初めての鍛冶

 鍛冶の勉強ができると聞いてすぐにカマドに戻ってきた僕たちは依頼完了の報告をするために冒険者ギルドを訪れていた。

 ダリアさんに挨拶をした後、依頼書に完了のサインをして提出する。

 ユウキから無属性魔法を教えてもらえたので大銅貨三枚に追加で大銅貨一枚がユウキに渡された。


「えっ、こんなに頂けませんよ!」

「気にするな。護衛以外のこともしてくれたんじゃから当然の報酬じゃよ」

「そうそう、受け取っておきなよ」

「……それを小僧が言うでない」


 あれ、ダメだった?

 まあユウキが僕の一言で受け取ってくれたから良しとしましょう。……なんか苦笑していたけどね。


「それじゃあ、また何かあったら声を掛けてよ」

「もちろん、これからもよろしくね。今日はありがとう!」


 ギルドの窓口でユウキと別れた僕たちはそのままクランに戻ったのだが、その間もゾラさんはユウキと話した内容について教えてはくれなかった。

 気になると言うのが本音ではあるけれど、鍛冶についての勉強が出来るなら何も言うまい。

 ただ、カズチとルルは今もまだ気になっているようだ。


「ねぇ、何だったんだろうね」

「ユウキは魔獣はいなかったって言ったけど、本当は何かいたんじゃないのか?」

「どうだろうねー」

「何だよ、ジン。気にならないのか?」

「気にはなるけど鍛冶の勉強の方に意識がいってるからねー」

「ジンくんはジンくんだね。いつでも普通でいられるって凄いと思うよ」

「……それ、褒めてるんだよね?」


 そんな会話をしながらクランに到着すると、ルルは食堂の手伝いをすると言って別れた。

 カズチは錬成のために鍛冶についても学びたいと志願して僕に付き合ってくれるようだ。

 その心意気は素晴らしい、このまま鍛冶師としても育ってくれたらなお良しなんだけどなぁ。


「言っておくけど、俺には火属性ないからな」

「……残念」


 兎にも角にも鍛冶の勉強が出来るならそれに越したことはない。

 ゾラさんの鍛冶部屋に入ると僕に一つの素材が渡された。


「とりあえず一度作ってみろ。作るのはナイフ、小さいから素材も小さめで構わんから初心者用じゃ」

「はい!」


 おぉぉ、いきなり作れるときたか!

 僕はドキドキしながら手の上にある素材を見つめる。この銅がこの後、僕の思う形に成形されるのだ。


「それと、これは儂からのプレゼントじゃ」

「えっ?」


 次に渡されたのは大小二つの槌。

 どちらも銀の光沢が眩しくズシリと重い。


「これを使ってナイフを打て」

「で、でも、銀狼刀ぎんろうとうも貰ったのに、槌まで」

「あれは加入祝い、これは儂個人からのプレゼントじゃから気にするな」

「……あ、ありがとうございます!」


 うおおおおぉぉっ!

 真新しい槌だよ! 日本でもお目にかかれなかった僕の槌だよ!

 ゲーム世界でならたくさん振るってきたけど、本当に振るえる日が来るなんて夢のようだ!


「やり方はこの前見せたな。……あー、前は説明不足じゃったか?」

「大丈夫です! 早くやりたいので!」

「……そうか。まあ、窯を壊さん程度にな」


 心配しないでくださいよ、ゾラさん。僕は火加減に関しては多少自信があるんですよ!

 えーっと、まずは窯の中に銅を入れて火を灯す。


「--えい」


 火力は約千度、黄色い炎を維持し銅を溶かして型に注ぎ込む。

 ドロリと溶けた銅が型に流れ込み徐々に固まっていく。


「鋏はこれを使え」

「はいっ!」


 ゾラさんが使っていた鋏、魔法を使うことで一定の熱を与え続けられるのだが僕にはそんな技術はない。

 本当に銅を挟むためだけに使用して金床かなとこに銅を置くと大きい槌を力一杯振り下ろす。


 --カンッ。カンッ。


 ……ち、力が足りない。

 イメージするんだ、僕が想い描くナイフの形状を、それに合わせて無属性魔法を発動!


 --カンッ。カンッ! カンッ!


 ……よし!

 再度窯に銅を入れて熱して折り返し、再び槌を振るう。

 高温になった部屋の中で大量の汗を噴き出させながら何度も何度も槌を振るう。

 無属性魔法の影響なのか、イメージしているナイフの形状にどんどん近づいていく。

 次に小さい槌に持ち替えて細かな部分を直していく。

 僕がイメージしたのは刃渡り三〇センチ程のナイフで刀身には波紋が入っている。

 柄の準備なんてしていないので銀狼刀のように刀身から柄まで一つの金属で成形する。

 最後に水属性魔法で桶に水を溜めてナイフを突っ込んだ。


 --ジュゥゥゥゥ。


 最後に焼戻しの作業を行う--はずだったが。


「--えっ、えっ?」


 桶の水が突然光だし部屋全体を真っ白に染め上げてしまった。

 光はすぐに収まったが僕だけでなく、ゾラさんもカズチも目を見開いている。

 ……これも普通とは違うんだねー。

 恐る恐る水の中からナイフを取り出してみた。


「……出来ちゃったね」


 そこには僕が頭の中でイメージした通りのナイフが出来上がっていた。

 刀身の波紋もそのまま、一回目からこれだけの物が出来ていいのかと内心疑問に思ってしまう。


「……ちょっと見せてくれんか?」

「あっ、どうぞ」


 僕はナイフを手に取ってゾラさんの渡す。

 刀身から柄まで長い時間を掛けて検分した結果--。


「これも、あのスキルの影響かのう」

「どうしたんですか?」

「……このナイフ、超一級品になっておるわ」

「…………はい?」


 えっ、ちょっと、聞き間違いじゃないよね。


「儂やソニンが作った物と遜色ない出来じゃよ」

「…………ええええぇぇっ!」


 いや、でも、ちょっと待って! それってスキルのカンストとか関係なくないですか!?

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