神の槌の一員?

 ガーレッドと共に目覚めた僕はすぐに外着に着替えて事務室へと向かった。

 廊下から中を覗いたのだがまだ誰も来ていないようなのでホームズさんもユウキの家にいるはずだと判断する。


「僕たちでゾラさんの言葉を二人に伝えに行こう」

「ピー! ピッピキャー!」


 ガーレッドもフルムに会えるのが楽しみなようでとてもご機嫌である。

 そのまま本部を後にしてユウキの家へと向かうのだが、入れ違いにならないように近道になる裏道ではなく大通りを進んで行く。

 途中で顔見知りの冒険者と挨拶を交わしながら、僕はユウキの家に到着した。

 玄関を見てみるとちょうど二人が出てきたところだったので声を掛けた。


「ホームズさん! ユウキ!」

「あれ、ジン?」

「おはようございますコープスさん。どうしたのですか?」

「ピキャキャー!」

「わふんっ!」


 それぞれが挨拶を交わすと、僕はゾラさんの提案について二人へ報告する。

 すると案の定ユウキは恐縮しきりに断ってきた。


「ダ、ダメですよ! 部外者の僕が『神の槌』でお世話になるだなんて!」

「いや、ゾラ様の提案はユウキやフルムの為にはうってつけですよ」

「そうですけど、さすがにそれは……」

「ユウキ、まずはフルムの安全を第一に考えるべきだよ。周りのことはその後からでもいいんじゃないかな」

「フルムの為、かぁ……」


 ユウキの性格上、自分の為であれば頑なに断っただろう。だが、この提案はフルムの為の提案なのだからそこを言われればさすがのユウキも断れないだろう。

 腕組みをしながらうーん、と唸っているユウキを見てフルムが足元から見上げている。

 その姿にユウキも気づいたのか、ハッとしてフルムに視線を向けてゆっくりとしゃがみ込んだ。


「……そうだよね、フルムの為だもんね」

「わふ?」

「……ねえ、フルム。ガーレッドがお世話になっているところに行こうと思うんだけど、フルムは大丈夫かな?」

「わふっ! きゃんきゃん!」

「ピーピキャキャー! ピキュー!」

「……霊獣二匹のじゃれ合いが、これ程可愛いとは」

「……本当ですね」


 僕とホームズさんがあまりの可愛さに見入っていると、立ち上がったユウキが申し訳なさそうに口を開いた。


「あの、もしご迷惑でなければ、そのご提案をお受けしたいと思います」

「「喜んで!」」

「へっ?」


 まさか僕だけではなくホームズさんまで食い気味に返事をするとは思わなかった。

 おそらく二匹の可愛さにやられてしまったのだろう。

 この調子なら、ゾラさんやソニンさんもメロメロになるに違いない。


「……いや、失礼しました。きっとゾラ様も喜ぶと思いますよ」

「その、僕にできることがあれば何でも言ってください。お世話になるだけでは申し訳ないので」

「その点も確認しておきましょう」

「何か持って行くものとかあるかな? 魔法鞄マジックパックに入れてちゃっちゃと持っていこうと思うんだけど」

「それじゃあちょっと待っててくれるかな! 師匠は先に行ってて大丈夫ですよ、お仕事もあるだろうし」

「いえ、せっかくですから私も一緒に行きましょう」

「ホームズさん、大丈夫なんですか?」

「少しくらいなら問題ありませんよ」


 そう言っている視線はフルムに向いているので、少しでも長く一緒にいたいのだろうと思えてしまう。

 まあ、この可愛さなら仕方ないだろう。特にガーレッドとセットになれば向かうところ敵なしである。


「ありがとうございます。それじゃあちょっと戻りま……フルム、ここで待っていられる?」

「ぎゃん!」

「一緒に連れて行ってあげなさい。幼獣は少しでも一緒にいてあげた方がいいですからね」

「……分かりました。行こう、フルム」

「わふっ!」


 抱き上げられたフルムはとても嬉しそうな鳴き声を上げると、そのままユウキと一緒に家に戻って行った。


「ホームズさんはゾラさんがこの提案をすると思っていたんですか?」

「いえ、全くの予想外でしたよ。ですが、これ程良い提案はないと思います」

「ホームズさんもいますし、『神の槌』が関わっているって知ったらほとんどの人が変なことを考えなくなりそうですからね」

「ガーレッドの時が例外中の例外だったのですよ」

「ピキャー?」


 攫われた当の本人は首を傾げており僕とホームズさんは苦笑する。

 しばらくして、ユウキは荷物を詰め込んだ大きな鞄を持ってきたので鞄ごと魔法鞄に突っ込んだ。


「……本当に便利だね、魔法鞄って」


 改めて魔法鞄の利便性に驚きを見せたユウキとフルムを連れて、僕たちは本部へと向かった。

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