ケルン石
一度、大きく深呼吸をしたカズチがケルン石を錬成布に乗せて、両手をかざす。
僕の時とは違い錬成陣に素早く魔力が通い光輝き出した。
「は、早いね」
「リースも慣れの部分が強いですからね」
小声でやり取りする僕とソニンさんをよそに、カズチは錬成を工程を進めていく。
初めて取り扱う素材ということもあり、銅を錬成していた時よりも時間を掛けているようだ。
どのような形を想像しているのか、気になるが今は聞かないと口をつぐむ。
……あぁ、でも聞きたいなぁ。
「……ね、ねぇ、カズチ」
「言わねえからな」
ぐぅっ、先回りされたよ。
ま、まぁ出来上がってのお楽しみって言うのがいいのかもね。
ケルン石がゆっくりと溶け出して液体状になると、小さな石や砂とに分けられていく。
ここまでは銅の錬成と似たようなものなのだが、浄化が始まると、その幻想的な風景に感嘆の声が漏れてしまう。
「……海が、輝いているみたいだ」
「ピッピキャー」
そう、それは透き通った海に反射する太陽光にも似た、見ていて清々しい気持ちになれる光景だったのだ。
ガーレッドも目が離せないみたいだよ。
……ソニンさんも、錬成を見せてくれた時に銅じゃなくてケルン石を使えば良かったのになぁ。
「コープスくん、変なことを考えていませんか?」
「そ、そんなことないですよー、あは、あははー」
ぐぬぬ、本当に、何でバレるんだよ!
ソニンさんからジト目を向けられつつ、僕はカズチの錬成を注視する。
気泡が弾けながら魔素が取り除かれていき、光が徐々に薄くなっていく。幻想的な光景が終わりに近づいている証拠だ。
カズチに視線を向けると、額には汗が浮かんでいる。
「最後に、構築だ」
呟きを漏らしたところで、錬成も佳境に入る。
銅とは違い、鍛冶には使われないケルン石は構築が終われば最終的な完成を迎える。故に、イメージ力をより強固にしなければいけない。
僕だったらどうするだろうか。
基本の丸形?
それともダイヤモンドのようなひし形?
奇をてらって三角形や複雑怪奇な形をイメージする?
……実際に錬成するとなればいろいろ考えるだろうけど、今はこれくらいにしておこう。そうでなければ思考にふけりカズチの錬成を見逃してしまいそうだ。
ケルン石は徐々にその形を形成していき、全容が見えてきた。
これもカズチの性格なのだろう。形は基本の丸型のようだ――そう思ったのだが。
「あれ? 違う?」
下から形成されていくケルン石、丸形になった下の部分とは違い、上の部分は弧を描きながら上に伸び、徐々に細くなる。
……なるほど、群青色に最適な形だね。
「雫かぁ」
深く透き通るような輝きを放ち、それを雫の形に形成したカズチのセンスは素晴らしいと思う。
大きさも小さいのでペンダントやイヤリングに最適だ。
錬成されたケルン石は、ソニンさんの師匠までは遠く及ばないものの、原石の時より何倍も美しく輝いていた。
カズチにとっても一回目にしては会心の出来だったようで、その表情には笑みがこぼれている。
「これは、素晴らしいですね」
「ありがとうございます!」
「あと数回こなせば、次のステップに進めると思うので、精進するようにね」
才能を認められたことはある。カズチ、凄いよ。
僕の錬成は意識の問題が大きいので、何とか知識を補完して鍛冶と同様に超一級品が作れるよう頑張らなきゃ。
「それでは、一度休憩しましょうか」
「えっ? 僕はまだ出来ます!」
「ダメです。鍛冶もそうですが、錬成も魔力を大量に使います。『神の槌』では午前中は一回、午後は二回の錬成で終わりと決めているんですよ」
「ジンの気持ちは分かるけどよ、これは決まりだから仕方ないんだよ。でも実際、やり過ぎると魔力が枯渇して倒れるんだ。ってか、お前は経験してるだろうが!」
「あー、そうだったねー」
ケルベロス事件のことを出されては何も言えないよ。
あの時はみんなに迷惑を掛けちゃったし、これ以上迷惑を掛けるわけにはいかないもんね。
「……分かりました」
「よろしい。私はこちらの片付けと次の準備をしておきますから、ふたりは食事に行ってらっしゃい」
笑顔でそう言うと、ドアを開けてくれたので僕たちはお辞儀をして食堂へ向けて歩き出す。
「ねえ、カズチ。このケルン石どうするの?」
「初めての作品だし、何かにくっつけて自分で使おうと思ってるよ」
「ふーん、そうなんだ」
「なんだ? 何かあるのか?」
いや、僕の勘違いみたいだから別にいいんだけど。
「女の子にプレゼントとかしないのかなーって」
「はあ? 誰に渡すってんだよ、変な奴だなぁ」
……あっ、本当に自分で使うつもりなんだね。
分かりやすいカズチのリアクションが普通なんだもん。
……せっかく、食堂に行くのにね。
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