三日目の朝
翌朝、朝食の席でヴォルドさんから全体へ行程の遅れについて説明が行われた。
順調にいけば今日の夜、襲撃などで行程が遅れれば夜営になる可能性もあると。
冒険者たちは仕方ないといった感じなのだが、交渉役の三人は溜息をついていた。
「まだ着かないのか」
「さすがに三日は辛いですね」
「早く柔らかいベッドで寝たいです」
夜営に慣れてない人にとっては辛い行程だろう。僕も多祥なり辛さは感じているけど、ぐっすり眠れているし、冒険者たちみたいに戦っているわけでもないので快適なものだ。
ただ、連日の全力鍛冶によって多少筋肉痛が辛いくらいか。
「おそらく今日も昼休憩は取らずに進むことになるから、朝飯はたくさん摂っとおいてくれ」
ヴォルドさんの最後の言葉を聞いて、三人は俯いてしまった。
「今日を乗り切れば到着ですから、頑張りましょう」
「……コープスさんは元気だね」
「ガーレッドが目を覚ましたからですよ」
「ピキャー?」
僕の右手から野菜を食べていたガーレッドが、名前を呼ばれたと勘違いして顔を上げる。
左手で頭を撫でながら、野菜を口に持っていくと再び口を動かし始めた。
「少しだけ筋肉痛があるくらいで、移動がきついとかはないですね」
三人から飛んでくるジト目に、僕は視線を逸らせる形で抗議を示した。
そんな中、今日の朝ご飯は男性女性混じっての食事になっている。その中心にいるのはガーレッドだ。
昨夜ヴォルドさんから言われていたことで、全員で食事をしながらガーレッドを可愛がる。
僕が抱っこすることで男女関わらず平等だろうということから今の構図が出来上がっていた。
ラウルさんとロワルさんは目尻を下げっぱなしでガーレッドを眺めており、時折声を掛けながら頭を撫でてくれる。グリノワさんやゴルさんも遠目から見ているので、やはり気にはなるのだろう。
双子たちよりもガツガツしていないのは、二人が大人だからかもしれない。
一方で女性陣はというと、一斉に来るということはせずにお互いで順番を決めて近づいてきた。
ある程度撫でたりすると座っていた場所に戻り、次の人がやってくる。
まとまって来ると男性陣が声を掛けづらくなると思っての配慮らしい。
「さーて、食事も済んだことだしそろそろ移動を開始するぞー」
ヴォルドさんが号令を発すると、冒険者たちはいっせいに動き出して準備を始める。交渉役もそれぞれに準備を終わらせると、自分たちが乗る馬車へとすぐに移動した。
僕はというと、全ての荷物が
「今日も襲撃はあると思いますか?」
「あるでしょうね」
「か、確信を持って言いますね」
「二日連続でしたからね。今日はないと思う方があり得ませんよ」
僕もあるだろうと思っているので反論はない。
だが、暗殺者たちの襲撃には波があり、さらに統一性に欠けている気がする。
「逃げた暗殺者は協力しているだけって言ってましたけど、本気で殺しに来たら怖いですね」
「そうなれば私が相手をすることになるでしょう」
「ヴォルドさんが誰かと協力してならどうですか? 速さ重視の戦いならガルさんとかアシュリーさんとか?」
「魔獣がいなければそれもありでしょうが、同時の襲撃があればやはり部隊を分ける必要が出てきます。その中で魔獣側を少なくするのも危険が伴いますからね」
人の場合は明確な意思があるから対処しやすいが、魔獣の場合は本能のままに行動するので対処しにくいという面がある。
大量の魔獣、さらに昨日のように興奮している状態で今日も現れたなら、そちらに人を割くのは必然なのかもしれない。
「ま、魔法でなら援護できますからね」
「……いえ、暗殺者相手にはコープスさんの魔法は使わない方がいいでしょう」
「どうしてですか?」
「相手がコープスさんを脅威と捉えた場合、狙いが私達冒険者ではなくコープスさんに向いてしまう恐れがあります」
それは大変だ。もしそうなったら生き残れる自信なんてこれっぽちもないぞ。エジルからも絶対に体を貸せと言われそうだ。
「分かりました、自重します」
「コープスさん自身に危険が迫った場合は、自重せずに魔法を使ってくださいね。ですが、そうさせない為にも私達がいるんです」
苦笑を浮かべながらも決意を口にするホームズさん。
この決意は何度も何度も聞いている。おそらくホームズさんも自分自身に言い聞かせていることなのだろう。
「よろしくお願いします」
そんな気持ちを無下にする理由は一つもないので素直に頭を下げた。
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