贈り物の可否
体調が回復したこともあり、僕はユージリオさんたちに挨拶をして訓練場を後にした。
もの凄くもったいなさそうな表情を浮かべ続けていたポーラ騎士団長の方は見ないようにしつつ、訓練場が見えなくなると僕は大きく息をつく。
「はああああぁぁ……疲れた」
「お疲れ様、ジン」
「ユウキもね」
「ちょっと、私は? 私は~?」
「リューネさんは余裕そうじゃないですか。というか、ユージリオさんと魔法の撃ち合いをして、どうして余裕なんですか?」
「ハーフエルフを舐めるんじゃないわよ」
そういう事なら、別に労う必要はないよね。
「あの、リューネ様も皆様も、とても凄かったです!」
「せっかくだから、フローラさんも模擬戦を組んでもらったらよかったのに」
「い、いいえ! 私は回復を主にしてますから、模擬戦は遠慮したんです」
「遠慮したって事は、誘われてはいたんだね」
苦笑を浮かべている辺り、本当に誘われていたみたいだ。
というか、国家騎士も国家魔導師も、戦闘狂が多いのだろうか。
誰彼構わず模擬戦に誘うなんて。
「なんでも、皆様を見ていて私も規格外なんじゃないかって勘違いされたみたいです。回復スキル持ちの後衛なんだと言ったら納得してくれましたよ」
……うん、なんかごめんなさい。フローラさんも、国家騎士や国家魔導師の方々。
悪いのは僕たちでしたね。
「その言い方だと、僕もなの? オレリア隊長に完敗だったんだけど?」
「十分に良い試合をしていたと仰っていました。ユウキ様の歳でそれなら、国家騎士にもなれるだろうって騎士様方が太鼓判を押していましたよ」
やっぱりユウキも凄いんじゃないか。
遠慮ばかりしているから分かりづらいけど、上級冒険者にも引けを取らない剣術を持っていると僕は思っている。
無属性しかないからこそ、無属性の扱いが卓越しており、他の属性が無いのを補って余りある実力を示してくれた。
そして、無属性しかないと騎士団の人たちは知っているにもかかわらずユウキに太鼓判を押してくれている。
これがどれだけ凄い事なのか、ユウキは分かっているのだろうか。
「お世辞だよ、それは」
「そうでしょうか? 本当に褒めているように見えたのですが……」
「無属性しかないんだよ? 魔法を使われたら追い込まれるし、僕はまだまだだよ」
……うん、全く分かっていなかったね。
まあ、謙虚なのはユウキの良いところでもあり、悪いところでもあるから何とも言えないけど。
人通りの多い場所にやって来た僕たちは、とある人物に声を掛けられた。
「ジン君!」
「あれは――ロットさん?」
「誰?」
「昨日、カズチが錬成を手伝った人なんです。彼女への贈り物という事でした」
昨日は別行動だったリューネさんにユウキが簡単に説明している。
駆け寄って来たロットさんに挨拶をすると、いきなり手を取られてブンブンと上下に振られてしまう。
「ど、どうしたんですか、ロットさん?」
「彼女がね、とても喜んでくれたんだよ! デザインも褒めてくれたけど、一番は錬成師の腕を褒めてくれたんだよ! それで、君たちにお礼を言いたくて探していたんだ!」
「そうだったんですね。でも、今日はカズチとは別行動なんですよ」
僕を見つけて堪らず駆け出したようだが、カズチがいなかったことに気づかなかったようだ。
「そうだったんだね。……それじゃあ、カズチ君にも伝えておいてくれないかな?」
「もちろんです」
「それに、ジン君もだよ。あれだけの素材を見つけて、手に入れられたのは間違いなく君のおかげだ。本当にありがとう」
「お礼なら、以前に受け取りましたよ?」
「彼女の喜んだ顔を見たら、また伝えたくなったんだよ。本当にありがとう!」
その後、ユウキとフローラさん、リューネさんにも丁寧に頭を下げて離れていったロットさん。
向かった先には、カズチが錬成したアクセサリーが取り付けられた髪留めを付けている女性が立っていた。
女性の方も僕たちに笑顔で頭を下げてくれ、そのまま雑踏の中へと消えていった。
「……手を貸した人の笑顔を見るのは、良いものだね」
「ジン君、なんだかお爺ちゃんみたいなことを言うのね」
「そうですか?」
「まあ、分からなくもないけどね」
「本当だね」
「素晴らしい事だと思います、ジン様」
屋敷に戻ったら真っ先にカズチに伝えようと思えた瞬間だった。
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