来年に向けての話②
食事を楽しみながら次に口を開いたのはユウキとフローラさんだ。
「僕たちは今まで通りに依頼をこなしていくつもりですが、中級冒険者になったこともあり護衛依頼も積極的に受けていくつもりでいます」
「私はまだコープス様から受けた護衛依頼しか受けたことがありませんから」
「そっか。それじゃあ、来年は会えなくなる時間も多くなりそうだね」
少し寂しい気もするが二人は冒険者なのだから当然のことだ。
ガルさんなんて王都から戻ってすぐに新しい依頼を受けてカマドを出たと言っていたし、ランクが上がれば都市から都市へ移動するのが普通なのだろう。
「まあ、上級冒険者の人について学ぶことが僕たちの目的ではあるんだけどね」
「僕の時はマリベルさん……というよりはグリノワさんに色々と教えてもらったもんね」
「あはは。でもマリベルさんからは人に合わせて戦う方法を学ばせてもらったかな」
「あれもユウキが合わせてたんでしょう? グリノワさんがマリベルさんに呆れてたよ」
「うーん、そうでもないと思うんだよね」
「そうなの?」
遠目から見ていたグリノワさんと一緒に戦っていたユウキではマリベルさんへの印象が違うのだろうか。
「マリベルさんはもっと戦えたと思うんだ。だから僕に合わせて加減して実力を出していたはずだ」
「グリノワさんはそんなこと一言も言ってなかったけどなぁ」
「多分だけど、僕じゃなくてグリノワさんと一緒に戦っていたらもっと速く動き回っていたはずだよ」
そこは一緒に並び立たないと分からない感覚なのだろう。
それにしてもユウキが言っていることが本当なら、マリベルさんって実は凄い冒険者なのかもしれない。まあ、上級冒険者なのだから凄いことに変わりはないんだけどね。
「カマドからの護衛依頼は結構多いみたいだから、しばらくはみんなに会えなくなるかもね」
「そっか。でも、ユウキもフローラさんも頑張ってるんだから俺も頑張らないとな」
「カズチは錬成師見習いを卒業して、来年はどうするつもりなの?」
ユウキがそう聞いてくると、カズチはフォークを置いてはっきりと口にした。
「俺は、個人契約の数を増やしてもっと稼ぎたいと思ってる」
「そうなの? 初めて聞いたよ」
今はサラおばちゃんのところとしか個人契約を結んでいない。カズチがソニンさんを説得して試験的に始めた本当に一番最初の契約なのだ。
カズチが成功を収めてからは他の錬成師見習いや鍛冶師見習いまでも積極的に個人契約を行っているようだが、成功している者としてない者と分かれているみたいだ。
「サラおばさんとの契約だと数が限られてくるからな。もちろん全力でやってるんだけど、数をこなそうと思ったらもっと契約できるお店がないか探す必要もあるかと思ったんだ」
「クランからの仕事じゃダメなの?」
「それでもいいんだが、腕を磨くのと同時にお金を稼ぐには個人契約かなって思うんだ。もちろん副棟梁の許可を貰ってからだけどな」
カズチが上を目指すのは僕としても嬉しいことだが、お金を稼ぐということを強調していることに疑問を覚えてしまう。
そんな僕の心情に気づいたのか、カズチは稼ぐということへの理由を教えてくれた。
「ジンが言ってくれただろう? お金はあって困るものじゃないし、貯めておけば将来に役立つってさ」
「それはそうだけど、カズチは『神の槌』を離れるつもりはないんだよね?」
「まあな。でも、何が起きるかなんて分からないだろう? 特に、ジンと関わっていたらな」
「……ぼ、僕?」
カズチの答えに僕が呆気に取られていると、何故か僕以外の全員が大きく何度も頷いている。
「ジン君は規格外のくせに常識を知らないからねー」
「ガーレッドちゃんの時も驚いたけど、その後も色々とあったもんね」
「僕も同意だな。ジンのところに問題が寄ってくるし、問題に近づいていくもんね」
「私もようやく実感できています」
「……ちょっと、みんな酷くないかな!?」
「ピーキャキャー!」
「わふわふ!」
……ま、まさかガーレッドとフルムにまで同意されるとは。
「ぼ、僕だって問題を起こしたくて起こしてるんじゃないんだよ! それに僕も問題は嫌いなんだもの!」
「そうは言ってもなぁ……」
「説得力ないよねー」
カズチとルルの言葉にまたしても僕以外の全員が何度も頷いている。
「ピーキャキャー!」
「わふわふ!」
「だから、ガーレッドとフルムもなんで頷くかなあ!?」
僕のツッコミに最後はみんな声を出して笑い、また食事へと戻っていく。……解せん。
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