鍛冶と錬成の違い
カズチが言うように、初めてで中の上なのだから褒めて欲しい。
ジト目でソニンさんを見ていると、そのことに気づいたのか一度咳払いを入れた後に頭を撫でてくれた。
「初めてでこれは上出来ですよ。本当です」
「……信用していいんですかね?」
「うっ! ……も、もちろんですよ」
うっ! て言ったよ!
「でも、本当に凄いと思うぞ。俺はリースを扱えるようになるまで三日掛かったからな」
才能を認められたカズチで三日かぁ。それって、もっと褒めてくれてもいいよね?
「しかし、何故鍛冶は超一級品になって、錬成はそうならないのでしょうか」
「そうですよね。ジン、何でか分かるか?」
「えー、うーん、まあ、ねぇ」
実は聞かれる前からだいたいの検討はついている。
それは知識量の違いだと推測していた。
鍛冶に関しては日本の頃の知識がある分、認識が深まっている。
だが錬成に関しては知識なんて全くない。カマドにやって来てからソニンさんとカズチの錬成を見ただけであり、カズチの錬成に関してはガーレッドの件もあり途中で終わってしまったのだ。
きっと知識の深い浅いが原因だろう。
「錬成の基礎、更にその根底についての知識不足だと思います」
「錬成の基礎? 根底? そんなもん、俺も知らないぞ」
「えっ、そうなの?」
カズチがさらりと言った言葉に絶句する。
それじゃあ何故僕の錬成は中の上止まりなのだろうか。
「根底、ですか。……コープスくん、錬成を行う時に鍛冶よりも上手くできない、と思いながらやっていませんか?」
「まさか、そんなこと思うわけ……あー、うん、思ったかも」
深層心理には逆らえない。
頭の中では出来ると、鍛冶の時のように出来ると思っていても、心の奥底では日本の知識がない分出来ないかもなー、と思っていたのかもしれない。
実際にそうかも、と思っている時点で確定なんだけどね。
「その思いがいけないのでしょう。鍛冶もそうですが、こう作る、こうなる、という強固なイメージが必要になります。気持ちのどこかで劣っている思ってしまえば、その通りに出来てしまうのです」
「ふむふむ、なるほど、奥深いですね」
予想外の展開である。
日本の記憶がこのようなところで足枷になってしまうとは。
おそらく錬成にも英雄の器の効果は出ているはずだが、それをもってしても中の上が限界というのは今後の錬成師としての限界を見せられているようじゃないか。
「れ、錬成について勉強します! 実践もやりながら座学も教えてください!」
「もちろん、そのつもりですよ。それじゃあ、次はカズチの錬成を見ていきましょう。せっかくですからコープスくんも見ていてくださいね」
前回は途中で終わってしまったから楽しみだ。
それに、カズチが錬成するのは銅ではなくてケルン石という装飾品として価値が高い素材だ。
錬成で商品として完成するのだから、練習とはいえ重要である。
「ケルン石や装飾品として錬成を行う場合、最終的にどのような形にするのかが重要になります。更に、浄化が上手く出来なければ輝きが薄れてしまいますから、こちらも浄化が重要になってきます」
「ソニンさん、そもそもの素材だけでも綺麗なのに、錬成をしたらこれよりも綺麗になるんですか?」
ケルン石は原石の状態でも鮮やかな群青色をしている。そのまま加工しても高い価値が付きそうなのだが、そうではないらしい。
「このままでも綺麗ですが、錬成することで輝きは何倍にも変わるのですよ。そうですねぇ、実際に錬成されたケルン石を見てもらいましょうか。カズチは、ここまでとは言いませんが原石よりもより良くすることを意識するようにね」
「はい!」
カズチはどうしてソニンさんの前ではこうも緊張しているのだろうか。
錬成をしていた時はそんな風には見えなかったんだけどなぁ。
「これが、超一級品になったケルン石です」
机の上に置かれたケルン石は、吸い込まれてしまうような錯覚を覚える程に、深く鮮やかな、群青色から
「これが、ケルン石」
「す、凄すぎる。これは、副棟梁が?」
「違います。これは、私の師匠だった人の遺品なのですよ。私でもここまでの輝きを放つケルン石は作れません。まだまだ精進が必要だということですね」
ソニンさんの師匠、やば過ぎる。
だって、ケルン石自体も綺麗ではあるけど、練習で使われるくらいの素材だよね。それにこれだけの輝きを与え美しくしたのだから、その付加価値は計り知れない。
最高級の素材を使って錬成をしたならば、それは見たものが争ってでも手に入れたくなる一品になるんじゃないだろうか。
「カズチ、緊張してはいけませんよ。これは例外中の例外です。錬成をすれば原石以上に素晴らしい物になるという例ですからね」
「は、はいっ!」
「はーい、リラックース」
「……ジンは本当にいつも通りだな。だけどまあ、うん。落ち着いたわ」
……あれ? 今のは僕の励ましの言葉に対してじゃない気がするよ?
「よし! よろしくお願いします!」
まあ、何にせよカズチが落ち着いたならいいか。
……いいよね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます