エピローグ
休憩を終えた僕たちは、洞窟を出て空を見上げた。
「うわー! 快晴ですね、先輩!」
嬉しそうにそう口にした羽柴を見ながら、僕は苦笑しながら頷く。
「僕が斥候として先に向かいます。行こう、フルム」
「ガウガウッ!」
「それじゃあ私も行こうかなー。精霊たち、よろしく頼むわね」
「では私は護衛ですね」
「よろしくお願いします、マギドさん」
「フローラさんもよろしくお願いします」
「はい、ルルさん」
それぞれが動き出し、ブリザードマウンテンの向こう側へと進んで行く。
普段は周りに人がいるのだが、今日に限っては不思議と羽柴しか近くにいない。
……あれ? なんか、気を遣われている?
「別にいいのになぁ」
「どうしたんですか、先輩?」
不要な気遣いにため息をついていると、羽柴がひょこっと目の前に顔を出してきた。
「……いいや、なんでもない」
「うーん、やっぱりその顔の先輩、違和感ですねぇ」
「それを言ったら、俺もお前の魔王姿は違和感しかないわ」
「魔王姿って! ちゃんと角とか牙とか、魔王っぽいのは隠しているじゃないですかー!」
羽柴は見た目完全に魔王というか、魔族っぽかったので、角やら牙やらを隠してもらっている。
これも魔法の一つで変化魔法というらしい。……名前そのままじゃん。
「それにしても、皆さんいい人ですね!」
「まあ……うん、そうだな」
それもこれも、英雄の器のおかげだな。
「……ねぇ、先輩」
「なんだー?」
「……わ、私もその、いい人の中に入れてもらえますか?」
「……はあ?」
「いや! その、ダメですよね! あははー、すみません、気にしないでください!」
……こいつ、何か勘違いしているんじゃないのか?
「入れるも何も、お前はいい奴じゃないか」
「……えっ?」
「だって、俺が前世で死んだ時、ものすごく泣いてくれていたじゃないか」
「……えぇっ!! み、見ていたんですか!?」
あっ、そっか。俺、幽体離脱して俯瞰であの時の光景を見ていたんだっけ。
「なんか、見えてたなぁ」
「嘘でしょ! あぅぅ、恥ずかしいですよ~!」
「……俺は嬉しかったよ」
「……そう、ですか?」
「あぁ。俺のためにこんなに泣いてくれる奴がいるなんて、思ってもいなかったからな。……今さらだけど、ありがとな、羽柴」
……恥ずっ! ダメだ、こんなこと言うんじゃなかったわ!
俺は羽柴から距離を取ろうとやや早足になったところで――ガシッと腕を掴まれてしまった。
「ま、待ってください、先輩!」
「……なんだよ?」
振り返ることはせずに、俺は前を向いたまま聞き返す。
その間、羽柴は腕を離してはくれなかった。
「……わ、私、先輩のことが――好きなんです!」
「……は?」
「ご、ごめんなさい! いきなりでごめんなさい! でも、ずっと好きだったんです!」
「……いや、待て。それをどうして今? だって、子供の姿だけど?」
「ち、違いますよ! その姿じゃなくて、日本の姿で……って、そうじゃなくて! いや、そうなんですけど、先輩の中身が好きなんですよ! ……って、何を言わせるんですか、バカ!!!」
……え、えぇぇ~? 最後にバカって、俺のせいなのか~?
「うぅぅ~!」
「……いや、その、なんていうか、すまん」
「ダメなんですね! はぁぁ。わかってましたよ。だって、私、魅力ないですもんねぇ」
「あっ! ち、違うって! そういうすまんじゃないから! 反応に困ってすまんって意味だからな!」
「……本当ですか?」
「あぁ、本当だ、うん!」
……あ、あれ? これ、オーケーって意味になっていないか?
…………めっちゃキラキラした瞳でこっちを見られているんですけど?
「……あー、そのー……まあ、羽柴はいい奴だよな、うん」
「お付き合いとかできませんか! 私、先輩のことが大好きなんです! 先輩が亡くなって、伝えられなかったって後悔して、だから、だから!」
……そっか。俺、日本で死んでからもずっと、羽柴を苦しめていたんだな。
こいつの気持ちに気づいていなかった……わけじゃない。好意があるように感じたこともあったが、あの時の俺にはゲームにしか目線が向いていなかった。
だけど、ここに来てからは違う。多くの人と出会い、親代わりを見つけ、親友となる友を得た。
だからわかる。いいや、やっと気づけた。
「……羽柴」
「は、はい!」
「……俺と、付き合ってくれるか?」
「もちろんです! というか、私から告白したんですけど?」
「あー……そうだったな、すまん」
「うふふ。先輩はどこに行っても変わりませんねー」
「それ、どういう意味だ?」
「どうも何も、そのままの意味ですよ! 優しいけど鈍感で、どこか抜けているところはあるけど頼りになって。……そんな先輩が、好きなんです」
見た目は全く違うはずなのに、羽柴の姿に日本の頃の羽柴の姿が重なった。
……うん、今でも完璧に思い出せる。
「あー……俺、お前のことが好きだったみたいだわ」
「そうなんですか? だったらもっと早くに告白しておけばよかったなー!」
「でも、気づいたのは今だから。日本の時に告白されても、ゲーム優先で絶対に断ってたからな?」
「それは酷過ぎませんか!?」
「あはは! まあ、いいじゃないか」
「よくありませんよ! ちょっと、せんぱーい!」
まさか羽柴が俺のことを好きで、俺もこいつのことを好きだったなんてなぁ。
案外、自分のことはわからないものだわ。
「……って、ユウキ! それにみんなも! なんでこっちを見てるんだよ! 斥候はどうしたんだよ!」
「あっ! バレた!」
「行こうぜ!」
「うん!」
カズチにルルも、っていうか大人たちまで何してるんだよ!
「……ほんっとうに! 楽しいですね、先輩!」
「……まあな」
もう、俺って呼び方でもいいか。
俺は苦笑を浮かべながら、羽柴と並んで歩き出した。
これからは……いいや、これからも、賑やかな旅路になるんだろうなぁ、きっと。
終わり
異世界転生して生産スキルのカンスト目指します! 渡琉兎 @toguken
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