初めての錬成

 心当たりがないまま、とりあえずは錬成がしたいので気にしないことにした。


「さて、コープスくんはこちらにどうぞ」


 示された机には錬成布が置かれていた。

 椅子を机の前に移動させてから再び腰掛ける。


「あれ? でも、錬成布は擦れたりして使い捨てにされることが多いって言ってませんでしたっけ?」


 錬成陣を描くのも大変だろうに、ただの練習で貴重な錬成布を使ってもいいのだろうか。


「この錬成布は私が作ったものですから気にしないでください。それに、擦れてしまっても描きなおせますから」


 ……さすが万能人間二号。

 思いもよらない答えに内心で嘆息しながら、僕は銅を錬成布の上に置く。


「それでは、リースについて説明します。光属性の魔力を注ぎ込むと前回お伝えしましたが、魔法の練習の時に光属性は使いましたか?」

「使いました! ケルベロス相手にも使いました!」

「……そ、そうですか、それは良かった」


 ん?何故に顔を引きつらせているのだろうか?


「大規模な魔力は必要ありませんから、安心してくださいね?」

「は、はーい」


 よく分からないけど、ここは従っておくべきだろう。

 そうじゃないと、あとが怖い気がするからね。


「最初はゆっくりと、少量の光属性の魔力を注いでいきます。そうすることで錬成陣に魔力が通い、光輝きます」


 僕は両手を錬成布にかざして光属性の魔力をゆっくりと注いでいく。

 光を明滅させる単純な魔法ではなく、光属性の魔力を注ぐ。そんなことしたことはなかったけれど、イメージ力とは凄いもので、こうかな? と思ったことが実際に出来てしまうのだから。

 チラリとソニンさんに目を向けると、案の定驚いているようだ。


「……普通は、魔力の調整から教えていくものなんですけどね」

「そうなんですか?」

「火を灯す、水を出す、光を出す、単純な魔法は魔力を調整するなんてことを普通やりません。鍛冶師の場合は火力調整のために練習することはありますが、それでも多くの練習が必要になります。そうすることでランクアップもするのですが……これも、英雄の器が関係しているのでしょうかね」


 ……ごめんなさい、これは英雄の器云々ではなく、僕のイメージ力によるものです。

 でも、錬成の出来に関しては影響が出るだろう。完成が楽しみである。


「錬成陣に魔力が通うと全体が光輝きます。もうそろそろでしょうか」


 ソニンさんの言葉を受けて、僕はより慎重に魔力を注ぐ。

 そして、全体に魔力が通ったのか錬成陣が注いでいる時とは桁違いに輝き出した。


「よろしい。これでリースは問題なさそうですね。それでは、実際に錬成の工程に進んでいきます。コープスくんは以前、鍋に似ていると言っていましたよね。その要領でやってみますか?」


 じっくり煮込んで美味しい鍋料理……じゃなくて錬成を完成させる。

 分解、排除、浄化、構築。その工程を鍋に似せてイメージすることは、僕にとって簡単だ。

 でも、それでは面白くない。少し趣向を凝らしてみよう。

 そもそも、何故錬成を行うのにこの四工程が必要なのだろう。ある程度の工程を並行作業出来れば時間の短縮に繋がらないだろうか。


「そうですね、やってみたいと思います」


 そう答えた僕は、分解の作業に取り掛かる。

 銅を鍋の具材に見立て、じっくり煮込み溶け込ませるイメージ。

 銅が徐々に溶け始めたのを見て、並行して排除の工程を織り交ぜる。

 これは、煮立たせて雑菌を死滅させるようなものだが、思惑通りに不純物がプクプクと膨らむ泡から飛び出したり、煮るイメージだからか不純物自体が熱に溶けて気体に変わり霧散してしまう。

 分解が終わり、排除は継続して行われる中、次いで並行して浄化を行なっていく。

 泡が弾ける中で、浄化が行われている証拠である光が溶けた銅から浮かび上がる。

 排除が終わった時、浄化と構築の並行作業を考えたのだが、そこは流石に諦めた。

 錬成において浄化は最重要工程である。そこに時間を掛ける為の時間短縮なわけだから、ここに時間を掛けるのは仕方ないだろう。

 しばらく浄化を行いながら、発生する光が消えたのを確認して構築を開始する。

 球体をイメージした構築は意外と早く終わってしまい、初めての錬成は終了した。


「……ふぅ、終わったー。どうでしたか、ソニン、さん?」

「……えっ? あ、あぁ、そうですね、終わりましたね」


 やっぱり短縮させたので驚かせちゃったのかな。そうだよね、普通初心者がそんなことしないものね。


「……まあ、コープスくんですからね」


 その納得のされ方は心外ですな!


「とりあえず、素材を見せてもらいますね」

「……はーい」


 ここで文句を言っても意味がないことくらい学習しています。だから何も言いませんとも。


「……おや?」

「どうしたんですか?」

「いえ、うーん、そうですか」


 な、何? ものすごく気になる反応なんですけど。

 もしかして、失敗した? 変なことしたから失敗しちゃった?


「素材的には、中の上と言ったところですか」

「それって、成功でいいんですか?」

「ジン、初めてで中の上は上出来だぞ」


 そうなんだ、良かったー。

 ……でも、それじゃあ何でソニンさんの表情は晴れないのだろうか。


「……鍛冶の時のように、凄い結果を予想していたのですが」


 いや、そっちですか!

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