お掃除開始

 神父様は女神像の前を掃除しており、シルくんもお手伝いをしていた。

 ……これ、シルくんは将来の話を神父様にできてないんじゃないか?

 そう思った僕はちょうどよかったと神父様に声を掛けた。


「おや? どうしたのですか?」

「一人になったもので」

「「……すみません」」

「冗談ですよー」


 僕の言葉にも二人は申し訳なさそうにしている。


「……えっと、ごめんなさい、本当に冗談ですから。ちょっと神父様にお願いがありまして」

「……お願いですか?」

「はい。できるかどうか分からないんですが、魔法で掃除が楽にできないか試してみたいんです」

「「えっ?」」


 えっ? それはどこに驚いているのだろうか。


「魔法で、掃除ですか?」

「あっ、そっちに驚いていたんですね」

「コープスさん、魔法で掃除だなんて普通やりませんよ?」

「でも、できたら楽になると思わない?」


 神父様は何を言っているのか分からないといった感じで呟き、シルくんはあり得ないと口にする。

 でも、魔法で掃除ができたら絶対に楽なのだ。

 手では届かない場所のごみを取ることができたり、自分があっちこっちに動かなくてもすむ。

 完璧にできなくても、少しでも楽になればそれでいいのだ。


「まあ、楽になるとは思いますけど……そんなことができるんですか?」

「考えていることがあるんだ」

「……分かりました、お願いできますか?」


 少し悩んでいた神父様だけど、掃除が大変だということが身に染みているのか許可してくれた。


「ありがとうございます」

「それで、どのように掃除をするつもりなんだい?」


 そして興味津々のようだ。


「水属性と風属性を使います」

「……へ、併用?」

「併用はしません。一つ一つで魔法を使います」


 僕は言葉で説明するよりも実際に見てもらおうと思い、人の手では届かないだろう天窓を指差した。


「まずは埃が舞わないように軽く水を染み込ませます」

「……どうやって?」

「まあまあ、見ててよ」


 僕は天窓の近くにある空気から水分を抽出して水を作り出すと、霧吹きを吹きかけるようにして全体を湿らせた。


「……えっ、どうやってそんなことを?」

「……えっ、水を作っただけなんだけど?」

「……えー、コープス君? 普通はそのように細やかな魔法を使えないものだよ?」

「そうなんですか?」


 そうなると色々と問題である。

 一般の人たちが魔法操作に難があるとなれば根本的に生活魔法を考える意味がなくなってしまう。

 だって、使い方を考えたところでその魔法が使えないんだから。


「ですが、そのまま続きを見せてもらえませんか?」

「は、はぁ」


 それでも神父様は掃除を継続してほしいと言ってきたので、途中で止めるのも意味がないし続けることにした。


「水が染み込んだ埃は重さを持つので、水と埃をまとめて風属性魔法で一ヶ所にまとめます」

「……うーん、俺じゃあできないな」

「そっか……でも、シルくんは水属性も風属性も持っているの?」


 シルくんの発言を聞いて僕は一般スキルについて聞いてみた。


「水属性は持ってないです。俺が持っているのは火属性と風属性と無属性です」

「三属性もあれば立派だと思うんだけど、魔法の練習はしないの?」


 僕の質問にシルくんは少しだけ暗い表情を浮かべた。

 何かあるのだろうかと思い僕は神父様に視線を向ける。


「……魔法操作に問題がなければ都市内で魔法を使うのは問題ないのですが、それが練習となれば話は別です」

「練習で事故が起きてしまった場合、ということですね」

「その通りです。練習なら都市外に行くことになりますが、我々では見れる者がいないのです」


 一番しっかりしているシルくんに魔法を教えられるのはおそらく神父様くらいだろう。

 だが、その神父様は外に出られるほどの暇がなくシルくんに魔法を教えられない。


「……だったら、僕やユウキが先生になるとか?」

「い、いいんですか!」

「まあ、ほとんどユウキが先生になると思うからユウキに聞かないと分からないけどね」

「ですが、それでは依頼という形にしなければなりません。そうなると報酬が必要です」

「報酬……それじゃあ、諦めるしかないですね」


 むむ、僕としては教えてあげたいのだがユウキは神父様が言う通り冒険者である。

 ユウキなら受けてくれそうだけど、ゾラさんが最初に言っていたことを思い出した僕は安売りはダメなんだと思い直した。

 そうなると僕が先生になるのか……お、教えられる自信がないんだけど。


「……いや、だったら僕が教えるよ!」

「いいんですか?」

「ゾラさんに許可を取ってからになるけど、言い出しっぺだしね!」

「あ、ありがとうございます!」


 申し訳なさそうな神父様とは対照的に、とても嬉しそうな表情を浮かべるシルくん。


「そうと決まれば、まずはさっさと掃除を終わらせますね」

「い、今から行くんですか?」

「いえ、教え方を考えないといけないので明日にでも!」


 僕はそう言うと途中で止まっていた掃除を再開させた。

 まあ、神父様は水属性をどのように使うのかだけが気になっていたようで、風属性に関してはなんとなく想像できていたみたいで一度見せたらすぐに真似して喜んでいた。

 ちなみに、神父様は水と風と光属性を持っているようで、水属性も挑戦してみると意気込んでいた。

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