど、『神の槌』に関して言えばそれが許されているのよ--国からの指示でね」
「えっ! 国からの指示ですか、都市じゃなくて?」
「そーなのよ、面倒臭いわよねー」
「リューネさん、本音が漏れてますよ」
「あらっ、ごめんなさいね」
こんなにも本音がポロポロこぼれてきていいのだろうか。
それに、話が脱線しているせいでなかなか前に進まない。
「それでね、『神の槌』が作る上質な商品は基本的に役所を通して卸すことになったのよ」
「どうしてですか?」
「性能が高すぎる商品が市場へ大量に出回ってしまうと他のお店やクランが潰れてしまう、国はそれを危惧したわけね」
「うーん、そんなものなんですねぇ」
「他の人たちが努力をしていないわけじゃないんだけどね、どうしてもゾラくんやソニンちゃんが作ると性能がグーンと上がっちゃうのよ。でも鍛冶頭や見習いが作った商品はクランからの販売も可能だからジンくんが気にすることはないのよ」
「あー、凄い人の作品だけってことですか。……ん? ゾラ、くん?」
おかしい。
リューネさんの方が明らかに年下のはずだ。
ゾラさんはドワーフだからかもしれないが髭面で顔もおじさんよりである。話し方からしても相当な年齢のはずだ。
一方のリューネさんは見目麗しいと言っていいくらいの美人で若く、むしろ幼い顔立ちをしている。
明らかに年下であるはずのリューネさんがゾラさんにくん付けというのは、それだけリューネさんが偉いのだろうか。
「あー、コープスくん。リューネさんの見た目に惑わされてはダメですよ? 彼女、私やゾラ様よりもはるかに年上ですから」
「ひっどーいソニンちゃん、エルフの秘密をバラしちゃやーよ!」
「子供相手に嘘をつかないでくださいよ!」
……エルフでしたか。
ゲームとかの世界ではドワーフも長命だと聞いたことがあるが、エルフはその最たる種族のはず。
程度もあるはずだが、二〇〇歳や三〇〇歳になる人もいるかもしれない。
「でもでも、見た目が一番大事よね。ジンくんも気軽に話してくれて構わないわよ」
「……善処します」
そんなこんなで僕の住民権取得は完了した。
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