大人気
冒険者ギルドに到着するまでも大変だったが、到着してからも大変だった。
というのも、ガーレッドに加えてフルムがいるのでどうしても目立ってしまうのだ。
まあ、そのほとんどが好意的なものだったので問題はなかったのだが、あくまでもほとんどであり、好意的ではないものもあった。
しかし、その度に近くにいる顔見知りの冒険者が声を掛けてくれて助けられていた。
これもユウキの日頃の行いが良いからだろうと一人で納得している。
そして、冒険者ギルドに到着してからは──
「きゃー! やばいわねこれ、ずっと見ていられるわよ!」
「本当ですね! こんなことなら私も鉱山に行くべきでした!」
ダリアさんとフローラさんに報告した途端これである。
受付では邪魔になるだろうとすぐさま個室に案内されたのだが、そこでこの状態なのだから誰も止める人がいないのだ。
まあ、止めなければならない理由もないので構わないのだが話が先に進まないことだけが困ったところだが。
「霊獣契約は済ませてあるのよね?」
「は、はい。ムンバさんがわざわざ来てくれてその場で済ませてます」
「うんうん、それなら安心だわ。それに『神の槌』でお世話になれるなんて、最高の環境じゃないの!」
「ですが、依頼は受けづらくなりますね」
ずっと笑顔だったフローラさんは、そこで初めて暗い表情を浮かべた。
フルムのことを考えれば魔獣討伐やカマドの外に行くような危険を伴う依頼は受けない方がいいだろう。
ユウキだけなら衣食住も整っている『神の槌』でお世話になるので問題ないのだが、フローラさんは宿屋に泊まっている身なので収入が減るのは死活問題になってしまう。
「いえ、依頼は今まで通り受けようと思います。フローラさんにまで迷惑は掛けられません」
「ダ、ダメですよ! フルムちゃんのことを考えたら、絶対に危ない依頼はダメです! 受けるとしても都市の中で受けられるものに限定しましょう!」
「それだと実入りが少なくなってしまいますよ」
「わ、私は大丈夫ですよ! ちゃんと貯金もしてましたから、すぐにお金がなくなるなんてことはありませんから!」
ユウキの言っていることもフローラさんが言っていることも、間違ってはいないのでなんとも判断しづらいところだ。
それもお互いがお互いのことを心配しての発言なので否定もしにくくなっている。
フローラさんまで『神の槌』が受け入れてくれれば問題ないのだが、そこまで甘えるわけにもいかないしフローラさんがゾラさんやソニンさんとの関わりをあまり持っていないので無理な話だ。
「……あまり特定の冒険者に肩入れするのはよくないんだけどなぁ」
と、ダリアさんが突然そんな呟きを漏らしたのでみんなの視線が集まった。
「フローラさんがよければ、しばらく私の家に泊まる?」
「えっ! で、ですがそれこそご迷惑になってしまいます!」
「二人が言っていることも分かるのよ。その解決策としては、フローラさんの収入が減っても生活に困らないこと、それが第一条件になるのよね。それなら、宿屋代が浮けばだいぶ変わると思うんだけど?」
思ってもいなかった提案だが、言われて考えるとそれが最善なのかもしれない。
ダリアさんならフローラさんの人となりを知っているし、お互いに信頼しているだろう。
宿屋代が一番の出費になっているはずだし、食費を融通することができればダリアさん的にも問題ないということかもしれない。
「それは、そうなんですが……」
「これは何よりもフルムちゃんの為なのよ。フローラさんもユウキ君に言ってたじゃない」
「食費とかをダリアさんにお支払したらいいんじゃないかな」
「食費? いらないいらない、普通に泊まりに来てくれればいいのよ」
「と、泊まるなら食費くらいは出させてください! それくらいなら都市の中の依頼でも稼げると思いますから!」
ふふふ、言質は取りましたよ!
「ということなので、ダリアさん。お願いできますか? 僕が言うのもおかしな話ですけど」
「もちろんよ。それじゃあ、食費は無理がない程度に、支払いができる時だけ受け取るわね」
「……あっ、その、あの」
「「泊まりましょう!」」
「……あ、ありがとうございます!」
深々と頭を下げてきたフローラさんに、僕とダリアさんが顔を見合わせて笑みを浮かべた。
ユウキはポカンとしながらやり取りを見ているだけで、フルムも同じような表情をしている気がした。
「ジン君がガーレッドを連れていても問題がないくらいに、ユウキ君とフルムも認知されたら、その時にまた考えましょうね」
「そ、その時は出ていきますから!」
「あら、私と泊まるのは嫌かしら?」
「そんなことありません!」
「うふふ、冗談よ。妹ができたみたいで嬉しいから、本当に嫌でなければゆっくりしてちょうだいね」
最後に浮かべた笑みには親愛が含まれていたように見える。
妹と言ったが、ダリアさんから見ればユウキが弟で、フローラさんは妹のような存在なのかもしれない。
ユウキのことだからすぐにフルムとの関係を認知されると思うけど、それまでは二人とも新しい生活を楽しんでもらいたいものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます