食事とルルの過去

 食堂に到着した僕とカズチは、カウンターからミーシュさんに声を掛けた。


「ミーシュさん、こんにちはー」

「おや、新入り君じゃないか。体調は大丈夫なのかい?」


 そういえば倒れてから今日まで、食堂に顔を出していなかったっけ。


「その節はご心配をおかけしました。もう元気なので大丈夫です」

「なんだい、大人みたいな言葉使いだね。まあ元気ならそれに越したことはないさ。それじゃあ、今日は新入り君のご飯は大盛りにしてあげよう! 何を食べるんだい?」


 ご飯大盛りは、正直遠慮したいのだがミーシュさんの心遣いを無下には出来ないので黙っている。

 本日のオススメランチを二つ注文して席に着く。

 しばらくして料理を持ってきてくれたのはルルだった。


「ジンくん、カズチくん、おまたせー」


 テーブルに料理を並べていくルル。その数は何故か三人分。


「料理長が私も食べてきていいんだってー」


 えへへ、と笑って席に着いたルルも交えて料理に舌鼓。

 うん、今日も美味しいなぁ。お母さんの味って感じだなぁ。


「そういえば、ルル。魔法を使うのはもう問題ないのか?」


 唐突な質問にルルは笑顔で頷いた。


「そうみたい。ジンくんやガーレッドちゃんのおかげだね」

「ピキャー!」

「僕、何かしたっけ?」


 思い当たる節がないのだが、話の流れでずっと気になっていたことをルルに聞いてみた。


「ルルって魔導師だったんだよね? どうして今は料理人見習いをやってるの?」

「おまっ! ごめん、ルル。ジンは何も知らないんだ!」


 えっ? もしかして、聞いちゃいけなかったの?


「あの、えっと、言いたくなかったら言わなくていいです! なんかごめんなさい!」

「だ、大丈夫だよ! カズチくんも大げさに言わないでよ!」

「いや、だってさぁ」


 そういえば、ガーレッドについてルルの見解をもらう時もゾラさんが何やら心配していたっけ。

 あー、失敗しちゃったかも。


「ジンくんもそんな顔しないで。本当にもう平気だから」

「……本当に? 無理してない?」

「ピキュー?」

「大丈夫。ガーレッドちゃんもありがとう」


 笑顔で大丈夫だと言ってくれたルルに頭を下げた僕は話を変えようとしたのだが、ルルが真相を話してくれた。


「魔導師学校に通っていた時、イジメにあってたんだ」

「イジメ?」


 どこの世界にもあるんだなぁと思いながら、むしろ貴族制度があるこちらの世界の方が陰湿で規模も大きなイジメなのかもしれないとすぐに思い直す。


「私、これでも成績は良い方だったんだ。将来は国に仕える立派な魔導師になれる、なんて言われてもいたの。だけど……私みたいな庶民が国に仕えるなんてありえないって、貴族の子供たちに笑われて、イジメられるようになったんだ」


 ……貴族の子供、許すまじ。


「もちろん、庇ってくれる子もいたんだけど、権力には勝てないというか……その子たちまでイジメの対象になるのが怖くて、魔導師学校を辞めたの」

「えっ!」


 まさか辞めるところまで追い詰められていたなんて、今のルルからは想像もつかない。

 ……学校を辞めてからも努力をしたんだなぁ、と感心しちゃうよ。


「それからは魔法を使うことを止めたわ。何処で誰が見ているか分からないもの。そんな時に声を掛けてくれたのがゴブニュ様だったの」

「でも、料理人見習いだよね?」

「実は私、魔法学校を辞めてからしばらくは食事処で働いていたんだ。そこにたまたまゴブニュ様がやって来て、私に声を掛けてくれたの。有名なクランは優秀な若い人を加入させたいから、たまに学校へ見学に訪れる人がいるんだけど、その時にたまたま私を見かけたんだって」


 ゾラさん、そんなこともしてたんだ。


「勧誘に訪れたらいなくてビックリした、魔法が無理なら料理人見習いで『神の槌』に来ないか? って言われた時は驚いたよ」

「それ、絶対に打算が入ってるよね」

「それも言われたよ。魔法の才も飛び抜けているから、まあ機会があれば使ってくれ、これは儂の打算じゃー、ってね」


 ゾラさんらしい。

 隠し事なく、自分が求めているものを全て伝えた上で勧誘する。

 そうでなければ、後から魔法を使えと強要されればすぐにでも出ていってしまうのだから。


「料理は好きだし、料理長も良い人だったから、そのまま『神の槌』に加入したんだ。もう一年になるけど、『神の槌』で魔法を使ったのはガーレッドを鑑定する為のリサーチャーが初めてだったんだよ」

「そうだったんだ。本当にありがとう」

「ピキュキュキュキュー!」


 僕とガーレッドがぺこりと頭を下げると、ルルもぺこりと頭を下げた。


「私の方こそ、魔法を使うの、吹っ切れた気がするからお礼を言わして。ありがとう」


 ルルがそう言ってくれるなら、大丈夫なのだろう。

 僕もガーレッドも、知らず知らずのうちにルルの為になっていたなら嬉しいことだ。

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