体の変調

 ……な、何故こうなった。

 僕は小さなことからコツコツとランクを上げてカンストを目指すはずだった。

 なのに……なのに……!


「何でいきなり超一級品が出来ちゃうんだよー!」

「な、何故に悲しむんじゃ! そこは喜ぶところじゃろう!」

「だって! なんかこう、達成感が少な過ぎますよ! 苦労して苦労して、そしてスキルを最高にして出来たものが一番でなきゃいけないのに、いきなりだなんて……ロマンがないよ!」

「ろ、ろまん? 何じゃそりゃ?」


 うぐぐっ、これも英雄の器のせいなのか? そうだよね!

 こんなチートスキルならいらないんだけど!

 だって僕、まだ鍛冶スキルも持ってないんだよ!


「この調子だと、錬成をしても似たようなことが起こりそうじゃな」

「そ、そんなぁ〜」


 僕が一番楽しみにしていた作業がなくなってしまった。

 これから先、僕はこの世界で何を楽しみに生きていけばいいのだろうか。


「今でこの出来かよ。鍛冶スキルを覚えて作ったらどうなるんだろうな」


 ……んっ? 鍛冶スキルを覚えて作ったら?

 はて、どうなるのだろう。

 鍛冶スキルがない状態で超一級品を作れたのだから、あれば更に上の等級品を作れるのではないだろうか。

 それって--唯一無二の武具を僕が作れるということではないか?


「……ふふ、ふふふ、ふはははは! そうか、そうだよ!」

「ど、どうした、小僧?」

「ジンが、壊れた」


 俺はこれまでも生産スキルをカンストして唯一無二の武具を作ってきたんだ! ゾラさんやソニンさんと同等の武具を作れたのは嬉しいけど、俺は俺にしか作れない武具を目指せばいいじゃないか!


「そうだよ、まだ目指すところがあるじゃないか! こんなところで止まってはいられない!」


 それにはまず鍛冶スキルと錬成スキルを習得しなければならない。

 たくさん錬成して、その素材でたくさん鍛冶をこなす。そうすれば二つのスキルを習得できるはず。


「ゾラさん! もっと鍛冶をやらせてください! そうすれば俺だけの武具……が…………あ、あれ?」

「ど、どうした、小僧!」


 何だろう、急に、体が。


「う、動か、ない?」

「ピ、ピキュ! ピキュー!」


 あまりにも突然の出来事だった。

 それ以上に全身が痛くて痛くて堪らない……んっ、痛い?


「あー、これってもしかして、筋肉痛?」

「「……はあっ?」」

「ピキャ?」


 動かないんじゃなくて、痛くて動かせないんだ。

 それにしても全身筋肉痛って、こんないきなりなるもんなの?


「あっ! ジン、外での練習だけでもユウキにやり過ぎって言われてたのに鍛冶でも使っただろ」

「つ、使った、けど?」

「だからだろ。明日から来る予定だった痛みが蓄積して今日来ちまったってことじゃねえ?」


 筋肉痛ってそんなもんだっけ?

 でもユウキが筋肉を無理やり活性化させるとか言ってたから、僕の考え方がこの世界では間違えているのかもしれない。


「このままではこれ以上の鍛冶は無理じゃのう。今日は部屋でゆっくり休んでおけ」

「そんな! せっかく目標ができた、のに」

「そんな状態で行っても成功せんぞ。ちゃんと出来てこそスキル習得につながるんじゃ。今日はもう休め、いいな?」

「……分かり、ました」

「素直でよろしい。カズチはすまんが小僧を部屋まで連れて行ってくれ。一人では戻れそうもないしのう」

「はい」


 非常に名残惜しいけど、僕はカズチの肩を借りて部屋に戻ることにした。

 道中は何事かと周りから視線が集まったのだが、体の痛みの方が辛過ぎて気にならなかった。

 部屋に着いた僕は一度体を流したいと思ったのだが、この状態ではろくにお風呂にも入れないと考えて止めた。


「何かいるものはあるか?」

「今のところは、大丈夫。迷惑かけて、ごめんね」

「気にするなって。ジンと一緒にいたら面白いしな。一応、明日も様子見に来るからよ」

「うん、ありがとう」


 カズチが部屋を出た後、すぐに寝ようと思ったが寝つくことができなかった。

 机に置いている歴史本に手を伸ばしたが痛くて寝ながら読むのも困難だと判断して止めた。


「……あー、あの時、完全に素が出てたよなぁ」


 あまりに興奮してしまい自分のことをと呼んでしまった。

 別に悪いことではないが一つ反省である。


「ピ、ピキュキュ?」

「ガーレッド、心配してくれるの? ありがとう、ただの筋肉痛だから大丈夫だよ」

「ピキュッキュー」


 よかっただって、本当に可愛い子だなぁ。

 もぞもぞと僕の胸に頭を擦り付けながら目を閉じるガーレッド。その姿を見ていると僕の瞼も重くなり、気づけば眠りについていた。

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