冬支度
部屋で錬成のことを考えているとあっという間に五の鐘が鳴り、僕は急いで入り口まで向かう。すでにカズチとルルが待っており、すぐに謝るとそのまま本部を後にした。
「ねえねえ、どこに買い物に行くの?」
「とりあえず洋服屋さんかな。僕もそうだけど、ガーレッドにも暖かい洋服を買ってあげたいんだ」
「ガーレッドちゃんも?」
「ピキャン!」
「とりあえず西地区から見て回るか」
カズチもルルも頻繁に洋服を買うわけではないようで詳しくないらしい。
ルルは女の子だし意外だったが、女性物の洋服を買うわけではないので知っていたとしても行けなかっただろう。
しかし、片っ端から洋服屋さんに入っては色々と見て回っているのだがこれといったものに出会えない。
それはカズチも同じようで顔を合わせるたびに首を横に振っているのだ。
これは誰かに相談するべきだろうかと思っていると、その誰かが僕たちに声を掛けてきた。
「あれ、ジン?」
「それにルルさんにカズチさんも、こんにちは」
「あっ! フローラちゃんにユウキ君だ!」
「わふっ!」
「ピキャー!」
最初に気づいたルルがフローラの手を取って喜んでいる。
僕とカズチはユウキのところへ、鞄からガーレッドを出すと足元でフルムとはしゃいで楽しんでいた。
そこで事情を説明すると、それならとユウキが洋服屋を紹介してくれることになった。
「良いところを知ってるの?」
「うん。ジンとカズチは僕と身長も同じくらいだし、問題ないと思うよ」
僕はユウキより低く、カズチは高い。ユウキがちょうど真ん中の身長なので確かにちょうど良いかもしれない。
ただ、僕の身長がまあまあ低くなっちゃうのが気になるけど、そこもユウキは考慮してくれているだろう……たぶん。
ちなみに、ユウキはすでに本部から出て自分の家に戻っている。
ラドワニから戻って数日後には二人とも中級冒険者に上がっており知名度的にも問題はないだろうということになった。
そして、一番の判断基準はユウキの交友関係にある。
師匠が
僕とガーレッドが出会った時もゾラさんのおかげで多くの冒険者が助けてくれた。自衛ができるユウキが同じ条件だとは言わないけど、それでも上級冒険者と仲良くしているというのは大きな強みでもあった。
ガーレッドとフルムの歩みに合わせてのんびり進んでいたので時間は掛かってしまったが、僕たちはユウキおすすめの洋服屋さんに到着した。
外観は白塗りの壁に窓が左右に二つ、中央に木組みのドアが取り付けられている。
ステンドグラスだろうか、カラフルなガラスがドアの上部に取り付けられておりオシャレなお店だという第一印象だ。
――カランコロンカラン。
ユウキが中に入るとドアに取り付けられていた鈴が鳴り来店を知らせてくれる。
「いらっしゃいませ。おや、ライオネル様ではないですか」
「お久しぶりです、グレッシュさん」
おぉ、常連さんだということがすぐに分かるやり取りが目の前で行われている。ここが食事処なら『大将、いつもの』で注文が通ってしまうくらいには常連さんだ。
「今日は友人の冬物の洋服を探しに来ました」
ユウキの紹介で僕とカズチが自己紹介をするとグレッシュさんは笑顔で対応してくれた。
「よろしくお願いします。私は店主のスノウ・グレッシュと申します」
「あの、グレッシュさん。僕たちの洋服もそうなんですけど、霊獣の洋服とかもあったりしますか? なければ作れたりとか」
「霊獣の洋服、ですか?」
「ピキャー!」
「……おぉ、これはこれは、ユウキ様の霊獣と負けず劣らずに可愛らしいですね」
目元がトロンと下がったのを見ると、グレッシュさんも可愛いものが大好きなようだ。というか、ガーレッドとフルムが異常に可愛いんだけどね!
「申し訳ございませんが、霊獣の洋服というのは取り扱いがございません。ですが、多少値は張りますがオーダーメイドで作ることは可能です」
「本当ですか! お願いします!」
「でしたら、一度採寸をさせていただきたいのですが……ガーレッドさんもフルムさんと同じで幼獣ですか?」
グレッシュさんが気にしたのはすぐに大きくなるかどうか、ということだった。
今のサイズに合わせて作ることはもちろん可能だが、子供の成長は早いので多少大きめに作ることもあるのだとか。
炎晶石を食べさせ始めてからの成長は目を見張るものがあるので、僕は少し大きめで作ってもらうことにした。
「分かりました。では、ジン様とユウキ様は洋服を選んでおいてください。採寸ですが、念の為にどなたかご一緒してくれませんか?」
「だったら僕が行きますよ」
「わふっ!」
「ありがとうございます、ユウキ様」
霊獣の幼獣ということで、安全に作業をしているということを見せる必要があるのだろう。
ユウキが贔屓にしているお店なので安心しているが、そういうところを見せてくれるところも好感が持てる。
僕も今後はグレッシュさんのお店で洋服は買うことにしようかな。
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