いざ、ラドワニへ
翌朝、僕はユウキと一緒に事務室前まで移動した。
僕たちがソニンさんと一緒にラドワニへ向かうことを聞いていたのだろう、ホームズさんが心配そうに声を掛けてきた。
「ユウキ、コープスさんのことをよろしくお願いしますね」
「ホームズさん、大げさじゃないですか?」
「大げさも何も、コープスさんが変なことをする可能性が高いので、しっかりと見張っておいてもらわないといけないんですよ?」
……心配というか、監視のお願いにやって来たようでした。
「酷くないですか? 最近の僕は変なことをやらかした覚えはないんですけど?」
「超一級品の武器を三本も打ってしまったのはどこのどなたでしたか? そんなことを他の都市でもやられてしまうと後々大変になるのはこちらなのですよ?」
「ほ、他の都市でそんなことはしませんよー」
「外で鍛冶ができると、喜んでいませんか?」
な、なぜそのことを知っているのでしょうか?
いや、本当に、少しだけ、そう思っていただけなんですけど?
「……はぁ。そもそも、外で鍛冶をする行為自体がすでにおかしいんですからね?」
「……ぜ、善処します」
「ユウキ、本当によろしくお願いしますね。マリベルだけなら口も堅いですし大丈夫だとは思いますが、他の目があるところでは決してコープスさんのスキルがバレるようなことはしないように」
「き、気をつけます」
王都について行った時にはそこまで強く言われなかったのに、今回はどうしたのだろうか。
「……もしかして、ゾラさんから何か言われましたか?」
「……まあ、コープスさんを王都まで同行させたのは私の判断でしたからね。結果的に助かりましたが、やはりあの判断は間違いでしたから」
「そんなことはないですよ」
僕の言葉にホームズさんは優しく微笑むだけで肯定も否定も口にはしなかった。
その後すぐにソニンさんもやって来たので詳しく話を聞くことはできなかったが、ゾラさんからホームズさんに話されたということは、ソニンさんも知っている可能性はあるので後で聞いてみようと心に決めて、僕たちは本部を後にした。
※※※※
東門に到着すると、マリベルさんとハピーがいるのは当然なのだがマリベルさんの表情が困惑気味だ。
何事だろうと思っていたら、その困惑の原因らしい人物が馬車の方からやって来た。
「あれ、どうしてグリノワさんがいるんですか?」
「久しぶりじゃのう、ジン」
上級冒険者のグリノワさんが何故このようなところに? それも、馬車の方からやって来たけど降りてきたのって御者が座る席からだったような。
「あー、えっと、馬車と馬を借りに行ったんだけど、そこにゴルドゥフさんがいて、話をしたらついて行くって聞かなくて……」
「何やら楽しそうだったんでな。暇じゃったし、御者としてついて行くことにしたぞ」
「ついて行くことにしたぞって、他にも依頼はあるでしょうに」
僕が呆れ声で答えていると、ソニンさんが少し困ったような表情で話し掛ける。
「グ、グリノワ様? ついて来てくれるのはありがたいのですが、さすがに上級冒険者二名に渡せる報酬を出せる程の予算はないのですが……」
ソニンさんが心配していたのはお金の部分だった。
上級冒険者のマリベルさん、そして下級冒険者だがユウキとフローラさんで二人分。
ここにさらに上級冒険者に支払い分の報酬が上乗せとなれば、予定の予算よりも高くなってしまうのは明白だ。
ありがたいのは本音なのだろうが、ここはさすがに断るしかない。
「報酬? あぁ、そんなもんはいらんよ」
「……はい?」
「これは儂の酔狂じゃからな。そんなもんに金を要求するわけがないじゃろう」
「いや、ですが……」
「なーに、ジンと一緒じゃと色々と面白そうじゃからな!」
「いや、そこで僕の名前を出さないでくださいよ!」
ほら、ソニンさんからジト目を向けられちゃったじゃないですか!
「とにかく、儂はただの御者じゃから気にするな! まあ、たまーに話し相手くらいにはなってほしいがのう」
「……はぁ。分かりました、お願いいたします。……あの、本当に報酬はいらないんですか?」
「いらん、いらん。何なら、無理やりついて行くんじゃからこちらから支払いをしようか?」
「い、いりませんよ!」
「がはは! まあ、そういうことじゃ。ほれ、さっさと乗らんかい」
グリノワさんはそう言うとさっさと御者席に戻ってしまった。
僕もソニンさんも溜息をついているのだが、一番緊張しているように見えるのはマリベルさんだ。
「どうしたんですか?」
「……ゴルドゥフさんには、私が冒険者になったばかりの頃に色々と教えてもらったのよ」
「というと、マリベルさんの師匠ってことですか?」
「まあ、そんな感じかな。……あー、やりにくいわぁ」
頭を抱えてしまったマリベルさん。
昨日からは打って変わった様子に苦笑を浮かべながら、僕はソニンさんと一緒に馬車へと乗り込む。
ユウキとフローラさんは馬に、マリベルさんはハピーに跨って準備が完了した。
「……」
「……これ、マリベル!」
「は、はい!」
「お主がリーダーなんじゃから合図を出さんかい!」
「……えっ、リーダーはゴルドゥフさんでしょ?」
「儂は御者じゃと言っただろうが!」
「はい~!」
マリベルさん、相当テンパってるのかな?
こんな感じで、僕たちはカマドを後にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます