夜営の食事二日目

 揉め事が解消されると、ヴォルドさんが食事を受け取るために移動を開始する。

 僕は確認したいことがあったので、一度ホームズさんのところへと向かった。


「おや、どうしたのですか?」

「ホームズさんはもう食べたんですか?」

「はい。先にいただいてここから周囲を警戒していました」

「……少し、確認したいことがあるんですけどいいですか?」


 僕の言葉を聞いて、一つ頷くと少し離れたところへと移動する。そして──


「僕のスキルのことですけど、ヴォルドさんには教えていた方がいいと思いまして」

「ヴォルドにですか? それはまた、ずいぶんと仲良くなりましたね」


 苦笑を浮かべながらも、ホームズさんは考え始めた。

 このパーティのリーダーはヴォルドさんである。敵側の戦力もある程度見えてきたなかで、仮に僕が突然戦闘に参加でもしたら慌てて助けに来るだろう。

 そうなれば負担が増えるばかりか、抜けた穴を突かれてパーティが瓦解する可能性だってある。

 ヴォルドさんが知っていれば、僕が参加するようなイレギュラーにもすぐに対応できると思うんだけどな。


「私も考えたことはありますが……あまり知られたくはないんですよね?」

「そうですけど、今は緊急事態ですからね。ゾラさんとソニンさんには、助け出してから怒られることにします。それに、細剣レイピア黒羅刀こくらとうを打ったことで、大なり小なり疑問は持っていると思いますしね」

「んっ? コクラトウとはなんですか?」


 そういえば、黒羅刀のことを伝えるのをすっかり忘れてた。こちらについては食事の時にでも実物を見せると伝えて、一先ず僕も食事を取りに行くことにした。

 入れ違いでヴォルドさんがホームズさんのところへ向かったので、僕は受け取るとすぐに戻っていく。

 その途中でラウルさんとロワルさんに『ごめん』と謝られたのだが、僕の方こそガーレッドを連れていけなくてごめんと謝った。

 明日は皆が平等にガーレッドを愛でてくれればと思うよ。


「遅いぞ、小僧」

「すいません。あー、お腹すいたー」


 慣れない魔獣の素材で鍛冶を行った為に空腹感が半端ない。大盛りにしてもらった魔獣の肉を一気に口に入れた。


「ふむ、ふん、はむ……おぉ、美味しいですね!」

「お前、体は小さいくせに食欲すごいな。……んっ? これ、本当に美味いな」


 珍しい魔獣の肉だったのだろうか、口の中で溶けるようになくなっていく。甘味のある肉に対して、味付けは香辛料を少し強め、ハーブ類も使って香り付けもされているようだ。

 僕とヴォルドさんが勢いよくかきこむ姿を見ながら、ホームズさんはガーレッドに肉を食べさせていた。


「ピーキュー!」


 ガーレッドのお口にも合ったようで、目をとろんとさせてとても幸せそうな表情をしている。

 手を止めることなく食べきった僕は、お腹に手を当てて大きく息を吐き出した。


「ふぅー……美味しかった」

「ピーキャーキャー」


 野菜まで食べ終わったガーレッドは、ホームズさんにペコリと頭を下げてから僕のところに戻ってきた。


「そういえばヴォルド。コープスさんから聞きましたけど、コクラトウなる剣を打ってもらったのですよね? 良ければ見せてくれませんか?」

「そうだったな。正直、俺の手にもあまりそうな出来だよ」


 そういいながら、自身の魔法鞄マジックパックから黒羅刀を取り出した。

 漆黒の刀身に松明の火があたり白い刃文が揺れているように見える。

 一目見たホームズさんの表情が一瞬で引き締まった。


「……全く、コープスさんはどれだけの物を打ってしまうんですかね」

「全力を尽くしているだけです!」

「まあ、そうなんですが……」


 柄を握り片手で軽々と振っている。剣速も恐ろしく速く、流れるように刀身が移動を繰り返していく。

 風圧によって舞い上がった木葉を何枚も両断しながら、最後には架空の鞘をイメージしたのだろう、腰に差すように添えていた。


「……これは素晴らしいですね。もちろんヴォルドが使うのでしょう?」

「グリノワと相談なんだが、そうなるだろうな」


 そこまで話していると、ふとヴォルドさんら顎に手を当てながら僕を見ている。


「……小僧、マジで何者だ?」

「えっ? ジン・コープスですけど」

「そういうことを言ってるんじゃねえよ!」


 過去に何度か同じやり取りをしたことを思い出しながら、僕はホームズさんに視線を向ける。

 僕の独断でスキルのことを教えるわけにはいかない。ヴォルドさんになら問題ないと思うのだが、判断するのはホームズさんなのだ。


「ヴォルド、話しておきたいことがあります」

「……おう、なんだ? これ以上驚かそうとしても無駄だぞ」


 そして、ホームズさんの口からヴォルドさんに英雄の器についての説明が行われた。

 これ以上驚かないと自負していたヴォルドさんだったが、結局のところ口を開けたまま固まり、僕のことをじーっと見ているのだった。


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