素材の見極め方

 僕の師匠はゾラさんとソニンさんになった。

 まさかの棟梁と副棟梁である。

 嬉しいのだが、カズチの反応を見ていると贅沢過ぎるようで他の見習いから野次が飛ぶのではないかと心配もされてしまった。


「そこは、儂とソニンが言いくるめるので心配するでない。それに、小僧は将来有望じゃからな。カズチと合わせての」

「いや、俺は、そんなことは……」


 褒められて照れるなんて、強がってるけどまだまだ子供だね。

 ……あっ、僕も今は子供なんだっけ。


「うわー、うれしー、ありがとー」

「心にもないことは言わんでもよい」


 いや、少しは思っているんですよ?


「この後、こっちにソニンが来ることになっとる。カズチもついでに鍛冶について勉強しとくんじゃな。錬成をする上で鍛冶について知っておくのも大事じゃぞ」

「ありがとうございます!」

「うむ、小僧もこれくらい素直ならもう少し可愛くなるんじゃがのう」

「僕はこれでも素直なんですよー」

「……それもそうか。それじゃあそこに座りなさい」


 ……んっ? 今、軽く失礼なことを言われたような?


「とりあえず、まずは実際に鍛冶を見てもらおう」


 そう言って取り出したのはカズチが錬成した素材と同じ銀。

 ただ、一目見ただけで錬成の精度が非常に高いことが分かった。

 見た目ではない。なんとなく、見ただけでこの素材は素晴らしいのだと心が理解してしまう。

 カズチも同じ想いなのか、視線が銀に釘付けだ。


「これはソニンが錬成してくれた一流の素材じゃ。一流の素材は見る人が見れば自然とその素晴らしさが分かると言われているが……やはり、お主らは分かったようだの」

「……はい。俺がまだまだ未熟だと、実感しました」

「がっはっはっ! ソニンの錬成は超一流だからの、お主が落ち込むことはないぞ! むしろ、素質を見出したからこそソニンも弟子にしたのじゃ、より励むことだ」

「はい!」


 うんうん、若者が夢を追い掛ける姿はどの世界でも素晴らしいものがあるね。

 でも、僕だって日本にいた頃はギリギリ若者に数えられる年齢だったんだ、夢を追い掛けても問題ないはず!


「なんて言うんだろう、素材自体が語り掛けてくるような、存在を教えてくれてるような、そんな感じがしますね」

「ほお……小僧はそこまで感じ取れるか」


 感心したように呟きながらゾラさんが顎の髭を撫でる。


「なあジン、それってどんな感じなんだ?」

「んー、なんて言ったらいいのか難しいんだよね。なんか、そこを見ないといけない感覚みたいな、素材自体が輝いてる? そんな感じで、ここにいるよーって教えてくれているみたいな?」

「俺の感じ方とは違うなぁ。俺は、心に響いてくるんだ。見ていると、鼓動が早くなるって言うのかな、そんな感じだ」

「人によって感じ方はそれぞれじゃ。小僧の感覚もカズチの感覚も間違いではないから、その感覚を研ぎ澄ますがよい」

「研ぎ澄ましたら何かあるんですか?」


 この感覚があれば優れた錬成師を見つけることも可能だろう。

 ただ、鍛冶や錬成って信頼が重要な気がする。

 一度優れた錬成師を見つければ、僕ならその人にずっとお願いすると思う。

 それくらい鍛冶と錬成は切り離せないものだ。

 コロコロと鍛冶師や錬成師を変えるのはよろしくない気がする。


「良いものを見極める感覚は、錬成前の素材にも当てはまるのじゃ」

「そうなんですか?」


 僕はカズチと顔を見合わせる。

 なんとなくだけど、この感覚は錬成後の素材にだけ感じるものだと思っていた。

 錬成前の素材にも当てはまるのなら、素材を持ち込んで錬成してもらうとかそんな感じだろうか。

 でも、それだと素材を自分で調達するってことかな。

 ……冒険者みたいなことはしたくないんだけどなー。


「小僧、今面倒臭いみたいなことを考えておるだろう」

「あれ、顔に出てましたか?」

「……自分の感情を隠す練習も必要かのう。おそらく素材探しが面倒臭いみたいなことじゃろう?」

「あははー。冒険者みたいなことはしたくないって考えてました」


 な、何故そこまで分かるんだろうか。


「別にその感覚で冒険者の真似事をしろとは言っておらん。素材を購入するときに不純物が多い素材を見分けられると言うことじゃ」

「なるほど、それが分かれば錬成師としてはかなり楽に錬成ができます」

「その通り。それと、これはあまり良くない話なんじゃが、見た目では分かりづらい粗悪素材を売りつける輩もおるんじゃよ」


 苦い顔で呟くゾラさん。

 でも、そんなことできるんだろうか。

 同じような感覚があればできるかもしれないが、意図的に粗悪素材を売りつけると言うことは、素材に細工をすると言うことだ。

 一度錬成に失敗すると、それ自体に不純物が多く残ってしまい良い商品にはならないとカズチは言っていた。

 ということは、一度錬成した素材の再錬成はできないということではないのか?


「錬成した素材って再錬成できませんよね?」

「その通りじゃ。だからこそ、見分けるのが難しい。通常の錬成は素材を丸ごと対象にして行うが、奴らは素材に穴を開ける」

「穴?」

「そうだ。見えない中の部分から素材を抜き取り、軽くなったところに不純物を詰めて見た目には分からない粗悪素材の出来上がり。そして粗悪素材を良質素材として売り、さらに抜き取った素材部分は錬成済みの素材として売りに出すことで二倍の利益を得ているようじゃな」

「でもそれって、もの凄い高等技術ですよね?」


 本来なら丸ごと対象にして行う錬成を、穴になる部分と見えない中身の部分に対象を限定して行うのだ。

 褒められることではないが、その技術力は一級品だろう。


「勿体無い話じゃがの。もっと別のところに技術を使えなかったのか。……おっと、話が逸れてしまったの。そんな粗悪素材に騙されんように、先ほどの感覚を研ぎ澄ませておくのじゃよ」


 せっかくの技術を悪用するなんて許せない。

 僕はそんな奴らにお金を渡さないためにも深く頷き、素材からの声を聞き分けられるよう努力することを決めた。

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