都市の中の依頼

 ユウキとフローラさんはその場で都市の中の依頼をいくつか受注して冒険者ギルドを後にした。

 僕は二人の仕事ぶりを見てみたいと言ってついていく。

 ユウキからは汚れ仕事の時にはフルムを預かってほしいと言われたのでそちらも大歓迎だった。


「フルム、少しだけ僕とガーレッドと待ってようね」

「ピーピキュー!」

「わふぅぅ」


 とても寂しそうにしていたけど、ご主人様がお仕事なのだと言い聞かせると小さく頷いていた。

 ものわかりの良さも霊獣だからなのかもしれない。


 二人が受けた依頼の一つがどぶ洗い。現在進行形で行っている作業なのだが、手作業で行っているので効率が悪い気がする。


「フローラさんは水属性って持ってますか?」

「持っていますよ」

「水の勢いでどばーって洗えないかな?」


 僕の意見にユウキはうーん、と悩み始めてしまう。


「……やろうと思えばできると思うけど、勢いが弱くなったところで詰まっちゃうかもしれないからオススメはできないかな」

「その先でまた魔法を使うのは?」

「今回の依頼だとダメかな」

「そうなの?」


 今回の、というのはどういうことだろうか。


「どぶ洗いの依頼にも色々あって、今回のは範囲外指定されているんだ。だから、範囲内を綺麗にするのは当然なんだけど、範囲外に汚れを移動させるじゃあダメなんだ」

「あー、なるほど。私有地問題ね」

「なんですかそれは?」

「いや、なんでもない」


 そういうことなら汚れをただ流すだけじゃあ無理だよなぁ。

 ユウキだけなら無属性魔法しかなかったし手作業も頷けるけど、フローラさんがいるなら魔法で簡単にできる方法を考えるのもありだと思うんだよね。


「何かいい方法はないかなぁ」


 ガーレッドとフルムを膝の上に乗せながら考えていると、一つの名案を思い付いた。

 ただ、これが可能なのかどうかは分からないのでちょっとだけ試してみたい。


「……どぶの汚れを魔法で綺麗にすることってできないのかな?」

「綺麗にする為に掃除をしてるんだけど」

「そういう意味じゃなくて──汚れ自体を癒すというか、治すというか」

「「……汚れを癒す?」」


 いや、分かってるよ、僕だって何を言ってるんだって感じなんだよ。


「えっと……そうだ! 汚れを分解して別々にちゃちゃっと分けることってできないかな!」

「分解って、錬成みたいにってこと?」

「聞いたことありませんよ?」


 うーん、そうだよなぁ。

 ……まあ、物は試しでやってみよう。


「そっちのはみ出した汚れで試してみるね」

「い、いいけど」


 困惑しているユウキを尻目に僕は汚れのところに移動して光属性魔法を流し込んでいく。

 ガーレッドとフルムは一緒に鞄の中である。

 単に汚れが光っているだけみたいだけど……うーん、錬成陣がないから分解は無理なのかなぁ。

 でも頭の中にイメージはあるんだよね。

 ……いや、イメージの具現化は僕の得意分野ではないか?


「……よし、これならどうだろう」

「ピキャ?」

「わふ?」


 鞄の中からの可愛らしい声に癒されつつ、僕はもう一度光属性魔法、さらに水属性魔法を発動した。

 どろどろしているが水分はあるのだ。ならば水属性で汚れとそれ以外を分解しながら光属性で雑菌を死滅させる。

 回復魔法もこんな感じなのかな、と思いながら今は頭の片隅に追いやることにする。

 最初はゆっくりと、しばらくすると徐々に分解される速度が速くなり汚れとそれ以外、石や枝などの固形物が取り除かれていく。

 汚れに対しては水を含ませて薄く伸ばしていき、そこに光属性魔法をさらに注ぐ。

 僕が魔法を使ったのはわずかな汚れに対してだったが、これが思いの外うまくいった。

 汚れは跡形もなく消えてなくなり、水も綺麗なものだけが残ってくれた。

 水質に関しては鑑定スキルのおかげかもしれないが、水質に問題なしと頭の中に浮かんできたのだ。


「どうだ! できたよ!」

「ピッピキュー!」

「わふ! わふん!」


 自信満々に声を出した僕だったが、振り返った先で見た二人の表情は呆気にとられたものだった。


「……えっと、あれ? どうしたの?」

「……ジン、いったい何をしたんだ?」

「……今のは、魔法?」

「どう見ても魔法だよね? じゃないとできないって」

「「……新しい魔法?」」


 ……へっ? 新しい魔法って、どういうこと?


「いや、水魔法と光魔法を併用して使っただけだけど?」

「前にも思ったけど、ジンって本当に規格外だよね」

「……き、規格外とかの問題ではありませんよ! 魔法の併用だなんて、王都の魔導師でもできる人は少ないですよ!」


 えっ、そうなの? でも最初っからやってたんだけど。


「……まあ、併用は置いておくとして」

「置いておくんですか!?」

「新しい魔法ってどういうこと?」


 二人とも最初に言っていたのが新しい魔法、である。

 そんなつもりで汚れを綺麗にしたわけではないんだけど、勘違いさせるようなことはしていないと思う。

 困惑顔のフローラさんとは対照的に、ユウキはまじめな表情で口を開いた。


「新しい魔法って言うのは、言葉の通りで誰も使ったことのない魔法ってこと。つまり――ジンは魔法を開発したってことなんだ」


 ……えっ? いや、説明されてもよく分からないんだけど?

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