シルの魔法操作について

 教会を出てユウキに声を掛けると十分息抜きができたと喜んでおり、ガーレッドとフルムも満足そうで何よりである。

 僕も属性ごとに魔法を使えば生活魔法に寄せた効果を出せることが分かったので満足だ。

 子供たちはまだまだ遊び足りないようだったけど、神父様とシルくんが声を掛けてくれたので我儘を言う子は一人もいなかった。


 教会からの帰り道、僕はシルくんに魔法操作を教えることになったとユウキに伝えた。


「そうなの? だったら僕も手伝おうか?」

「本当はお願いしたいんだけど、ここで冒険者のユウキを頼っちゃったらユウキの実力を安売りすることになるかなって思ったんだ」

「安売りって、友達なんだから当然じゃないかな?」

「そう言われるとそうなんだけど、ゾラさんが言っていた言葉も間違いじゃないから今回は僕一人でやってみるよ」

「……分かった。ジンがそう言うなら僕も止めないけど、何か困ったことがあったら声を掛けてね」

「うん、ありがとう」


 僕とユウキの会話が一段落したのが分かったのか、お礼を口にしてすぐにフルムがユウキの足に寄り添ってきた。


「フルムも楽しかった?」

「わふ!」

「ピキュキュー!」

「ガーレッドも楽しかったみたいだね」


 こうして賑やかな会話をしながら、僕たちは本部に戻っていった。


 ※※※※


 入口でユウキと別れた僕はその足でゾラさんの私室へと向かった。

 今日は迷うことなくドアをノックすると、中からいつも通りに『はいよー』と声が聞こえてきたので遠慮なく開ける。


「こんにちはー」

「ピキャキャキャーキャー」

「小僧か。今日はどうしたんじゃ?」

「一つご相談がありまして」

「……なんじゃ、変なことじゃないだろうなぁ」

「変なことって、まさかぁ」

「……」

「……ほ、本当に変なことじゃないですから!」


 そんなジト目を向けないでくださいよ! 今までの行いのせいだってことは理解してますけど!


「……まあいいわい。どれ、言ってみろ」


 ゾラさんから話を促されたので、僕はホッとしながら教会のことについて話し始めた。


「ゾラさんも教会には寄付をしてますよね?」

「教会? 確かに寄付はしているが……まさか小僧も寄付をしたいとか言うんじゃ──」

「違いますよ。僕は教会でお世話になっている年長さんのシルくんに魔法操作を教えてあげたいんです」

「魔法操作を? ……小僧がか?」


 ゾラさんは大丈夫か? と言わんばかりに疑問口調で聞き返してきた。

 ……えぇ、この反応にも慣れましたとも。


「僕がです!」

「止めておいた方がいいのではないか?」

「即答ですね!」

「それは小僧が一番理解しておるだろうが」

「理解はしています! だから今から準備をするんです!」


 僕だって自分の知識とこの世界の知識に隔たりがあることは理解している。

 しかし、だからこそ教えやすい部分もあると思うのだ。

 特に魔法は想像力の影響を受けやすいと見ているので、考え方一つで使いやすさも段違いになるはずだ。


「そこで、ゾラさんに確認したいことがあるんです」

「なんじゃ?」

「……僕って、仕事ありますか?」


 鍛冶師見習いと錬成師見習いを卒業したのだが、これといって仕事を振られたことがない。

 昨日はたまたま打った観賞用の剣が依頼に見合っていたので納品できたけど、ちゃんと仕事として受けたものが今のところ一つもないのだ。


「小僧に打たせると一級品以上が無駄にできそうだからのう」

「む、無駄にって。質が良くなるならいいことじゃないですか」

「まあ、そうなんじゃがのう。普通の店で出すとなるとそうもいかんのじゃよ。そういうことじゃから、今のところ小僧に振れる仕事はないぞ」


 うーん、今回は仕事がなくてよかったんだけど納得していいのだろうか。


「そうそう、昨日は忘れておったが納品をしてくれたそうじゃないか、助かったぞ」

「あー、あれですか。たまたまできたもので納品しちゃってよかったんですかね?」

「……たまたまで超一級品ができるんじゃから普通の依頼は回せんわな」


 困ったようにそう口にしたゾラさんの意見は……うん、正しいです、すいません。


「でもあれってゾラさんに来た依頼ですよね? 今さらですけど、僕が打ったものでよかったんですか?」

「貴族どもは見た目に満足できればそれでいいんじゃよ」

「一応、武器としても満足いく出来になっていると思います!」

「まあ、小僧じゃからのう」


 えっ、その言いぐさは酷くないですか?


「とりあえず、人に教えるならしっかりと準備するんじゃぞ。間違っても、変な教え方をするんじゃないぞ」

「心配性ですねー」

「……」

「……ごめんなさい、しっかり準備させていただきます」


 ゾラさんのジト目が心に突き刺さってしまったよ。

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