ジンの授業

 僕たちが向かった先は、僕が最初に魔法を教えてもらった場所である背の高い木が生えているカマドと北の森のちょうど真ん中くらいの場所だ。

 周囲には生えている木しかなく、ちょっとした派手な魔法でも迷惑を掛けることはない。

 まあ、そんなことはしないんだけど。


「それじゃあ魔法の練習なんだけど、最初は火属性からやりたいと思います」

「風属性じゃないんですか?」


 昨日の掃除を見ていたからだろう、シルくんは風属性からだと思っていたようだ。


「風は目に見えないからイメージしにくいと思ったんだ。だから、まずは目に見える形で火属性から、慣れてきたところで風属性、そして時間があれば無属性ってやっていこうと思う」

「分かりました、よろしくお願いします!」


 礼儀正しくお辞儀までしてくれたシルくんを見て、ホームズさんは笑みを浮かべている。


「さすがは神父様ですね。礼儀正しい、いい子ではないですか」

「シルくんは年長さんで色々と手伝いもしてるんですよ」


 ホームズさんとユウキの会話を聞いて、シルくんは恥ずかしそうに視線を下に向けている。


「早速なんだけど、シルくんがどれくらい魔法を使えるかを見せてもらってもいいかな?」

「は、はい!」


 僕の問い掛けにも元気よく返事をしてくれたシルくんは、人差し指を立てて指先を見つめながら集中していく。

 おそらく指先から火を出すのだろう。これは僕もゾラさんに言われてやったことがある。

 あの時はまあ、もの凄い火力になってしまったけれどシルくんはどうだろうか。


 ──ボッ。


 しばらく待っていると、シルくんの指先から1センチあるかないかくらいの小さな火が点った。

 ちょっとした風でも消えてしまいそうな火なのだが、ユウキとホームズさんは拍手をしている。

 ……もしかして、最初はこんなものなのだろうか。そうだとしたら、僕の一発目って相当おかしな火力だったんだね。


「ど、どうですか?」

「それじゃあ、今度はゆっくりと火力を上げていこうか」

「えっ? こ、ここから──あっ!」


 シルくんが驚きの声をあげたのと同時に点っていた火が消えてしまった。

 ……えっ、あの、僕のせいですか? ホームズさんとユウキの視線が痛いんですけど!


「コープスさんは、やはり普通を知らないようですね」

「ど、どういうことですか?」

「レベル1で魔法操作に慣れていないと、普通はあれくらいなんだよ」

「……えっ? そうなの?」


 これは、結構根気のいる練習になりそうだな。

 そして、頭の中にあったシミュレーションを根本から直さなければならない。


「……うん、それじゃあまずは、今の火をどれくらい長く出し続けられるか。もしくは火力を上げられるかのどちらかをやってみたいんだけど、どっちがいいかな?」

「俺は……うん、火力を上げてみたいです」

「シルくん、それはどうしてかな?」


 ユウキがシルくんの答えへの理由を聞いてきた。


「使いたい時に必要な火力だったり、風力を出せるようになりたいんです。風でゴミを集めるにしても、調整ができなかったら意味がないので」

「うん、ちゃんと理由があるなら問題ないよ。ジン、中断させてごめんね」


 シルくんの答えに納得したのか、ユウキは僕に練習を再開するようにと促してきた。


「それじゃあ、さっきみたいに小さな火を出してから、ゆっくり火力を上げていこう。大事なのはイメージ力だよ」

「イメージ力、ですか?」

「そう。そうだなぁ……僕が一度お手本を見せるから、そこからシルくんの中でイメージしてみてね」


 そう言って僕は人差し指を立てると、シルくんが出した火と同じくらいの大きさで点火する。

 そこから徐々に火力を上げていくのだが、今回は視覚からイメージしやすいように火の大きさを大きくしていく。

 ゆっくりと、それでいて確実に火力が上がっているのだと分かるように。

 最終的には1センチくらいの大きさから5センチくらいまで大きくなった。


「こんな感じで大きくするんだ。言葉で聞くよりも、目で見た方が分かりやすかったでしょ?」

「……コープスさん、こんな簡単にやるなんて、やっぱり凄いですね」

「イメージできたら意外と簡単だよ。シルくんもできるようになる、練習あるのみだ!」

「は、はい!」


 力強く返事をしてくれたシルくんは再び火を点して集中していく。

 一歩ずつではあるけれど、それが普通なのだ。僕が普通じゃないのだ。

 ……そう考えると、やっぱりホームズさんやユウキがいてくれて本当によかった。

 しばらくして──シルくんは3センチくらいの大きさまで火力を上げることに成功した。

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