バーベキューと気になること

 魔法の練習に打ち込んでいると、気づけばお昼時になっていた。

 カマドに戻っても良かったのだがクランの食堂でなければガーレッドを出しておけず、クランの食堂だとユウキが入れない。

 ということで、僕たちはバーベキューをすることにした。

 多くの魔獣を処分した中、馬型魔獣のゴラリュだけは残しておくように言われていたのだ。

 最初は魔獣を食べるのかと驚いてしまったが、この世界では普通のことであり馬車の中で食べた肉も魔獣の肉だったようで納得するしかなかった。


「魔法はこんな時にも便利じゃぞ」


 言いながらゾラさんは土魔法で小さな穴をあけると、その中に火を灯した。

 僕が無属性魔法の練習をしている間に捌いていたようで、ゴラリュの肉を串に刺して焼いていく。

 ゴラリュの肉は身が引き締まり歯ごたえ抜群らしく、食べ応えもあり冒険者に人気だとか。

 女性のルルにはどうかとも思ったがそこは料理人見習いである、肉が柔らかくなるように隠し包丁を入れて自分用に下処理を施していたようだ。


「味付けも私がしたんだよ」

「……どこに調味料を持ってたのさ」

「カバンの中だよ。ゴブニュ様が持って来いって言ってたからね」


 なるほど、最初からバーベキューの予定だったらしい。これもガーレッドのことを考えてのことなので嬉しい限りだ。

 僕もガーレッドの親として先を見据えた行動ができるようにしなければいけない。


「そろそろ焼き上がるぞー」

「「「「はーい!」」」」

「ピキュキュー!」


 一本ずつ串を取り手渡していく。

 僕は二本受け取りガーレッドに食べさせながらもう一本を口に運ぶ。


「……うわ、美味しい!」

「ルルの味付けが良かったんじゃな」

「本当に美味しいです。でも、僕までいただいて良かったんでしょうか」

「ユウキくんが倒してくれた魔獣だもの、当然だよ」

「そういうこと。気にしてたら無くなっちまうぞ」


 単純に料理が美味しいというのもあるけれど、みんなでワイワイ楽しくとる食事がこんなに美味しいとは思わなかった。

『神の槌』もそうだけど、ユウキとの出会いにも感謝しなければいけないね。


「それにしてもジンは凄いね。魔法の規模もそうだけど、コツを覚えたらすぐできるようになるなんてさ」

「僕から見たらユウキの方が凄いよ。あれだけの動きを自由に使いこなしているんだから。僕は力加減がまだまだだから、これからも練習が必要だよ」

「練習する機会があれば声を掛けてよ。時間があれば付き合うからさ」

「付き合うならちゃんと依頼として受けるんじゃぞ。冒険者が自分の能力を安売りしていては生活が成り立たなくなるからの」


 ゾラさんなりの優しさでそんな忠告も飛び出したけど、食事時はとても楽しく過ぎていった。

 余った肉はもったいないけど処分して、しばらくはカバンの中で窮屈だったガーレッドと戯れることにした。ヨチヨチ歩きのガーレッドでは遊びまわるということもなく、ただただ眺めて微笑んでいるだけだったが。

 最初はユウキも見ていたのだが、気になることがあるといって周囲の哨戒に行ってしまった。


「ガーレッドが成獣になるのっていつなんだろうね」

「私も幼獣は見たことがなかったから分からないなー」

「棟梁は霊獣が成獣になるタイミングって分かりますか?」

「一般的には産まれてから一年と聞いているが、ドラゴンともなれば本当に一年かどうかも怪しいからのう。なんせ伝説的な霊獣じゃ、他の霊獣と一緒に考えても良いのかすら分からん」


 ゾラさんの言う通りだ。

 特別な個体には特別になる理由が必ずあるはず。その理由が成獣にも関係することだってあるだろう。とりあえずは一年と考えつつ、それ以上も想定して行動しなければならない。

 ……とても大きくなるみたいだし、そのあたりも考えなきゃ。


「ガーレッドが大きくなったら、クランから出なきゃいけないとかあるかなぁ」

「何故じゃ?」

「ソラリアさんがガーレッドは大きくなるって言ってたし、入らなくなるんじゃないかと思って」

「何じゃ、そんなことか。そんなもんガーレッド用の小屋でも増築すれば済む話じゃから気にするな」


 ぞ、増築って。そんな簡単にできるものなんだろうか。

 敷地内なら出来るだろうけど、それってどこかを削るってことだよね、大丈夫なのかなぁ。

 でもゾラさんが気にするなと言うなら気にしない方がいいんだろう。だって棟梁だもの。

 僕が一人で勝手に納得していると、哨戒に出ていたユウキが戻ってきた。


「おかえりー、どうだった?」

「魔獣は近くにいなかったよ。……ゾラ様、少しお話があるんですが」

「んっ? おぅ、分かった」


 何の話だろうと思ったけど、ユウキとゾラさんは少し離れたところに移動したので聞こえてこなかった。

 ゾラさんの表情を伺うとあまり良い話ではなさそうだけど。


「どうしたのかな?」

「分からない、全然聞こえてこないよ」

「何かあったのか?」

「ピキュー?」


 残った三人とガーレッドが首を傾げていると、話が終わったのか二人が戻ってきた。


「小僧、すまんが魔法の練習はおしまいじゃ。クランに戻るぞ」

「えっ! お昼の練習はこれからなのに!」

「いいから戻るんじゃ。小僧の場合は魔法の練習よりも力をコントロールする練習が必要じゃから此処でなくても出来るからの」


 絶対にさっきの話が関係してるよね。

 ユウキも申し訳なさそうな表情だし、絶対そうだ!


「クランに戻ったら鍛冶について教えてやるぞ?」

「急いで戻りましょう。鍛冶の為ならさっさと戻りましょう」


 鍛冶に必要なら戻るのも仕方ない。ガーレッドとも遊んだし、もう少しだけ我慢してね?

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