閑話:ユウキ・ライオネル
僕は駆け出しの冒険者、ユウキ・ライオネルです。
魔導師の名門家であるライオネル家を出て冒険者になりました。
名門と言われても産まれて来る子供が全員それに相応しいスキルを持っているとは限らない。
そう--僕のように。
ただ、僕は末っ子ですから自由でとても楽です、家を出たいと言えばすぐに出してもらえたよ。
冒険者はとても大変な職業だけど、一定の実力があれば誰でもなれるから助かります。
ただ、実入りが良い依頼は人気がありすぐに無くなってしまいます。その分危険な依頼でもありますが。
「おー、ユウキくん! 今日も頑張るねー!」
「おはようございます、ダリアさん」
ダリアさんは冒険者ギルドの受付担当。何だけど、僕のことを気にかけてくれて色々と面倒を見てもらっています。
最初の頃はどうやって依頼を受けるのか、何が危険で何が安全か、そして駆け出し冒険者用の依頼が溜まっているなんてことも愚痴のように教えてくれた。
だから、というわけじゃないけど僕が出来る依頼はなるべくやろうと思ったんだ。
「今日はこの依頼を受けようと思います」
「えーっと、何々? 壁の落書き落としにドブ掃除、それと……犬の散歩? やだ、誰よこんな依頼受け付けたの」
依頼書を見ながら憤慨しているダリアさんは、壁の落書き落としとドブ掃除だけ受理してくれた。
「この二つは報酬も適切だけど、犬の散歩は論外。受けたのも新人ちゃんだし、無理強いされたのね。もし良かったら午後は魔獣狩りに行ってくれないかな。もちろん、無理しない範囲でね」
「分かりました。それじゃあ行ってきます」
冒険者ギルドを出た僕は最初に落書き落としの依頼主のところへ向かった。
事前に用意していたペンキ落としを使って手際よく作業を行い完了印を貰うと、その足でドブ掃除に向かう。
こちらは時間が掛かったものの綺麗に掃除が出来たので依頼主も満足してくれた。
一度家に帰り体を軽く流してから食事をとり、午後は魔獣狩りに向かう。
とはいえ、カマド周辺は平穏そのものなので本来なら魔獣が多いところではない。
だけど--。
「ふっ!」
僕は剣を横薙ぎにして飛び掛かってきたラーフの首を落とした。
--今日はこれで五匹目だよ。
狩りを始めて鐘二つ分、この時間で五匹は多い。
討伐部位を切り取り魔獣をひと塊りにして火属性が描き込まれた
魔護符もタダじゃないから大変だけど、これをしないと魔獣が寄ってくるから仕方ない。
魔護符のストックが三枚を切ったら戻ろうと考えていると、森の方から再び三匹の魔獣が現れた。
魔護符のストックは後五枚、無駄にはできないけど見つけた魔獣を放置することもできないので剣を抜く。
突進してきたゴラリュの左前脚をすれ違いざまに切断して動きを封じ、最後方に控えていたヘドゥに投げナイフを投じて仕留める。
目の前に迫ったゴブリンが振り下ろしたナイフを弾き返して袈裟斬り、無属性魔法で強化した一撃はゴブリンを二つに斬り裂いた。
すぐに反転して動けなくなったゴラリュの首を刎ねて片付ける。
すぐに証明部位の切り取りを終えて処分するが、立て続けに魔獣が現れた。
「ちょっと、これ、多くないか!?」
森に近寄りすぎたかな、少し離れてカマド近くで迎撃しよう。
魔獣を引きつけながら後退を続けた僕は、タイミングを見計らって魔獣を片付けると急いで証明部位の切り取りと処分を終わらせてカマドに戻った。
……なんか、今日はおかしかったなぁ。
そう考えながら僕は冒険者ギルドでダリアさんに依頼書と証明部位を提出した。
「依頼完了ね。証明部位は……って、こんなに?」
「今日は魔獣が多かったんです。森で何かあったんでしょうか」
「よく分からないけど、魔獣が増えているのは確かね。ユウキくんも無理しちゃダメだよ?」
「ありがとうございます、今日はもう休みますね」
「それがいいわ。それじゃあこれが今日の報酬よ」
受け取った報酬を手にギルド内に併設されている売店で魔護符を補充して僕は家に帰った。
翌日、冒険者ギルドに訪れると何故かダリアさんに呼び出された。
その先にいたのは--。
「は、はじめまして! ユウキ・ライオネルです!」
「おう、儂が『神の槌』の棟梁のゾラ・ゴブニュじゃ。こいつらは見習いで、でかいのがカズチ・ディアン、ちっこいのがジン・コープス、女の子がルル・ソラーノじゃ」
「ちっこいのって、酷いです!」
「分かりやすいではないか!」
ま、まさか、『神の槌』棟梁であるゾラ様の依頼を受けられるなんて、ものすごく恐縮なんですけど。
ダリアさんは自信を持てと言うけれど、いきなりこんな有名な人の護衛だなんて緊張しないわけがない。
だけど、見習いのジンやカズチ、ルルさんとは気安く話ができるようになったから嬉しかった。同年代の知り合いなんていなかったし。
道具屋ではガーレッドに驚かされてしまった。
それに
……だって、あれ本当に貴重品なんだよ?
