歓迎
到着するとすぐにゾラさんの私室へと移動した僕たちだったが、ユウキは緊張しているようで歩き方がぎこちない。
「何度か来てるよね?」
「そうだけど、やっぱり『神の槌』棟梁と顔を合わせるのは緊張するよ」
「カマドの人たちはゾラさんに結構楽に話し掛けてたよ。子供とかその親とか」
「……いや、そこと比べられても」
えっ、違うの? 同じじゃない?
僕が首を傾げている間に目的地に到着したのでホームズさんがノックする。
『──はいよー』
「失礼します」
私室にはやはりというか、ゾラさんとソニンさんが待っていてくれた。
「久しぶりじゃのう、ユウキ」
「冒険者稼業は順調ですか?」
「お、お久しぶりです。おかげさまで、生活に困るようなことはありません」
「……わふ?」
ユウキの言葉の後に聞こえてきたフルムの鳴き声。聞こえてきたのはユウキの足下からである。
最初は抱っこしていたのだが、二人に会うということで礼儀正しくしたいと言って下ろしていたのだ。
そして鳴き声がしたこともあり当然ながら二人の視線もそちらに向いた。
「おぉっ! この子がフルムじゃな! ……可愛いのう」
「……はい」
あっ、ソニンさんがとろけてる。
「あの! ほ、本当に僕とフルムがこちらでお世話になっていいのでしょうか? ご迷惑ではないですか?」
提案したのが棟梁であるゾラさんなのだから問題はないのだが、やはりユウキとしては直接確認を取りたいのだろう。
「もちろんじゃ。ガーレッドの一件もあったからのう。儂らにできることがあればやってあげたいんじゃよ」
「霊獣、特にその幼獣は守るべき存在ですからね」
「……フルムの為に、本当にありがとうございます!」
頭を下げたユウキを見て、フルムもちょこんと頭を下げる。その愛らしい姿に全員が顔をとろけさせていた。
「そこで部屋についてなんじゃが、小僧の向かいの部屋が空いているのでそこにしようと思うがいいかのう?」
「ぼ、僕はどちらでも構いません」
「僕はそこがいいと思います! ガーレッドとフルムは友達なので近い方が絶対にいいですよ!」
「……小僧には聞いてないんじゃがなあ。まあよい、ユウキが構わないならそこにしよう」
いや、僕だってフルムの為を思って言ってるんですけどねぇ。
「見たところ荷物がないようじゃが?」
「
「ならよい。今は最低限のものしか準備されておらんから、必要なものがあればザリウスに声を掛けるがよい」
「ここではユウキ君が客人ですから遠慮はいりませんよ」
「えっと……は、はい」
あっ、これは完璧に遠慮するパターンですね。
「言いにくかったら僕に言ってよ。僕からホームズさんに伝えるからさ」
「……いや、そっちの方が気まずくなるから遠慮しておくよ」
……そうですよね、すいません。
「そ、それじゃあ荷物を置いてきますね!」
「ありがとう、ジン」
「この後はどうするんじゃ?」
「フローラさんが冒険者ギルドで待ってくれていると思うので、そのままギルドへ。荷物出しは戻ってきてからにします」
ゾラさんも納得したようで、僕とユウキは二匹の霊獣を連れて私室を後にした。
廊下を進んでいくとしばらくしてユウキが大きく息を吐き出した。
「やっぱり緊張してたんだね」
「だって、冒険者から見たらゾラ様の武器は憧れだからね」
「あー、そういうことか」
「鍛冶師の人たちから見ても憧れの存在じゃないの?」
僕としては親戚のおじちゃん、今では親父のような存在だからそこまで緊張するとかはないんだよね。
首を傾げている僕を見てユウキは空笑いをしている。
そうしていると部屋の前に到着、中には僕がやって来た時と同じでベッドに机とタンスが並んでいる。
机の上にはこの部屋の鍵が置かれており、ユウキは鍵を手にして改めて感謝の念を口にした。
「……ジン、本当にありがとう」
「僕はお礼を言われる立場じゃないんだけどね」
「ううん、ジンがいてくれたからこれだけの付き合いができているんだよ」
「わふ?」
「ピキャ?」
僕たちの会話を聞きながらガーレッドとフルムは首を傾げている。
そんな姿も可愛らしく、僕たちは自然を笑みをこぼしていた。
「……この子たちの為なら、なんでもできるね」
「……本当に」
荷物を置いたユウキはすぐに冒険者ギルドへ向かおうとしたので、せっかくだしと僕もついて行くことにした。
「いいのかい?」
「僕がいた方が『神の槌』が関わってるって宣伝にもなると思うしさ」
「……ありがとう。正直なところ、少しだけ不安もあったんだよね」
分かる、霊獣が関わっているとちょっとしたことでも不安になるもんね。
入口まで行くとホームズさんがすでに事務室に戻っていたので、一声掛けてから本部を後にした。
……遠くの方からノーアさんの声が聞こえたような気がしたが、気にしないでおこう。
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