ヴォルドVS暗殺者②

 まさかの武器破壊。

 驚愕に表情が塗りつぶされる中、暗殺者の長剣ロングソードは躊躇うことなくヴォルドさんへと振り下ろされる。


「こなくそっ!」


 腰に差していた予備の長剣を抜き何とか受けるものの、たったの一撃で刃が欠けるのを目撃してしまう。


大剣クレイモアを切断した一品なんだよ! そんな長剣で防ぎ切れるわけないじゃないさ!」

「ちぃっ! やってみなきゃ分からんだろうが!」

「やらなくても分かってるんだよねえ!」


 昨日の暗殺者と同じだろう少年が、嬉々とした声音でヴォルドさんへと襲い掛かる。

 このままでは長剣もすぐに破壊されてしまうだろう。


「ヴォルド――くっ!」


 ホームズさんが馬車から飛び出した直後、ヴォルドさんと少年暗殺者の両脇を抜けるように二人の暗殺者が姿を見せると、進路を塞ぐ形で立ち止まった。


「邪魔です、どきなさい!」


 本気のホームズさんに対して、二人の暗殺者は反撃を一切捨てて防御一辺倒――時間稼ぎに終始している。

 昨日とは打って変わり、少年暗殺者は確実にヴォルドさんを殺すつもりだ。


「ほらほら、ほらほらほらほらほらほらああああぁぁっ!」

「この、戦闘狂があ!」

「大正解! 僕はねぇ、戦闘が大好きなんだよ! 今日の襲撃は僕に全てを任されているから、好きなように殺すんだ! 手始めにあんただよ、剛力ストロンガー!」


 仮面をしているにもかかわらず、まるで満面の笑みを浮かべているかのように剣を叩き込んでいる少年に、僕は否応ない嫌悪感を抱いてしまう。

 魔法で援護するべきかと考えたのだが、僕の魔法は全てにおいて大味過ぎる。ほぼ密着状態で戦っているヴォルドさんを援護するのは難しい。

 ならば他の戦闘を援護してヴォルドさんの助けに回れるようにするのはどうかと考えて周りに視線を向けたのだが――


「また、霧!」


 遠方から放たれる火の玉によって再び霧が作り出されてしまう。

 慌てて扇風機を発動して霧は吹き飛ばしたものの、同じことの繰り返しでは僕も動けない。


「ラウルとロワルはヴォルドを援護せい!」

「ダメだ来るな!」


 グリノワさんの指示に対して、ヴォルドさんが即座に否定を口にする。

 目を見開いたグリノワさんだったが、少年暗殺者の動きを見て驚愕するとともに舌打ちをした。


「なになに? あんな雑魚を守る為に自分が犠牲になるっての? 格好いいねぇ、剛力!」

「くそがあっ!」


 体中に傷を作りながらもなんとか耐えているヴォルドさん。だが――ついに長剣までもが根元から両断されてしまった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「これで終わりなの? もっと楽しませてくれないの?」

「……」

「……何黙ってやがんだよ! 諦めたのか? そうなんだな! だったら一思いに殺してやるよ! あー、つまんなかったなー」

「ヴォルド! 何をしているのです!」


 苛烈な攻撃を繰り返しているホームズさんはすでに一人に致命傷を与えている。

 だが、その一人が自身の致命傷を気にすることなく纏わりつき、もう一人の時間稼ぎを助けていた。

 あまりにも異常な光景に、僕は暗殺者が何を考えているのは全く分からなくなってしまった。


「さようなら、剛力」

「ヴォルドオオオオォォッ!」


 ホームズさんの叫びも空しく、身動きを取ろうとしないヴォルドさん。

 一足飛びでヴォルドさんの目の前に移動した少年暗殺者は長剣を横薙ぐと、刀身は太く逞しい首へと迫り僕は思わず目を閉じてしまった。


 ――ガキンッ!


 その直後に僕が聞いた音は金属がぶつかり合う甲高い音だった。

 恐る恐る目を開くと、そこには驚愕の瞳が仮面の隙間から覗いている少年暗殺者と、漆黒の太刀――黒羅刀こくらとうを握りしめたヴォルドさんの姿があった。


「な、なんだその剣は!」

「てめえに教えてやる義理はねえんだよ!」


 翻る黒羅刀の刃に長剣をぶつける少年暗殺者。


「……あ、あり得ない! こいつは、超一級品なんだぞ!」

「ああそうかよ! こっちも同等の剣なんでな!」

「同等だと! なら、なんで僕の剣が欠けるんだよ!」


 少年暗殺者が見せた初めての動揺に、ヴォルドさんは一気に攻勢へと移る。

 大剣とは異なり細く長い黒羅刀は見た目軽そうに見えるだろう。だが、少年暗殺者は剣で受けるたびに苦悶の声を漏らしていた。


「ぐうっ! 貴様、本当に剛力かよ!」

「誰がどう見てもそうだろうが!」

「ふ、ふざけるな!」


 自分の思い通りにいかなくなった途端、少年暗殺者の動きは精彩を欠き始めた。

 実力はあるのだろう。まともに戦えばヴォルドさんよりも強いのかもしれない。だが、精神はまだ子供のままなのだ。

 追い詰めたと思った相手に追い詰められ、動揺を隠しきれずにドツボにはまる。

 このまま押し切れる――そう思った直後だ。


 ――オオオオオォォ……。


 前方から魔獣の声が聞こえてきた。

 全員の表情に緊張が走る。当然ヴォルドさんの耳にも聞こえており、ほんの僅かだが太刀筋が遅れてしまった。

 その僅かな隙に少年暗殺者は斬撃の嵐から逃れて距離を取ることに成功してしまう。


「み、みんな魔獣に喰われちまえばいいんだ!」

「てめえ、また逃げるのか!」

「僕は負けてなんかない! 剛力、あんたは絶対に僕が殺す!」


 そう言って少年暗殺者は逃げて行った。いまだ戦っている他の暗殺者を見捨てて。


※※※※

連続投稿六日目の宣伝です!

初動は大事! とよく聞きますが、本当のようです。

発売初日はどうだったのだろうか。。そして今日は、明日は、売れるだろうか。。

読者様に祈りながら、私は近くの書店に並ぶのを待ちたいと思います。

……だいたい三日遅れなんだよなー。


『異世界転生して生産スキルのカンスト目指します!』

■作者:渡琉兎

■イラスト:椎名優先生

■出版社:KADOKAWA(レーベル:ドラゴンノベルス)

■発売日:2019/03/05(火)

■ISBN:9784040730790

■価格:1,300(税抜)

■B6判

※※※※

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