カマドの外に出るとジンが魔法の練習をすると言うことで僕は周囲の警戒にあたることになった。
見渡したところ近くに魔獣はいないから森の方を重点的に警戒する。
途中、ジンとゾラ様の大声が聞こえてきた時には本当に焦ったんだ。だって、気づかずに魔獣を近づけさせていたら依頼失敗だけではなく、カマドの宝であるゾラ様を失うことになるかもしれないんだから。
再び警戒にあたっていると森の方から魔獣の群れが姿を現した。
やはりおかしいと思いながらも後方にはゾラ様たちがいるので疑問は忘れ魔獣討伐のことだけを考える。
出し惜しみをしている暇はないので最初から無属性魔法全開で仕留めに掛かる。
狙いは急所のみ、一撃で仕留めることを意識して突進してくるゴラリュの首を横薙ぎで刎ねながら、返す剣でもう一匹のゴラリュを胴体を斬り裂く。
横から回り込んできたラーフの口内に剣を滑り込ませて両断すると、逆から襲いかかってきた二匹のラーフのうち一匹には投げナイフを投じて頭を砕き、残る一匹は斬り上げで首を刎ねる。
ラーフを相手取っている間に近づいてきたゴブリンは二匹、後方にもう一匹いるけどまずは目の前の二匹を仕留めようと前進する。
殴り掛かってきたその腕を半身になり交わしてからすれ違いざまに胴を薙ぎ、もう一匹には体重を乗せた袈裟斬りを放ち心臓も同時に両断。
少し離れたところにいるゴブリンの手には錆びたナイフが握られているが、僕は一足飛びで懐に潜り込み胸を一突きで仕留める。
後方のヘドゥには昨日と同じように投げナイフを投じて仕留めた。
証明部位を切り取っているとジンが無属性魔法を教えて欲しいと言うので了承した。
魔護符を使わずに魔獣を処分できたのは嬉しかったけど、あの火属性魔法には驚いたよ。
……魔法の練習をしてたんだよね?
それにしてもジンはイメージ力が高いみたいでメキメキ上達していたよ。
明日は筋肉痛で大変だろうけど、これも慣れだからね。
バーベキューでお腹を満たし、しばらくはガーレッドを眺めていたけど森の中が気になったので僕は哨戒することにした。
魔獣が気になったのもあるけど、一番はガーレッドの存在だ。
魔獣が増えているならそれを討伐するための冒険者も増えているはず。ならば、見渡しの良いところにいたジンたちは遠目からでもはっきりと見えていたかもしれない。
その中に素行の悪い冒険者がいたなら、ガーレッドが狙われる可能性もあるんじゃないか?
そう考えた僕は森の入り口付近をくまなく調べてみる。
--やっぱりあった、人の痕跡だ。
複数の足跡が残された地面、そこからはジンたちが丸見えになっている。
僕のように遠見スキル持ちがいればガーレッドのことも見えていたはずだ。
僕はすぐに戻りゾラ様へ報告すると、魔法の練習はすぐに中止となった。
冒険者ギルドで報酬を受け取り、大銅貨一枚は指導料として上乗せしてくれた。
ジンやガーレッドのことは心配だけど、僕がクラン内のことにまで口出しすることはできない。
何もないことを祈りながら、僕は臨時収入の大銅貨一枚を握りしめて道具屋に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます