新しい魔法
僕の場合は単に魔法を組み合わせただけである。それも一般スキルの水と光の二つだけ。
フローラさんが言うには魔法の併用は難しいようだけど、できないものではない。
三つも四つも組み合わせている訳じゃないのだから、誰かがやっていても不思議ではないと思うんだけど。
「あー、もしかして……」
そこまで考えて、僕は一つの仮説を思い付いた。
「魔法って冒険者以外の人も日常的に使うかな?」
「どうだろう。仕事上使う人はいると思うけど、日常的にって言われると自信がないな」
「私はほとんど使いません。失敗したら大惨事になるので。特に火属性は火事に繋がることもあるので使うとしても料理の時だけ、それも最小の火力でしか使いません」
「掃除や洗濯は?」
「雑巾をかけたり、手洗いですね」
なるほど。併用とは言わなくても魔法を有効活用しているのかと思ったが、意外とそうではないらしい。
とても便利なものなのにもったいないと思うのは、僕が転生者だからだろうか。
しかし、これで納得することができた。
「こういった生活魔法って誰も使ってないんだね」
「「……生活魔法?」」
「ビギャ?」
「ばふ?」
あっ、みんなの反応を見る限りだとやっぱりないみたいだ。
「日常生活を楽にする、それこそ庶民の為の魔法みたいなものかな。これは思い付きだから併用になって使える人の方が少なくなっちゃったけど、一つの属性で使えるようになったら便利だと思わない?」
「掃除や洗濯が魔法でできるようになったら、とても便利ですけど……」
「そんなこと考えたこともなかったよ」
「魔法って便利なように見えて実は不便?」
使い方次第だと思うのだが、都市の中では使える魔法も限られるのかもしれない。
「うーん、庶民の為の魔法って研究されてないのかな?」
「王都にいる時には聞いたことないなぁ」
「魔法は冒険者や軍隊が使うことが多いですからね」
「軍隊?」
物騒な発言が飛び出したので僕は驚いてしまった。
「歴史本とかには強力な魔法が戦況をひっくり返した、みたいなことが書かれているものも多いんだよ」
「僕がホームズさんから借りてる本にも書かれていたよ。王都ではそれっぽい魔法が使われて大変だったよー」
「そ、そんな軽く言っていいことなんですか?」
「生きてるからいいんだよ。あの時はガーレッドが頑張ってくれたんだよね」
「ピギャー!」
「わふん?」
ガーレッドが両手をパタパタさせたからか、話を聞きたいのかフルムは首を傾げながら僕の方を見つめている。
……か、可愛いんだけど!
「僕も気になるな」
「わ、私もです!」
「そういえばパタパタしていてゆっくり話をする機会もなかったもんね」
「よし! それじゃあ急いでどぶ洗いを終わらせよう!」
「はい!」
やる気を見せた二人だったが、僕はちょっとした提案を口にする。
「あのー、もし僕が魔法を使ってもいいならささってやっちゃうけど?」
「それはありがたいんだけど……ジン、自重しようね?」
「えっ? ダメなのですか?」
……あ、あっ! そっか、フローラさんにはまだ僕のスキルのことを話していなかったんだ!
それだけじゃなく変に目立つようなことも禁止されてるんだったよ。
「……お、おとなしくガーレッドとフルムを見ています」
「ピキャ!」
「わふっ!」
魔法の研究はこっそりやることにしよう。うん、そうだ、こっそりだな。
「……ジン、変なこと考えてない?」
「えっ? いや、そんなことないよ、あははー!」
「……ほどほどにね。それじゃあフローラさん、続けようか」
「は、はぁ」
気の抜けた返事をしているフローラさんにユウキが苦笑しながらも、どぶ洗いが再開された。
僕はというと、おとなしくベンチに腰かけて二匹と一緒に二人の仕事ぶりを見ている。
必要な依頼なんだろうけど人気がないのも分かってしまう。
二人とも酷く汚れてしまい、顔にまで汚れが跳ねている。女性からは完全に敬遠されるだろうし、フローラさんは本当に偉いよ。
ユウキも実力をつけているにもかかわらず今でもこうやって汚れ仕事を受けているんだもんね。
「……やっぱり、考えるべきだよな」
ユウキにはほどほどにと言われたけど、これは非常に大事なことである。
そもそものところで、どぶ洗いは冒険者に依頼するほどのことなのかと思う部分もある。
簡単にどぶ洗いができるようになれば役所の管理で定期的に掃除もできるだろうし、今までどぶ洗いを受けていた冒険者は他の依頼を受けることができるので多くの依頼を消化することもできるだろう。
そんなことを考えている間にもどぶ洗いは続けられており、しばらくして掃除が完了した。
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