襲撃は……
早い時間から出発した僕たちは、驚くほど順調な行程に不安を覚えていた。
一昨日は雇われ冒険者からの襲撃の後に魔獣と暗殺者の襲撃があり、昨日は出発してすぐに襲撃があったかと思えば、午後からはぴたりと止んでしまった。
今日はいつ、どのタイミングで襲撃が来るのか。斥候に出ている三人もそうだが、馬車の近くで警戒を強めている冒険者たちも気を張り詰めている。
馬車の中も似たようなものだった。
戦闘に参加することなどないが、板を挟んだすぐ横で命のやり取りが行われているとなれば緊張するのも無理はない。
若いシリルさんに至っては祈るように両手を合わせていた。
「……何も、ありませんね」
「ですが、相手も気が緩んだ一瞬の隙を突いてくることがありますからね。安心はできませんよ」
「この暗殺者たちも王都が雇ったと思いますか?」
「疑わしいのは王都になりますが……どうでしょうか。もし王都が雇っているとなれば、最初の冒険者は身元がすぐにバレてしまっています。そのような人物を雇うのか、少し疑問が残るところではあります」
王都とは別の勢力がいるのか? ……いや、そんなことを考えても意味はない。
まずは王都に到着すること。そしてゾラさんとソニンさんを助けること。そして全員でカマドに帰ること。それだけを考えるべきなのだ。
他のことは二の次三の次で構わない。
「……もしかしたら、王都も一枚岩ではないのかもしれませんね」
「それはそれで怖いですけど」
ホームズさんとの会話が終わると、馬車の中には無言が続いた。誰も会話を楽しもうという雰囲気ではなかったのだ。
しかし、その後も順調な行程が消化されていき、太陽が真上に昇った時には休憩を挟むかどうかという話にまでなったのだが、当初の予定通りそのまま進むことにした。
一度気を緩めてしまうと、改めて引き締め直すのは思っているよりも難しいのだとヴォルドさんは言う。
今の緊張感を保ったまま、できる限り王都へ近づきたかったのだろう。
このまま何もなければ御の字、何かあれば即座に行動へと移ることができる。
どちらに転ぶのか、という考えをしている時だった――
「――危ない!」
前方を警戒していたロワルさんの声に反応して、メルさんが斜め前方に魔法を発動する。
顕現したのは巨大な水の壁。
そして、直後には三つの火の玉が水の壁にぶつかると水蒸気を発生させて辺り一面を白い霧が覆い隠した。
「襲撃! 襲撃ー!」
ヴォルドさんの大声に合わせて僕たちを乗せた馬車を囲むように陣形を取る。
前方にグリノワさんとロワルさん、右にはアシュリーさんとラウルさん、左にはガルさん、後方にはヴォルドさん。
魔法が飛んできた前方にはメルさんがやや後ろに控えており、二コラさんは馬車の横で待機している。
「ホームズさん!」
「少し様子を見ましょう。この霧ではむやみに動けません」
そう言っている右手はキャリバーの柄へ添えられている。
馬車の奥では三人が固まって全員が両手を合わせて神に祈りを捧げていた。
「……僕に考えがあります」
「それは――」
「来たぞ!」
僕の考えを伝える前に、ヴォルドさんの声が響き渡った。
弾かれたように視線を外に向けたホームズさんは、唇を噛みながら戦況を伺っている。
いたるところで剣戟音が響き、魔法が炸裂し、その度に霧が発生して視界がより悪くなっていく。
もしかすると、相手はメルさんの一般スキルを知っているんじゃないのか? だから火属性魔法を乱発し、それを水属性で防がせている?
防御に徹するなら他にもやりようはある――土壁だ。
僕なら火の玉を土壁で防ぎつつ、その土壁を押し倒す形で森へ火の手が広がらないように消化するだろう。
だが、メルさんが土属性を持っておらず、火の玉を防ぐのに使えるのが水属性だけだと知っているとしたら?
守るこちら側よりも、攻める相手側に分があることになる。
「……押されていますね」
「そんなあっ!」
ホームズさんの呟きに悲鳴を上げるシリカさん。
「ガルさんのところ、やはり一人では分が悪すぎます。視界が開ければ問題にはならないでしょうが……私が出て――」
「僕に任せてください!」
ホームズさんの声を遮り、僕は布のギリギリまで移動して右手だけを突き出した。
そして発動するのは――風属性魔法。
「コープスさん、何をするつもりですか! 風では火の手が――」
「この霧を吹っ飛ばします!」
僕の狙いは火の玉ではない。視界を悪くしている霧なのだ。
馬車を中心に風が集まるイメージを作り上げた僕は、その風が広がるように一気に解放した。
「――扇風機!」
ネーミングはともかく、馬車を中心に突風が吹き荒れると視界を遮っていた霧が一瞬のうちで消えてしまった。
そのことに冒険者たちだけでなく、暗殺者たちも驚愕に顔を染めていた。
「皆さん、今です!」
この状況を唯一把握していたホームズさんの声に素早く反応できたのは、やはり冒険者たちだった。
拮抗していた状況を押し返し、押され気味だったガルさんは水を得た魚のように縦横無尽に動き回り暗殺者を翻弄したかと思えば、手にはめた手甲でこめかみを殴りつけて一撃で意識を刈り取っていく。
このまま鎮圧に向かうだろう――そう思った矢先である。
「ヴォルド!」
「ちいっ!」
「
ホームズさんの視線の先で、ヴォルドさんの
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