無属性魔法の使い方
残りの魔獣もある程度処分を終わらせた僕は、最初に魔法の練習をしていた広場まで戻りユウキから無属性魔法を教えてもらうことにした。
ゾラさんが言うには身体強化魔法らしいから筋肉痛ともおさらばかもしれないね。
「さっきの戦闘風景も見てたのかな?」
「途中からだけど見てました!」
「だったら分かってると思うけど、無属性魔法は身体強化魔法なんだ。力を強くしたり、高く飛んだり、速く走ったり。どこに重点を置くかでイメージすることが変わってくる」
「力を強くするならどうしたらいいかな?」
「強くする範囲にもよるけど、そうだなぁ……この木を見ててね」
言いながらユウキは近くに生えていた木を軽く叩いている。
高さは五メートルくらいあり、幹の太さは直径五〇センチくらいだろうか。
おもむろにユウキが幹を強めに殴った。
「な、何してるの?」
「普通に殴っても砕けるわけもないし、自分の手を痛めるよね」
「まぁ、そうだね」
「それじゃあ無属性でイメージするよ。イメージするのは、この幹が砕けた時の映像だ」
この幹が砕けた時の映像?
首を傾げながら見ていると、再びユウキが幹を殴りつけた。
--ドカンッ!
轟音を伴った一撃は幹を半ばから粉砕して破片が散らばっている。バランスを崩した木は徐々に傾き始めると、最終的にはバキバキと音を立てながら倒れてしまった。
あまりの衝撃映像に僕は開いた口が塞がらない。
今みたいなことをイメージしただけで現実に起こったってことだよね。なかなか恐ろしいな、無属性魔法。
「イメージした映像が明確になればなるほど、魔法の効果も高くなる。飛ぶのも走るのも同じだよ」
次に飛んで見せたが、高さは三メートルをゆうに超え、走ると一瞬で最大速度に到達して一〇〇メートル先まで行ってしまう。
戻ってきた時には息も切らしていないので体力的にも何か問題があるわけではないようだ。
「……無属性魔法って、実は一番便利な魔法なんじゃない? イメージしたことが現実になるんだから」
「いや、実はそうでもないんだ」
「そうなの?」
「魔法で筋力を無理やり活性化させているから筋肉痛が辛いし、調子に乗って使い過ぎると数日動けなくなることもあったよ」
ユウキは経験済みらしい。
それに筋肉痛、おさらばできないのね。
「他の魔法と同じで、やり過ぎはよくないってことじゃな。小僧の場合は特に」
「わ、わざとじゃないんだよ?」
火属性では失敗ばかりだったから何も言い返せないよ。
「でも、便利は便利だから程々にだね。鍛冶で使うなら力加減とかを教えてもらいながらイメージできたらいいんじゃないかな」
「そっかぁ。今までは自分基準でやってたから失敗していたもんね。ちゃんと教えてもらえれば失敗はしないよね!」
「ジンの基準っておかしくねぇか?」
おかしくないんだよ、ゲームの世界ではあれくらい普通なんだから。
あっ、でもここではここが現実だからやっぱりおかしいのかな。
……まあ、気にしないでおこう。
「最初は速く走ることから試してみるといいよ。これならイメージしやすいでしょ?」
「簡単なことからコツコツとだね!」
そこから無属性魔法の訓練が始まった。
まずは普通に五〇メートルを走った後、次に短い時間で到着するイメージを作る。他の属性のように火や水を顕現させるわけではないのでイメージし難いのでそのくらいからがちょうど良いだろう。
「よーい……どんっ!」
イメージ通りに少し速くなった気がする。
ユウキに視線を向けると両手で丸を作ってくれたのでやはりできていたみたいだ。
少しずつ、速くしていくイメージでスタート地点に走ってみる。
「……なんか、いけそうな気がする!」
「うん、うまくできてるよ。だけどやり過ぎは禁物だからね。僕みたいに筋肉痛で動けなくなっちゃうから」
「分かった!」
そう言いながらも僕はスピードを上げながら往復三本を走った。
ユウキには遠く及ばないけど、少しずつできていると分かるのは嬉しいものだ。
切実に思うよ、教える人でこうも変わるなんてね。
「ユウキみたいに直角に曲がったりするにはどれくらい掛かるかな?」
「あー、あれは止めた方がいいと思うよ」
「えっ、なんで? できたら便利そうだけど」
「筋肉への負荷が強過ぎて体を痛めちゃうんだよ」
「……それも経験済み?」
「……経験済みだね」
ユウキは偉いね、自分の体で検証してるんだから。
「そういうことだから、今は速く走ることだけを覚えようね。無理して本業に差し障りが出ちゃうといけないからさ」
「それは大事だね、明日は鍛冶を勉強だ!」
早く鍛冶をやりたいよ! 見るだけじゃ嫌だからね!
「あー、ジン? 明日は鍛冶勉強できないと思うよ?」
「……えっ、何で?」
「だいぶ走っていたから、身体中が悲鳴をあげると思う」
「……全然疲れてないよ?」
「体への影響は後から出るからね」
……無属性魔法怖い! ってか、止めてよユウキ!
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