明日の予定
「まさか、まだ驚かされることになるとはな。おかしな小僧とは思っていたが、まさかオリジナルスキル持ちで、それがスキル効果一〇倍とかあり得んだろう」
誰もが通る驚きの言葉に、僕はうんうんと頷いて見せた。
「そのせいで鍛冶もこんな感じなんですよ。男なら一から積み上げていきたいのに大変なんです」
「……ザリウス、小僧は何を言っているんだ?」
「私にも分かりません」
僕の思いには誰も共感してくれないのね。
それは置いておくとしてもヴォルドさんには僕のスキルについて知ってもらったので、今後どうするのかも考えていかなければならない。
「一〇倍とはいっても、実際に戦うのは苦手なんだろう?」
「まあ、そうですね」
「それに魔獣ならまだしも、人間相手となればまた勝手も違ってくる」
「人間相手は嫌です」
「……だったら、おとなしくしててもらう方が助かるか」
「えっ! せっかく教えたのに!」
教え損じゃないかと思い抗議したのだが、そう言った理由はごく単純なものだった。
「子供に戦わせるなんて、大人がさせることじゃねえよ」
僕の回りの大人たちはみんなそんな感じである。子供に優しい人たちが集まっているのだろうか。
「でも、いざとなったらってことで」
「そうならないように頑張るさ」
「全力を尽くします」
「んっ? やけに弱気じゃないか。
ホームズさんは昨夜、自身の手に負えない何かがあった時には僕が戦闘要員になることを了承してくれている。そのことが引っ掛かっているのだろう。
だけど、ヴォルドさんに話をした時点で僕が戦闘要員になる可能性は高くなっているということだ。
暗殺者の実力が、ホームズさんにこの決断をさせたと言ってもいいだろう。
「……私もコープスさんを戦わせたくはない。ですが、その可能性も否定できない事態なのです」
「まあ、な。あの暗殺者と同等の実力者が他にいたなら厄介だ。だが、魔法だけで対抗できるとは思わないがな。それこそ、魔獣の群れとかなら別だが」
ヴォルドさんの懸念は分かる。
僕は二人の戦いを目で追うことはできるけど、実際に戦えと言われたら無理。絶対に体が動かない。
エジルに体を貸せば話は別だけど、そうすると次に憑依を使えるのがいつになるのかが分からないのだ。
「最終手段で憑依は使いますけど、その後は魔法が使えるただの子供だと思ってくださいね」
「強力な魔法が使えるだけで十分だよ」
大きな手で頭を撫でられながら、僕はヴォルドさんを見上げた。
「暗殺者にいいように遊ばれた俺が言うのもなんだが、命懸けで守ってやる。だから、無理すんじゃねえぞ」
「ありがとうございます」
ダリアさんは冒険者はガサツだと言っていたが、優しい冒険者の方が多いのではないだろうか。
「んっ? ってことはもしかして、例の事件の時も小僧は現場にいたのか?」
「例の事件? ケルベロスの時ですか?」
「そっちじゃない。噂になってる箝口令が敷かれたやつだ」
「あー、あれはー……」
質問しながら箝口令って口にしてるし。これって答えていいのか分からずチラリとホームズさんを見たのだが……えっ、なんで顔を覆ってるんですか?
「小僧、そのリアクションが認めてるってことになるぞ?」
「……あ、あは、あははー」
そ、それで顔を覆ってたんですか。本当に、すいません。
「まあ、噂は流れてますからね。いいんじゃないですか?」
めっちゃ投げやりなんですけど!
「えっと、いましたね」
「それでザリウスが助けたってことか」
「実際は助けられた、ですけどね」
「……そうなのか?」
目を見開いて驚くヴォルドさん。
ホームズさん程の実力者がそのような言い回しをするのが珍しいんだろうね。
「あれは相手が結界を張ったからですよ」
「ですが、コープスさんの機転がなければあの場は切り抜けられませんでした」
結局、悪魔事件の全容についてもヴォルドさんには伝えることにした。
仮に王都が事件に関与していた場合、悪魔が現れる可能性もある。暗殺者以上に質の悪い相手であることは間違いないので情報の共有は必要だ。
「…………俺は昨日からどれだけ驚かされればいいんだよ」
「王都に到着したらしばらくは驚かなくなりますよ」
「それなら、明日まで驚きそうだな」
「あれ? 明日には到着の予定でしたよね?」
明日の夕方には到着するはずなのだが、予定が変わったのだろうか。
「襲撃が多過ぎた。予想以上に行程が遅れているんだ。このままだと早ければ明日の夜なんだが、明日も襲撃があると考えれば到着が一日延びるかもしれん」
「最短ルートは選択しなかったんですね」
「本来ならば半日か、慣れないやつがいても一日なんだがな。待ち伏せの可能性もあったから迂回しているんだ。まあ、それで襲撃を受けているわけだから意味はなかったけどなぁ」
迂回の選択が裏目に出た、ということなのだろうか。
だが、最短ルートにはさらに多くの暗殺者がいる可能性もあるのだから一概にそうとは言い切れないと思うけど。
「こっちから進んでるから、もう行くしかないんだけどな」
「明日か、明後日か。おそらく明後日の到着と考えて行動するべきですね」
ヴォルドさんとホームズさんが今後の方針を固めると、僕たちはその場を解散した。
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■作者:渡琉兎
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■ISBN:9784040730790
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■B6判
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