錬成をしよう

 何故この先導者がこんなことをしたのか、何となくではあるが理解出来てしまう。

 先導者は、この世界をゲーム感覚で楽しんでいたに違いない。

 今ある国を更に大きくするのもありだろう。だが、先導者は一から創り上げることを選んだのだ。

 ある意味では僕も同じような感覚は持っている。

 何かを一から作りたい。僕の場合はそれが生産に偏っていただけで、先導者の場合はその規模が国単位で大きかったに過ぎない。

 本に書かれている通り、ベルハウンドがあった国の王が本当に愚王であり、みんなを助けたいから立ち上がった可能性もあるけれど、僕にはそう思えなかった。

 再び視線を文字に落とそうとした時だ。


「……ピ、ピー?」

「あれ、起きちゃったか、ガーレッド」


 ベッドに視線を向けると、まぶたを小さな手を使って擦りながら欠伸をしているガーレッド。

 あまりの可愛さにずっと見ていたくなったが、ガーレッドは起き上がってこちらに来ようとしたので、僕からベッドに移動した。


「今日も相変わらず可愛いね」

「ピキュー?」


 そうなの? って、そうなんだから仕方がない。

 僕がベッドを揺らしたり、ガーレッドを突っついたりして遊んでいると、ドアがノックされた。


「はーい」


 僕は立ち上がってドアを開けると、そこにはカズチが立っていた。


「おはよう、カズチ。今日は錬成の勉強よろしくね」

「おはような。そのことで副棟梁から話があったんだ」

「わかった。立って話すのも何だし中で話そう」

「助かる」


 ドアを閉めた僕がベッドの端に、カズチが椅子に腰掛ける。


「今日は朝食を食べた後、三の鐘に副棟梁の錬成部屋に向かうことになった」

「僕も錬成できるかな!」

「鍛冶のことがあったからな。やらせてくれるんじゃないか? 俺も見てみたいしな」


 カズチもいいこと言うなぁ!

 僕自身が見てみたいし、ってかやりたいから楽しみだよ!


「それで、これ朝ご飯な」

「サンドイッチ、かな? ありがとう」


 パンに新鮮な野菜とふんわり卵焼きが挟まれたヘルシーなサンドイッチである。

 包み紙を剥がして食べていると、カズチが口を開いた。


「あれ? ジン、お前歴史本を読んでたのか?」

「うん、ガーレッドより早く起きたからさ」

「珍しいなぁ」

「何が?」


 本を読むことは知っていただろうし、何が珍しいのだろうか。


「鍛冶とか錬成の本じゃなくて、歴史本だろ?」


 あー、なるほど。そういうことね。


「失礼な、僕だって歴史本くらい読みますよ」

「読むとは思うけど、先に読むのがそっちなのかって思ったんだよ」

「まあ、惹かれなかったのかと言われれば、惹かれたけどね」

「だよなぁ。ならどうして?」

「うーん、僕ってこの世界のことを全く知らな……いや、忘れてるみたいだからさ。先のことを考えたら知っていた方がいいかなって思ったんだ」


 ふーん、とあまり興味がなさそうに相槌を打つカズチにムッとしてしまう。


「いくら僕でも生産以外のことも勉強するよ!」

「あっ、そろそろ時間じゃないか?」

「早く行こう、すぐ行こう、場所がわからないから教えてね」

「……生産ばっかりじゃねえかよ」


 何を言っているのだろうか。目の前に生産があるならば仕方がないじゃないか!

 ということで、僕とカズチとガーレッドはソニンさんの錬成部屋に向かった。


 ソニンさんの錬成部屋は大部屋である錬成場の更に奥にあった。

 錬成場に行くには便利なのだろうが、本部の入口からは結構な距離があるため大変じゃないだろうか。

 そんなことを考えながらドアをノックすると、中から返事があったので中に入る。


「おはようございます、副棟梁」

「おはようございます、ソニンさん」

「おはようございます、カズチ、コープスくん」


 いつもの笑顔で迎え入れてくれたソニンさん。

 腰掛けている椅子の向かいには二脚の椅子が並び、僕たちに勧めてくれた。


「ガーレッドもおはようございます」

「ピッピピキャー」


 こくんと頷いた姿に三人とも微笑みを浮かべた後、ソニンさんが今日の予定を口にした。


「今日はこちらで錬成の実践を行なっていきます。カズチは既に基本以上のことが出来ているので、一つ上の素材で錬成をやってもらいます。コープスくんには銅で錬成をしてもらいます。鍛冶と同じことが起きるのか、錬成では別なのか、まずはそこを見極めたいと思います」

「「はい!」」


 ついに、ついに錬成が出来るよ!

 鍛冶とは違ってゼロからの勉強である、何がどうなるのか楽しみで仕方がない。

 英雄の器のせいでいきなり最上級の錬成が出来てしまってはつまらないかもしれないけれど、そうなれば鍛冶と同様に僕にしか出来ない錬成を求めればいいだけの話だ。


「カズチにはこれを錬成してもらいます--ケルン石です」


 ……ケルン石? この世界の素材みたいだけど、どんな石なんだろう。

 気になって素材を覗き込むと、そこには群青色の鮮やかな石があった。


「ケルン石は装飾品を作るのに利用されている素材です。錬成の段階で完成させるものなので、形、色、艶をいかに出せるかがポイントになってきます」

「素材を作るだけが錬成じゃないんですね」

「その通りです。ですが、コープスくんはまず通常の錬成からですよ」

「はーい」


 なんだろう、ソニンさんからは釘を刺されることが多い気がする。

 僕、何かやっただろうか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る